空色の瞳に映るわたしは、あなたへ伝える言葉すら知らない

神崎みこ

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落ちるように沈む



――神子がいなくなり、そして神は沈黙する。




 神子と後に呼ばれる存在を呼び出したものたちは、当初落胆した。

ただ、手続きに従い、含む意味すら考えずに儀式を行ったのだ。理解できないモノは彼らの無能さを嘲る存在のように思え、必要以上に呼び出したモノを敵視してしまう。
仕方がないことだとはいえ、最初から彼らは掛け違っていたのだ。

歴史上初めて「人」を召喚してしまった彼らは、彼女の扱いに心底困り果てていた。

同じような造形をもつ、全く異質なモノ。

黒い髪も、こげ茶色の瞳も、そしてこちらをうかがうおどおどとした表情も、何もかもが周囲をいらだたせ、そして不安にさせていった。
冷静な第三者が見れば、ただ世界が引き離されたことによるパニック状態なのだと理解したのかもしれない。
だが、ただ神の声を聞き、咀嚼することもせず垂れ流してきた彼らには、そうする能力さえなくなってしまっていた。
やがて告げられた神子だという言葉に、彼らはようやく安堵した。
そして、大事にするふりをして、彼女を塔の上へと閉じ込めてしまった。

自分たちの能力を謳う、宣伝文句だけは忘れずに。
神子という奇跡の存在を呼び出した自分たちを称えるように、国中にそれを流布させた。

だが、その姿形は厳重に隠蔽された。

異質な、なのに、人らしきものを見れば誰もが不安になる。というもっともらしい理由を述べて。
彼女の存在は、信頼する神の声さえ、疑わしきものにすら思えるほど、彼らにとって異質であったのだ。
まして、言葉さえ通じぬのならば、それは数多いる獣と自分たちにとってどう違うのだと。
気まぐれに訪れる信仰心厚い王女と、職務に忠実な騎士以外近づかない塔を、彼らは目に入れないようにしながら、それでもようやく安定してきた世界を堪能することに集中した。

綻びは繕われ、信心深い人々は神へ感謝の言葉を捧げた。
幾度かの昼夜を越え、季節が移ろう頃、ひそやかにその知らせは伝えられた。

神子が、息絶えたと。

動揺は王宮内に広がり、神子と最も言葉を交わしていた王女は嘆き悲しんだ。
そして、神は沈黙した。
どれだけ位の高い神官が問うても、彼らの神は答えを返さなくなってしまった。
だが、それは素早く隠蔽され、神の言葉は、彼らの言葉に替えられていった。
神子の不在さえ隠され、国民は今まで通り、神へ感謝の言葉を口にする。


国が、ほころび始める。


最も、長きに渡る血縁での支配により、中枢は腐りきり、それらが崩れ落ちるのも時間の問題ではあった。
起死回生の意味あいでの召喚が、彼らに止めをさしてしまっただけだ。
落城する城で、城下を眺めながら王女が呟く。


「何を、間違ってしまったのかしら」


聖なる王女はすでにおらず、彼女は国民にとって血税を贅沢に使う悪魔のような女と成り下がっている。
彼女の純粋でありそれゆえ無知な本質は変わらない。
ただ、それを許していられる土壌がなくなってしまっただけだ。
何も知ろうとはしなかった王女だけを残し、矢面に立つべき強引に儀式を行った王子はすでにいない。
王女の手には、王家の紋章がついた小刀が握られている。

民衆の声が届く。

誉めそやされ、賞賛され続けてきた彼女にとっては耐えがたき罵声が。
王女は、ふと神子の事を思い出す。
心細そうで、何かを言いたそうで、でも何も言えなかった彼女を。
勝手に呼んで、勝手に役割を与え、そして勝手に死なせてしまった。

王女は、それを理解したわけではない。

それが、神と人との交流の再会への布石、だったかもしれないというのに。
そして、国は落ちるように沈んでいった。

ひとかけらの王族さえ残さずに。



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お題はcapriccio様(http://noir.sub.jp/cpr/)のいろはにほへとより。
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