パークラの荷物持ちと魔法使いがパーティーを組んだら

クロタ

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第3話 不機嫌な魔法使い

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「おい、ヤサ男。今なんつった? ああっ!?」

ドスの効いた濁声がギルド内の空気を震わす。
俺は目の前に展開されている光景を見て、瞬時に状況を理解した。

このギルドでは見かけない顔の男が、このギルド一厄介な男に絡まれている。

周りの冒険者達や受付嬢もどうしたものかと、手や口を出しかねている。
最高責任者はとオルコギルド長を見ると、彼も今は静観の構えだ。

酒場を併設するギルドでは、小競り合いや喧嘩は日常茶飯事だ。
建物や人命に被害を及ぼしそうになった時こそ静止するが、基本的に放任している。
オルコギルド長が口を出したのは、今現在皆の注目を浴びているギルド一の厄介者——ゴルフォが俺に絡んできた時だった。
あれはもう2、3年前の話になるか———


俺とアイツは同い年で、冒険者としてこのギルドに来た時期もほぼ一緒だった。
まあ同期と言ってもいい。
停滞していた俺と違って、レベルがぐんぐん伸びるゴルフォはそれはもう怖いもの無しだった。
俺に会うたび「まだそんなレベルかよ。一生荷物持ちだな」くらいの嫌味は日常茶飯事だ。
ヤツに限らず、似たような事はちょくちょく言われてたので、傷つく前に慣れてしまったが。

それが嫌味だけでなく暴力を伴ったのは、アイツの狙っていた女の子が俺を好きになったから……と言う、どうしようもない理由だった。
ゴルフォは徒手空拳の闘士で、アイツには俺と違って魔力がある。
魔力自体を攻撃に変えて使う魔法使いでなくても、自分の魔力を攻撃の補正に利用するのはよくある事だ。俺は出来ないけど。
そんなヤツの拳を受けたらどうなるかって、当然俺は壁まで吹っ飛んだ。
反撃するにも俺の得物は短剣だし、流血沙汰は避けられないと躊躇った結果だ。

次にゴルフォの拳が打ち込まれれば、俺の命は無かっただろう。
それを止めてくれたのが、オルコギルド長だった。

彼は難なくゴルフォの重い拳を受け止めると、ヤツを有無を言わさずギルド長室に連れ込んで、数時間出てこなかったらしい。
『らしい』というのも、俺は怪我の手当てで救護室に退場して、直接現場を見ていない。
ただ聞いた話だと、ギルド長室から解放されたゴルフォは真っ青な顔で、そこで何があったかは語ろうとしなかったそうだ。
それ以来ギルド長を恐れてか、俺に絡む事や他人に手を出すことは無くなったが、その態度は横柄で傍若無人なままだ。


———さて、問題は現在進行中だ。
俺はゴルフォに絡まれているらしき男に目をやった。

いかにも魔法職らしいローブに杖。
ゴルフォと同じくらいの身長………という事は、俺より少し高いな。
しかし身体の厚みはゴルフォの半分くらいしか無さそうだ。
曇天のような色合いの長髪を無造作に束ねているところからして、身なりに無頓着なのだろう。

俺が男を観察してる間にも、ゴルフォの怒りは増していく。
「こっちは親切で言ってやってんのに、何だ、その言い草は!?」
「親切? だとしたら迷惑だ。押し売りは他所でやれ」

おー、てっきり気圧されてるかと思ったら、けっこう強気だな。
ゴルフォの怒鳴り声にも引かずに、淡々と言い返している。

「テメエみたいなヒョロいのが、大ダンジョンなんか行けるかよ! だから俺達のパーティーに入れてやろうって言ってんだ! ああ、もちろん足手まといを入れてやるんだから、それなりの迷惑料はいただくぞ!」
どこの世界のパーティーに、メンバーから迷惑料を徴収するリーダーが居るんだ。
聞いてるだけで頭が痛くなる理屈だが、類は友を呼ぶと言うか、今のゴルフォのパーティーメンバーもレベルは高いが素行は良くない。
ニヤニヤと頭の悪いリーダーに同調しているばかりで、誰1人止めようとしない。

俺はヤキモキしてオルコギルド長を見るが、やっぱりまだ口を出す気は無いらしい。
もしこれで喧嘩になったら、闘士のゴルフォと魔法職の男では、非がゴルフォにあったとしても男の方が分が悪い。
男の専門魔法が何か知らないが、魔力が強ければ強いほど、その攻撃は周りを巻き込んでしまう。
ダンジョンでもそうだ。
狭いダンジョン内では使い勝手が悪い為、回復や付与以外の魔法職は冷遇されがちだ。
見るからに魔法職の男が絡まれたのも、それが原因だろう。

俺はいざとなったら男を止めようと、ジッと成り行きを見守った。
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