3 / 28
第3話 不機嫌な魔法使い
しおりを挟む
「おい、ヤサ男。今なんつった? ああっ!?」
ドスの効いた濁声がギルド内の空気を震わす。
俺は目の前に展開されている光景を見て、瞬時に状況を理解した。
このギルドでは見かけない顔の男が、このギルド一厄介な男に絡まれている。
周りの冒険者達や受付嬢もどうしたものかと、手や口を出しかねている。
最高責任者はとオルコギルド長を見ると、彼も今は静観の構えだ。
酒場を併設するギルドでは、小競り合いや喧嘩は日常茶飯事だ。
建物や人命に被害を及ぼしそうになった時こそ静止するが、基本的に放任している。
オルコギルド長が口を出したのは、今現在皆の注目を浴びているギルド一の厄介者——ゴルフォが俺に絡んできた時だった。
あれはもう2、3年前の話になるか———
俺とアイツは同い年で、冒険者としてこのギルドに来た時期もほぼ一緒だった。
まあ同期と言ってもいい。
停滞していた俺と違って、レベルがぐんぐん伸びるゴルフォはそれはもう怖いもの無しだった。
俺に会うたび「まだそんなレベルかよ。一生荷物持ちだな」くらいの嫌味は日常茶飯事だ。
ヤツに限らず、似たような事はちょくちょく言われてたので、傷つく前に慣れてしまったが。
それが嫌味だけでなく暴力を伴ったのは、アイツの狙っていた女の子が俺を好きになったから……と言う、どうしようもない理由だった。
ゴルフォは徒手空拳の闘士で、アイツには俺と違って魔力がある。
魔力自体を攻撃に変えて使う魔法使いでなくても、自分の魔力を攻撃の補正に利用するのはよくある事だ。俺は出来ないけど。
そんなヤツの拳を受けたらどうなるかって、当然俺は壁まで吹っ飛んだ。
反撃するにも俺の得物は短剣だし、流血沙汰は避けられないと躊躇った結果だ。
次にゴルフォの拳が打ち込まれれば、俺の命は無かっただろう。
それを止めてくれたのが、オルコギルド長だった。
彼は難なくゴルフォの重い拳を受け止めると、ヤツを有無を言わさずギルド長室に連れ込んで、数時間出てこなかったらしい。
『らしい』というのも、俺は怪我の手当てで救護室に退場して、直接現場を見ていない。
ただ聞いた話だと、ギルド長室から解放されたゴルフォは真っ青な顔で、そこで何があったかは語ろうとしなかったそうだ。
それ以来ギルド長を恐れてか、俺に絡む事や他人に手を出すことは無くなったが、その態度は横柄で傍若無人なままだ。
———さて、問題は現在進行中だ。
俺はゴルフォに絡まれているらしき男に目をやった。
いかにも魔法職らしいローブに杖。
ゴルフォと同じくらいの身長………という事は、俺より少し高いな。
しかし身体の厚みはゴルフォの半分くらいしか無さそうだ。
曇天のような色合いの長髪を無造作に束ねているところからして、身なりに無頓着なのだろう。
俺が男を観察してる間にも、ゴルフォの怒りは増していく。
「こっちは親切で言ってやってんのに、何だ、その言い草は!?」
「親切? だとしたら迷惑だ。押し売りは他所でやれ」
おー、てっきり気圧されてるかと思ったら、けっこう強気だな。
ゴルフォの怒鳴り声にも引かずに、淡々と言い返している。
「テメエみたいなヒョロいのが、大ダンジョンなんか行けるかよ! だから俺達のパーティーに入れてやろうって言ってんだ! ああ、もちろん足手まといを入れてやるんだから、それなりの迷惑料はいただくぞ!」
どこの世界のパーティーに、メンバーから迷惑料を徴収するリーダーが居るんだ。
聞いてるだけで頭が痛くなる理屈だが、類は友を呼ぶと言うか、今のゴルフォのパーティーメンバーもレベルは高いが素行は良くない。
ニヤニヤと頭の悪いリーダーに同調しているばかりで、誰1人止めようとしない。
俺はヤキモキしてオルコギルド長を見るが、やっぱりまだ口を出す気は無いらしい。
もしこれで喧嘩になったら、闘士のゴルフォと魔法職の男では、非がゴルフォにあったとしても男の方が分が悪い。
男の専門魔法が何か知らないが、魔力が強ければ強いほど、その攻撃は周りを巻き込んでしまう。
ダンジョンでもそうだ。
狭いダンジョン内では使い勝手が悪い為、回復や付与以外の魔法職は冷遇されがちだ。
見るからに魔法職の男が絡まれたのも、それが原因だろう。
俺はいざとなったら男を止めようと、ジッと成り行きを見守った。
ドスの効いた濁声がギルド内の空気を震わす。
俺は目の前に展開されている光景を見て、瞬時に状況を理解した。
このギルドでは見かけない顔の男が、このギルド一厄介な男に絡まれている。
周りの冒険者達や受付嬢もどうしたものかと、手や口を出しかねている。
最高責任者はとオルコギルド長を見ると、彼も今は静観の構えだ。
酒場を併設するギルドでは、小競り合いや喧嘩は日常茶飯事だ。
建物や人命に被害を及ぼしそうになった時こそ静止するが、基本的に放任している。
オルコギルド長が口を出したのは、今現在皆の注目を浴びているギルド一の厄介者——ゴルフォが俺に絡んできた時だった。
あれはもう2、3年前の話になるか———
俺とアイツは同い年で、冒険者としてこのギルドに来た時期もほぼ一緒だった。
まあ同期と言ってもいい。
停滞していた俺と違って、レベルがぐんぐん伸びるゴルフォはそれはもう怖いもの無しだった。
俺に会うたび「まだそんなレベルかよ。一生荷物持ちだな」くらいの嫌味は日常茶飯事だ。
ヤツに限らず、似たような事はちょくちょく言われてたので、傷つく前に慣れてしまったが。
それが嫌味だけでなく暴力を伴ったのは、アイツの狙っていた女の子が俺を好きになったから……と言う、どうしようもない理由だった。
ゴルフォは徒手空拳の闘士で、アイツには俺と違って魔力がある。
魔力自体を攻撃に変えて使う魔法使いでなくても、自分の魔力を攻撃の補正に利用するのはよくある事だ。俺は出来ないけど。
そんなヤツの拳を受けたらどうなるかって、当然俺は壁まで吹っ飛んだ。
反撃するにも俺の得物は短剣だし、流血沙汰は避けられないと躊躇った結果だ。
次にゴルフォの拳が打ち込まれれば、俺の命は無かっただろう。
それを止めてくれたのが、オルコギルド長だった。
彼は難なくゴルフォの重い拳を受け止めると、ヤツを有無を言わさずギルド長室に連れ込んで、数時間出てこなかったらしい。
『らしい』というのも、俺は怪我の手当てで救護室に退場して、直接現場を見ていない。
ただ聞いた話だと、ギルド長室から解放されたゴルフォは真っ青な顔で、そこで何があったかは語ろうとしなかったそうだ。
それ以来ギルド長を恐れてか、俺に絡む事や他人に手を出すことは無くなったが、その態度は横柄で傍若無人なままだ。
———さて、問題は現在進行中だ。
俺はゴルフォに絡まれているらしき男に目をやった。
いかにも魔法職らしいローブに杖。
ゴルフォと同じくらいの身長………という事は、俺より少し高いな。
しかし身体の厚みはゴルフォの半分くらいしか無さそうだ。
曇天のような色合いの長髪を無造作に束ねているところからして、身なりに無頓着なのだろう。
俺が男を観察してる間にも、ゴルフォの怒りは増していく。
「こっちは親切で言ってやってんのに、何だ、その言い草は!?」
「親切? だとしたら迷惑だ。押し売りは他所でやれ」
おー、てっきり気圧されてるかと思ったら、けっこう強気だな。
ゴルフォの怒鳴り声にも引かずに、淡々と言い返している。
「テメエみたいなヒョロいのが、大ダンジョンなんか行けるかよ! だから俺達のパーティーに入れてやろうって言ってんだ! ああ、もちろん足手まといを入れてやるんだから、それなりの迷惑料はいただくぞ!」
どこの世界のパーティーに、メンバーから迷惑料を徴収するリーダーが居るんだ。
聞いてるだけで頭が痛くなる理屈だが、類は友を呼ぶと言うか、今のゴルフォのパーティーメンバーもレベルは高いが素行は良くない。
ニヤニヤと頭の悪いリーダーに同調しているばかりで、誰1人止めようとしない。
俺はヤキモキしてオルコギルド長を見るが、やっぱりまだ口を出す気は無いらしい。
もしこれで喧嘩になったら、闘士のゴルフォと魔法職の男では、非がゴルフォにあったとしても男の方が分が悪い。
男の専門魔法が何か知らないが、魔力が強ければ強いほど、その攻撃は周りを巻き込んでしまう。
ダンジョンでもそうだ。
狭いダンジョン内では使い勝手が悪い為、回復や付与以外の魔法職は冷遇されがちだ。
見るからに魔法職の男が絡まれたのも、それが原因だろう。
俺はいざとなったら男を止めようと、ジッと成り行きを見守った。
1
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる