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第18話 新たな武器
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———その日の午後、2度目の第50階層に俺とロワは降り立った。
日を跨いだので昨日『モザイク』がいた階層とは景色が全く違う。
レベルが上がったとは言え、さすがに『モザイク』相手じゃ俺はもちろん、ロワの手にも負えないから、ホッと一安心だ。
今、目の前には見渡す限りの広大な草原。そして天井は青空で、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。
ここがダンジョンであると言う先入観が無ければ、実にのんびりとした風景だ。
俺達の視線の先には、何頭もの羊が草を食んでいる。
「『多耳目大羊(タジモクオオヒツジ)』だな」
俺は木の影からヤツらを見て、魔物の種類を特定する。
その名の通り、耳と目の数が通常の羊より多くて、身体も倍以上違う。
遠くから草を食んでる姿は平和そのものだが、人間の姿を見たが最後、牛のように突進して来るのは確実だ。
「アレは食べられるな」
「……ロワ、そこは『やれるか』とか確認するところじゃないのか」
「その必要はない。『モザイク』より格下なら、お前に倒せない事はないだろう」
「それは買い被り過ぎだな」
そう言いつつも、相手が『多耳目大羊』である事に俺は安堵した。
アレなら数頭だけど、過去に倒した事がある。
相手は格下で楽勝——と、気楽にいきたいところだが、問題はその数だ。
「………100頭はいるよな」
「今のラントなら楽勝だろう」
ロワは簡単に言ってくれるが、『多耳目大羊』はあの巨体で敏捷性はかなりのものだ。
それを100頭となると、俺1人の力で捌き切れるかどうか………。
「私はお前の防御に徹する。私が教えた通りにやれば大丈夫だ」
俺の言葉を待たずに、ロワが木陰から立ち上がり、魔物達の注意を引きつけた。
「おい! お前らの標的はここにいるぞ!」
その途端、平和な空気が霧散した。
もうこれで後戻りは出来ない。俺は覚悟を決め、『多耳目大羊』の前に姿を現した。
ドドドドドドッと、土煙を上げて魔物の群れが俺目掛けて向かって来る。
『想像しろ。まず、魔力を全身に巡らせ、身体能力を上げろ』
ロワの教えを思い出す。
血流に沿って魔力が流れる様を想像する。身体の中心から指先の末端に至るまで。
今なら魔力の流れを感じられる。
ああ、これが魔力が『ある』って感覚なんだ。
しかし感慨に浸る暇はない。
目前に迫った魔物を前に、俺は短剣を構える。
『攻撃も同様だ。ラントの場合は短剣だな。剣に魔力を流して纏わせるんだ。炎でも水でも氷でも良い。想像しろ。自分にとって何が最適解かを———』
再び脳内にロワの言葉が響いた。
他の剣を得物とする冒険者は、確かに魔力で刃に炎を纏わせ魔物を焼き殺したり、氷を礫のように放ったりしていた。
じゃあ、俺はどうする?
考えるより、頭にまず思い浮かんだ。
上手く出来るかどうか分からないが、最高のお手本なら今まで散々見てきたじゃないか。
「ヴェェェェェェッッ!!!」
先頭にいた3頭が地面を蹴り上げ、俺目掛けて襲い掛かる。
次の瞬間の光景が俺には想像出来た。
身体もそれに従い流れるように動く。
ヤツらを避けざま、その首筋を短剣で一閃する。
実際、刃を当てる必要は無い。
刃先に纏わせた魔力が見えない刃となり、魔物の肉を斬り骨を断った。
悲鳴を上げる間も無く、ゴロリと地面に3つの首が転がり絶命する。
「———はっ……」
我ながら凄い威力だ。
魔力の有無でこんなに差があるのか。
今までの俺だったら、1頭を倒すのだって何回も斬り込まないと無理だったし、当然3頭同時なんて論外だ。
俺の想像元はロワの攻撃方法にあった。
彼は風魔法を伸縮自在の剣のように扱い、魔物達を一網打尽していた。
俺はそれを真似たのだ。
「おい! ぼうっとするな。まだまだ来るぞ」
「っ! わ、分かってるよ!!」
ロワに言われるまでもない。仲間を殺されても臆する事なく『多耳目大羊』は大挙して突っ込んでくる。
これは全部倒すまで息つく暇もないな。
いっそう気を引き締めて、俺達を殺しにくる魔物達と対峙した。
———実際、どのくらいの時間が経ったのだろう。
結論から言うと、俺はロワの手を借りる事なく『多耳目大羊』を全滅する事が出来た。
肉体的な疲労より緊張の糸が切れて、俺はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「お、終わった…………………………………………終わったんだよな?」
「ああ。辺りに魔物の反応は無い。しかし思ったよりかかったな」
「時間は仕方ないだろ。慣れてないんだから!」
「そうじゃない。魔力の消費量だ」
「えっ?」
魔法使いは断りも無く俺の冒険者カードを引っ掴むと、その数字を俺に見せつけた。
「レベル……『17』!?? 何で『27』から10も低くなってるんだ!?」
「このカードは所持者の魔力に敏感だ。ラントの魔力は自ら生み出すものではないからな。消費した分レベルの数字も差し引かれる」
ロワの冷静な言葉に恐ろしい想像がよぎる。
「じゃあ、また俺は『レベル10』に戻る可能性も………」
「大いにあるな」
「嘘だろ………」
ガックリと項垂れる俺をよそに、相棒はせっせと『多耳目大羊』の血抜きと解体に勤しんでいた。
日を跨いだので昨日『モザイク』がいた階層とは景色が全く違う。
レベルが上がったとは言え、さすがに『モザイク』相手じゃ俺はもちろん、ロワの手にも負えないから、ホッと一安心だ。
今、目の前には見渡す限りの広大な草原。そして天井は青空で、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。
ここがダンジョンであると言う先入観が無ければ、実にのんびりとした風景だ。
俺達の視線の先には、何頭もの羊が草を食んでいる。
「『多耳目大羊(タジモクオオヒツジ)』だな」
俺は木の影からヤツらを見て、魔物の種類を特定する。
その名の通り、耳と目の数が通常の羊より多くて、身体も倍以上違う。
遠くから草を食んでる姿は平和そのものだが、人間の姿を見たが最後、牛のように突進して来るのは確実だ。
「アレは食べられるな」
「……ロワ、そこは『やれるか』とか確認するところじゃないのか」
「その必要はない。『モザイク』より格下なら、お前に倒せない事はないだろう」
「それは買い被り過ぎだな」
そう言いつつも、相手が『多耳目大羊』である事に俺は安堵した。
アレなら数頭だけど、過去に倒した事がある。
相手は格下で楽勝——と、気楽にいきたいところだが、問題はその数だ。
「………100頭はいるよな」
「今のラントなら楽勝だろう」
ロワは簡単に言ってくれるが、『多耳目大羊』はあの巨体で敏捷性はかなりのものだ。
それを100頭となると、俺1人の力で捌き切れるかどうか………。
「私はお前の防御に徹する。私が教えた通りにやれば大丈夫だ」
俺の言葉を待たずに、ロワが木陰から立ち上がり、魔物達の注意を引きつけた。
「おい! お前らの標的はここにいるぞ!」
その途端、平和な空気が霧散した。
もうこれで後戻りは出来ない。俺は覚悟を決め、『多耳目大羊』の前に姿を現した。
ドドドドドドッと、土煙を上げて魔物の群れが俺目掛けて向かって来る。
『想像しろ。まず、魔力を全身に巡らせ、身体能力を上げろ』
ロワの教えを思い出す。
血流に沿って魔力が流れる様を想像する。身体の中心から指先の末端に至るまで。
今なら魔力の流れを感じられる。
ああ、これが魔力が『ある』って感覚なんだ。
しかし感慨に浸る暇はない。
目前に迫った魔物を前に、俺は短剣を構える。
『攻撃も同様だ。ラントの場合は短剣だな。剣に魔力を流して纏わせるんだ。炎でも水でも氷でも良い。想像しろ。自分にとって何が最適解かを———』
再び脳内にロワの言葉が響いた。
他の剣を得物とする冒険者は、確かに魔力で刃に炎を纏わせ魔物を焼き殺したり、氷を礫のように放ったりしていた。
じゃあ、俺はどうする?
考えるより、頭にまず思い浮かんだ。
上手く出来るかどうか分からないが、最高のお手本なら今まで散々見てきたじゃないか。
「ヴェェェェェェッッ!!!」
先頭にいた3頭が地面を蹴り上げ、俺目掛けて襲い掛かる。
次の瞬間の光景が俺には想像出来た。
身体もそれに従い流れるように動く。
ヤツらを避けざま、その首筋を短剣で一閃する。
実際、刃を当てる必要は無い。
刃先に纏わせた魔力が見えない刃となり、魔物の肉を斬り骨を断った。
悲鳴を上げる間も無く、ゴロリと地面に3つの首が転がり絶命する。
「———はっ……」
我ながら凄い威力だ。
魔力の有無でこんなに差があるのか。
今までの俺だったら、1頭を倒すのだって何回も斬り込まないと無理だったし、当然3頭同時なんて論外だ。
俺の想像元はロワの攻撃方法にあった。
彼は風魔法を伸縮自在の剣のように扱い、魔物達を一網打尽していた。
俺はそれを真似たのだ。
「おい! ぼうっとするな。まだまだ来るぞ」
「っ! わ、分かってるよ!!」
ロワに言われるまでもない。仲間を殺されても臆する事なく『多耳目大羊』は大挙して突っ込んでくる。
これは全部倒すまで息つく暇もないな。
いっそう気を引き締めて、俺達を殺しにくる魔物達と対峙した。
———実際、どのくらいの時間が経ったのだろう。
結論から言うと、俺はロワの手を借りる事なく『多耳目大羊』を全滅する事が出来た。
肉体的な疲労より緊張の糸が切れて、俺はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「お、終わった…………………………………………終わったんだよな?」
「ああ。辺りに魔物の反応は無い。しかし思ったよりかかったな」
「時間は仕方ないだろ。慣れてないんだから!」
「そうじゃない。魔力の消費量だ」
「えっ?」
魔法使いは断りも無く俺の冒険者カードを引っ掴むと、その数字を俺に見せつけた。
「レベル……『17』!?? 何で『27』から10も低くなってるんだ!?」
「このカードは所持者の魔力に敏感だ。ラントの魔力は自ら生み出すものではないからな。消費した分レベルの数字も差し引かれる」
ロワの冷静な言葉に恐ろしい想像がよぎる。
「じゃあ、また俺は『レベル10』に戻る可能性も………」
「大いにあるな」
「嘘だろ………」
ガックリと項垂れる俺をよそに、相棒はせっせと『多耳目大羊』の血抜きと解体に勤しんでいた。
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