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第20話 吸収と放出
「レベル…………………………『37』ぁぁぁぁぁっ!!??」
淫欲の限りを尽くしたような夜が明け、恐る恐る冒険者カードを確認してみれば、そこには驚くべき数字が並んでいた。
「ふむ。思ったより低かったな」
「いやいや!? 俺には未知の領域なんだけど!!??」
『レベル50』越えの魔法使い様には大した事ない数字でも、俺にとっては大事件だ。
一夜明けた第50階層は昨日と同じように平和な風景が広がっている。
違うのは最初からいた『多耳目大羊』が昨日俺達が一掃した為、これから再びワラワラ出てくる事だ。
ロワにとって、ここに留まると言う選択肢は無いだろう。
朝から脂っぽいのはキツイかと思ったが、彼は大きく切って焼いた『多耳目大羊』の串焼きを涼しい顔で平らげている。その串ももう10本目だ。
黙々と魔物の肉を咀嚼する様子に、昨夜の淫靡な余韻は欠片も見当たらない。
それにちょっとホッとする。
俺の方は意識して外へ追いやらないと、昨夜の痴態を思い出してしまうからだ。
あんな自分を知りたくはなかった…………………。
20本目の串焼きを腹に収めた後、「今日は第51階層に降りる」とロワが当然のように言った。
予想していた事なので俺にも異論は無い。
「ただし第51階層の魔物が『モザイク』だった場合は撤退する」
「…………ロワがまともなことを言ってる」
「あ?」
ドスの効いた声と共にジロリと睨まれたが、俺には衝撃の方が強い。
「あんたに比べればまだまだだけど、俺も『レベル37』に上がったんだ。無理を押し通すかと思った。まあ、その場合は俺が止めるけど」
「私だってそこまで無謀じゃない。先日相対してみて、アレはお前が私と同等のレベルに達していなければ無理だ。それまでは無茶をしない」
「俺を『レベル50』にするつもりなのか!?」
「ああ」
真っ直ぐに俺を見て、ロワが頷いた。
今の『レベル37』だって、つい先日までの俺なら信じられない事だ。
けれどロワは隠し事はしても嘘は言わないだろう。
だったら叶わないと諦めていた『レベル50』も不可能じゃない。
対人関係を築く能力にはいささか欠けるが、こと魔法や魔力に関する事で俺のロワへの信頼は絶対だ。
歓喜に思わず顔が緩みそうになるが、水を差すように一つの懸念が思い浮かんだ。
「でも、俺の魔力は使ったら消費されて消えるんだろ? その…………供給には限界があるから、やっぱり難しいんじゃないのか?」
ぬか喜びはしたくない。
慎重にそう確認すると、相棒は少し考えるように顎に手をやった。
「確かに。私の魔力を直接ラントに供給する方法があれば良いが、今のところ精気で渡すしかない。まあ、いざとなれば一日中体力が尽きるまでお前を抱くのもやぶさかではないが」
「それは最後の手段にしてくれ」
ロワの体力より俺の羞恥心の方が、きっと持たない。
「だから戦闘時における魔力使用の効率を高める」
「………………つまり?」
出来の悪い生徒を諭すように、彼は眉間に皺を寄せつつもこう続けた。
「お前の魔力放出の仕方は雑で効率が悪い。要するに攻撃時に余分な魔力を使い過ぎだ」
「無駄があるって事か?」
「そうだ。今まで自覚して使った事がないのだから仕方が無いが………昨日程度の戦闘なら、半分の魔力量でいけた筈だ」
「そんなに違うのか!?」
ロワが無言で頷く。
「………だったら、あれか。魔物を倒して、残った魔力にロワからの精気を継ぎ足していけば、ゆくゆくは『レベル50』になれると………?」
「そう言う事だ。お前の地力は元々悪くなかったんだ。ただ自ら魔力を作る能力が弱かった。通常の生活でどれだけ魔力を消費するかは、観察を続けなければ分からないが………攻撃で消費する分さえ抑えれば増えていくだろう。毎日私と性交し続ければな」
「毎日……………」
最後の言葉は引っ掛かるが、俺達は一時的なパーティーだ。
この肉体関係も一時的なものだと思えば、なんとか受け入れられる。大丈夫だ。
「さて、そろそろ行くか。実地で私の助言を受けながら身体で覚えた方が効率が良い」
「ああ。そうだな」
ぼやぼやしていると新たに湧いた『多耳目大羊』に襲撃されかねない。
今の俺なら昨日より楽に一掃出来るだろうが、今日は次の階層の魔物に注力したい。
野営を片付け荷物——と言っても本当に必要最低限だが、背中に背負い一歩踏み出したところでガクンと後ろに引っ張られた。
「何するんだ」と言い掛けて口を塞がれた。
「っっ!!??」
チュッと可愛らしい音を立てて、触れた時と同様に薄いロワの唇がさっと離れる。
「景気付けだ」
「はぁぁっ???」
至極真面目な顔で言われたら脱力するしかない。
確かに、口付けでも俺のチョロいレベルは上がりましたけども、今するなよっ!
こっちは昨夜の記憶を四苦八苦してやっと脳内から追い出したってのに———!!
そんな俺の苦労も知らないで、相棒は涼しい顔でとっとと先に行ってしまった。
———そして到着した第51階層は、第50階層の草原とは打って変わって海だった。
何回経験してもこの落差には一瞬言葉を無くす。
ロワもそうかと思いきや、「ラントは海を見た事があるか?」と予想外の質問が飛んできた。
「いや、本物はないな。俺はピオネロの孤児院育ちでこの街から出た事がないから、ダンジョンでしか海を知らない」
「そうか」
「ロワは?」
「ある。遊びで行った事はないが」
いかにも彼らしい答えだ。
「さて、のんびりしてる暇はなさそうだぞ」
「ああ、来るな」
言われるまでもなく、海の遙か彼方から何かが大挙して押し寄せてくる気配がした。
短剣を手に待ち構える俺を横目に、ロワは悠然と杖を振るい、皮膜のように薄い魔力の防御壁を自身と俺に纏わせる。
「昨日と同様に私は守備に徹する。今日のは……風では相性が悪い。炎を使え」
「炎!?」
「心配するな。元は私の魔力だ。出来ないはずが無い」
ロワは自信満々に断言するが、俺はちょっと心許ない。
しかし今日の魔物は彼の言うとおり、昨日と同じ攻撃の仕方では刃が通るか分からないのも確かだ。
俺は深く息を吸い込み、吐き出した。
大丈夫、俺は出来る! レベルも上がった! いざと言う時にはロワが何とかしてくれる!
海からの大群が波を掻き分け、いよいよその姿を俺達の前に現した。
「来たな『亀もどき(カメモドキ)』!」
『亀もどき』———その名のとおり亀に似た魔物だ。
ただし似ているのは形状だけで、他は何もかもが違っている。
そもそもその肉体だ。
個体差もあるが、普通の亀より何十倍もの巨体で、身体全部が鉱物のように硬い。
特に甲羅部分は頑丈で防具などの素材になる。
まあ、ロワにとって食べられる物以外は無用の長物なので、今回は回収を断念せざるを得ないが。
「来るぞ!」
ロワの声が合図になった。
『亀もどき』達は海から出るや、駒のように回転し始める。
単純にあの速度と巨体でぶつかれば、人間の骨など簡単に折れてしまう。それ以上に恐ろしいのが、普通の亀とは違い、ヤツらは鋭い爪を持ち甲羅の縁部分が刃物のように尖っている事だ。
そんな凶器が物凄い速さで回転してぶつかって来るのだから、触れた瞬間、身体がズタズタになってしまう。『レベル10』の俺だったら、迷わず尻尾を巻いて逃げる相手だ。
「とりあえず1匹倒してみろ、ラント」
ロワは指示すると同時に、魔力による防御壁を展開させた。
今度は膜ではなく、透明な壁だ。
突如出現した透明な壁に何匹かの『亀もどき』が間に合わずぶつかり、盛大に弾き飛ばされる。
しかしむっくり立ち上がるところを見ると、大した怪我はしていないらしい。
ロワの展開した防御壁は遙か彼方まで伸び、進行を邪魔された魔物達がヨジヨジと他の個体によじ登り、さながら亀の壁を築いている。
「魔力を剣に流せ。壁に穴を開け、ヤツらを1匹ずつ通す」
いよいよだ。
ロワに頷き返し、先日の戦闘と同様に脳裏に思い描く。
ロワ自身は炎を使う事はあまりなかったが、過去に所属していたパーティーで炎を剣に纏わせる剣士は何人も見てきた。それを思い出す。
「ふぅ———」
息を細く吐くと同時に、魔力を指の先まで行き渡らせる。
魔物を倒すのが第一義であるが、今回はロワの言うとおり消費効率も考えなくてはいけない。
無駄なく効率的に。俺の魔力は有限だから。
火打ち石で点火する映像を脳裏に描く———と、次の瞬間、刃に炎が蛇がとぐろを巻くように、グルリと巻き付いた。
ボオオオォォォォォォォォッ
ロワが防御壁の魔力を一部解除させるのと、俺が跳ぶのは同時だった。
壁の穴から飛び込んできた『亀もどき』に勢いをつけて短剣を叩き込む。
ガツンと大きな音を立てて魔物が地に落ちる。
炎がヤツの甲羅を焼き、刃が中まで届いた感触があった。だけど、まだ足りない。
起き上がりかけたそいつの首に短剣を突き立て、ようやく絶命させた。
しかしこれでは2匹目の攻撃に対処出来ない。
案の定モタモタしているうちに次の『亀もどき』が俺の眼前に迫っていた。
駄目だ。攻撃が間に合わな———
バンッッッッッ!!!
俺にぶつかる直前で、見えない壁によって魔物が弾き飛ばされた。
ロワが間一髪のところで防御壁の穴を再び塞いでくれたようだ。
「火力を上げろ! 一刀で決めて見せろ!」
後ろから声が掛かる。
確かにロワの防御壁が無ければ、あっという間に俺はコイツらに殺されていた。
多数に無勢で、手間暇かけていては命に関わる。
切り替えろ。
一心に念じると、刃に纏った炎の色と勢いが目に見えて変化した。
なるほどこういう事かと、魔力が身体に馴染むにつれ、体感して理解する。
少しずつだが、俺も魔力の使い方が分かってきたような気がする———
俺の変化を感じ取ったのか、ニヤリとロワが笑う。
「よし、次は2匹だ。さっさと一掃するぞ」
「ああ!」
閉じた壁が再び開かれた。
俺は今度こそ突っ込んできた『亀もどき』を、一刀のもとに斬り伏せた。
淫欲の限りを尽くしたような夜が明け、恐る恐る冒険者カードを確認してみれば、そこには驚くべき数字が並んでいた。
「ふむ。思ったより低かったな」
「いやいや!? 俺には未知の領域なんだけど!!??」
『レベル50』越えの魔法使い様には大した事ない数字でも、俺にとっては大事件だ。
一夜明けた第50階層は昨日と同じように平和な風景が広がっている。
違うのは最初からいた『多耳目大羊』が昨日俺達が一掃した為、これから再びワラワラ出てくる事だ。
ロワにとって、ここに留まると言う選択肢は無いだろう。
朝から脂っぽいのはキツイかと思ったが、彼は大きく切って焼いた『多耳目大羊』の串焼きを涼しい顔で平らげている。その串ももう10本目だ。
黙々と魔物の肉を咀嚼する様子に、昨夜の淫靡な余韻は欠片も見当たらない。
それにちょっとホッとする。
俺の方は意識して外へ追いやらないと、昨夜の痴態を思い出してしまうからだ。
あんな自分を知りたくはなかった…………………。
20本目の串焼きを腹に収めた後、「今日は第51階層に降りる」とロワが当然のように言った。
予想していた事なので俺にも異論は無い。
「ただし第51階層の魔物が『モザイク』だった場合は撤退する」
「…………ロワがまともなことを言ってる」
「あ?」
ドスの効いた声と共にジロリと睨まれたが、俺には衝撃の方が強い。
「あんたに比べればまだまだだけど、俺も『レベル37』に上がったんだ。無理を押し通すかと思った。まあ、その場合は俺が止めるけど」
「私だってそこまで無謀じゃない。先日相対してみて、アレはお前が私と同等のレベルに達していなければ無理だ。それまでは無茶をしない」
「俺を『レベル50』にするつもりなのか!?」
「ああ」
真っ直ぐに俺を見て、ロワが頷いた。
今の『レベル37』だって、つい先日までの俺なら信じられない事だ。
けれどロワは隠し事はしても嘘は言わないだろう。
だったら叶わないと諦めていた『レベル50』も不可能じゃない。
対人関係を築く能力にはいささか欠けるが、こと魔法や魔力に関する事で俺のロワへの信頼は絶対だ。
歓喜に思わず顔が緩みそうになるが、水を差すように一つの懸念が思い浮かんだ。
「でも、俺の魔力は使ったら消費されて消えるんだろ? その…………供給には限界があるから、やっぱり難しいんじゃないのか?」
ぬか喜びはしたくない。
慎重にそう確認すると、相棒は少し考えるように顎に手をやった。
「確かに。私の魔力を直接ラントに供給する方法があれば良いが、今のところ精気で渡すしかない。まあ、いざとなれば一日中体力が尽きるまでお前を抱くのもやぶさかではないが」
「それは最後の手段にしてくれ」
ロワの体力より俺の羞恥心の方が、きっと持たない。
「だから戦闘時における魔力使用の効率を高める」
「………………つまり?」
出来の悪い生徒を諭すように、彼は眉間に皺を寄せつつもこう続けた。
「お前の魔力放出の仕方は雑で効率が悪い。要するに攻撃時に余分な魔力を使い過ぎだ」
「無駄があるって事か?」
「そうだ。今まで自覚して使った事がないのだから仕方が無いが………昨日程度の戦闘なら、半分の魔力量でいけた筈だ」
「そんなに違うのか!?」
ロワが無言で頷く。
「………だったら、あれか。魔物を倒して、残った魔力にロワからの精気を継ぎ足していけば、ゆくゆくは『レベル50』になれると………?」
「そう言う事だ。お前の地力は元々悪くなかったんだ。ただ自ら魔力を作る能力が弱かった。通常の生活でどれだけ魔力を消費するかは、観察を続けなければ分からないが………攻撃で消費する分さえ抑えれば増えていくだろう。毎日私と性交し続ければな」
「毎日……………」
最後の言葉は引っ掛かるが、俺達は一時的なパーティーだ。
この肉体関係も一時的なものだと思えば、なんとか受け入れられる。大丈夫だ。
「さて、そろそろ行くか。実地で私の助言を受けながら身体で覚えた方が効率が良い」
「ああ。そうだな」
ぼやぼやしていると新たに湧いた『多耳目大羊』に襲撃されかねない。
今の俺なら昨日より楽に一掃出来るだろうが、今日は次の階層の魔物に注力したい。
野営を片付け荷物——と言っても本当に必要最低限だが、背中に背負い一歩踏み出したところでガクンと後ろに引っ張られた。
「何するんだ」と言い掛けて口を塞がれた。
「っっ!!??」
チュッと可愛らしい音を立てて、触れた時と同様に薄いロワの唇がさっと離れる。
「景気付けだ」
「はぁぁっ???」
至極真面目な顔で言われたら脱力するしかない。
確かに、口付けでも俺のチョロいレベルは上がりましたけども、今するなよっ!
こっちは昨夜の記憶を四苦八苦してやっと脳内から追い出したってのに———!!
そんな俺の苦労も知らないで、相棒は涼しい顔でとっとと先に行ってしまった。
———そして到着した第51階層は、第50階層の草原とは打って変わって海だった。
何回経験してもこの落差には一瞬言葉を無くす。
ロワもそうかと思いきや、「ラントは海を見た事があるか?」と予想外の質問が飛んできた。
「いや、本物はないな。俺はピオネロの孤児院育ちでこの街から出た事がないから、ダンジョンでしか海を知らない」
「そうか」
「ロワは?」
「ある。遊びで行った事はないが」
いかにも彼らしい答えだ。
「さて、のんびりしてる暇はなさそうだぞ」
「ああ、来るな」
言われるまでもなく、海の遙か彼方から何かが大挙して押し寄せてくる気配がした。
短剣を手に待ち構える俺を横目に、ロワは悠然と杖を振るい、皮膜のように薄い魔力の防御壁を自身と俺に纏わせる。
「昨日と同様に私は守備に徹する。今日のは……風では相性が悪い。炎を使え」
「炎!?」
「心配するな。元は私の魔力だ。出来ないはずが無い」
ロワは自信満々に断言するが、俺はちょっと心許ない。
しかし今日の魔物は彼の言うとおり、昨日と同じ攻撃の仕方では刃が通るか分からないのも確かだ。
俺は深く息を吸い込み、吐き出した。
大丈夫、俺は出来る! レベルも上がった! いざと言う時にはロワが何とかしてくれる!
海からの大群が波を掻き分け、いよいよその姿を俺達の前に現した。
「来たな『亀もどき(カメモドキ)』!」
『亀もどき』———その名のとおり亀に似た魔物だ。
ただし似ているのは形状だけで、他は何もかもが違っている。
そもそもその肉体だ。
個体差もあるが、普通の亀より何十倍もの巨体で、身体全部が鉱物のように硬い。
特に甲羅部分は頑丈で防具などの素材になる。
まあ、ロワにとって食べられる物以外は無用の長物なので、今回は回収を断念せざるを得ないが。
「来るぞ!」
ロワの声が合図になった。
『亀もどき』達は海から出るや、駒のように回転し始める。
単純にあの速度と巨体でぶつかれば、人間の骨など簡単に折れてしまう。それ以上に恐ろしいのが、普通の亀とは違い、ヤツらは鋭い爪を持ち甲羅の縁部分が刃物のように尖っている事だ。
そんな凶器が物凄い速さで回転してぶつかって来るのだから、触れた瞬間、身体がズタズタになってしまう。『レベル10』の俺だったら、迷わず尻尾を巻いて逃げる相手だ。
「とりあえず1匹倒してみろ、ラント」
ロワは指示すると同時に、魔力による防御壁を展開させた。
今度は膜ではなく、透明な壁だ。
突如出現した透明な壁に何匹かの『亀もどき』が間に合わずぶつかり、盛大に弾き飛ばされる。
しかしむっくり立ち上がるところを見ると、大した怪我はしていないらしい。
ロワの展開した防御壁は遙か彼方まで伸び、進行を邪魔された魔物達がヨジヨジと他の個体によじ登り、さながら亀の壁を築いている。
「魔力を剣に流せ。壁に穴を開け、ヤツらを1匹ずつ通す」
いよいよだ。
ロワに頷き返し、先日の戦闘と同様に脳裏に思い描く。
ロワ自身は炎を使う事はあまりなかったが、過去に所属していたパーティーで炎を剣に纏わせる剣士は何人も見てきた。それを思い出す。
「ふぅ———」
息を細く吐くと同時に、魔力を指の先まで行き渡らせる。
魔物を倒すのが第一義であるが、今回はロワの言うとおり消費効率も考えなくてはいけない。
無駄なく効率的に。俺の魔力は有限だから。
火打ち石で点火する映像を脳裏に描く———と、次の瞬間、刃に炎が蛇がとぐろを巻くように、グルリと巻き付いた。
ボオオオォォォォォォォォッ
ロワが防御壁の魔力を一部解除させるのと、俺が跳ぶのは同時だった。
壁の穴から飛び込んできた『亀もどき』に勢いをつけて短剣を叩き込む。
ガツンと大きな音を立てて魔物が地に落ちる。
炎がヤツの甲羅を焼き、刃が中まで届いた感触があった。だけど、まだ足りない。
起き上がりかけたそいつの首に短剣を突き立て、ようやく絶命させた。
しかしこれでは2匹目の攻撃に対処出来ない。
案の定モタモタしているうちに次の『亀もどき』が俺の眼前に迫っていた。
駄目だ。攻撃が間に合わな———
バンッッッッッ!!!
俺にぶつかる直前で、見えない壁によって魔物が弾き飛ばされた。
ロワが間一髪のところで防御壁の穴を再び塞いでくれたようだ。
「火力を上げろ! 一刀で決めて見せろ!」
後ろから声が掛かる。
確かにロワの防御壁が無ければ、あっという間に俺はコイツらに殺されていた。
多数に無勢で、手間暇かけていては命に関わる。
切り替えろ。
一心に念じると、刃に纏った炎の色と勢いが目に見えて変化した。
なるほどこういう事かと、魔力が身体に馴染むにつれ、体感して理解する。
少しずつだが、俺も魔力の使い方が分かってきたような気がする———
俺の変化を感じ取ったのか、ニヤリとロワが笑う。
「よし、次は2匹だ。さっさと一掃するぞ」
「ああ!」
閉じた壁が再び開かれた。
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