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第24話 ダンジョンの主人 1
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第60階層———それがこの大ダンジョンにおける最下層だと、巷では伝わっている。
通常、最深部にはダンジョンの『主人(あるじ)』とでも言うべき、そのダンジョン内で最強の魔物が棲んでいる。
「ダンジョンを完全攻略した」とか「踏破した」とか言われる状態は、そのダンジョンの主人を討伐した事を指す。
他の階層の魔物は討伐しても一晩経てばまたワラワラと湧いて出てくるが、主人は一度討伐したらそれっきり出現しない場合が多い。大ダンジョンはどうか知らないが、俺達の向かう先に待ち構えているのが、強大な魔物であるのは間違いない。
俺とロワは第59階層での『黒い花採取』を終了すると食事を摂り、もはや日課となった性交を行って、やっと就寝した。
第60階層に棲まう主人の情報は皆無で、『モザイク』とは違い対策の立てようが無い。
なので事前に俺達に出来る事と言えば、俺のレベル上げくらいのもので…………………要するにロワの攻めがしつこかった。
快楽で朦朧とする意識の中で口内に一回、尻の中に三回は出された気がする。
「これが最後だ」と耳元で囁かれれば、俺に抵抗する術は無い。
そのお陰で———と言うのも癪だが、翌朝俺のレベルは『58』にまで達していた。
「やはり追い越されたな。私は現在『レベル56』だ」
俺の報告に当然のようにロワは答える。
彼の端正な顔に、俺にレベルを抜かれて悔しいと言う感情は見当たらない。
まあ、魔力を使えば減る仮初の数字だ。ここで驕ってはいけないな。
「それよりも」と、ロワがぐりぐりと俺の肩に寝起きでグシャグシャの頭を押し付ける。
まるで猫が甘えるような仕草に顔が緩む。
朝飯を食って覚醒はしているが、彼の身支度はこれからだ。
「しょうがないな」とこぼしながらも、ロワの面倒を見るのは苦ではないので、テキパキと髪を梳かし結って整えてやる。
「ロワがどこに住んでたか知らないけど『黒い花採取』が終わったら、速攻で戻るんだろ」
「もちろんだ」
「なら、その道中俺がいなくてもちゃんとしろよ。初めて会った時みたいにボサボサだと、男振りも三割減だぞ」
「!」
パッとロワが急に振り向いた。
結い終わったところだったから良かったが、最中だったら髪型が崩れてもう一度やり直しだ。
「ん? どうした」
「…………そうか、そうだな。気が向いたらな」
「いや、気が向かなくても寝癖くらい直せよ」
身の回りを片付け、いざ最下層に向けて出発となったところで、ロワが俺の方を向く。
「もう一度言うが、私はダンジョン攻略の名誉に興味が無い。私達の力では『主人』に敵わないと思ったら、採取だけして撤退する。それで良いな?」
「もちろんだ。命あっての物種だからな。ロワが採取してる間、絶対守ってやるから安心しろよ!」
自信満々に宣言すれば、相棒は不敵な笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞だ。行くぞ、ラント」
「おう!」
そして俺達は意気揚々と第60階層に踏み込んで———息を呑んだ。
「………おい、これって、ロワ…………」
「シッ! もう少し声を潜めろ。ヤツが起きる」
いつも冷静な彼の声に焦りが滲んでいる。
目の前にいた大ダンジョンの『主人』は、俺達の想像以上の魔物だった。
蛇のように長い胴体は黒々と艶光りする鱗をまとい、猛禽類のような鋭い爪のついた手足はひと1人よりはるかに大きい。そして背中には蝙蝠のような巨大な翼と、鹿のような——いや、枝分かれした古木のような角の生えた頭部。
今までに見たどの魔物よりも大きく、その姿は異様だった。
少なくとも俺はこんな魔物は見た事も聞いた事もない。
『鑑定眼』の瞳にはどんな真実が映っているのか。
今はまだこちらに気付いていない様子のそれに、全神経を集中している。
「こいつは……『竜(リュウ)』だ」
押し殺した声が、どこかで聞いた事のあるような名を告げる。
「『竜』?」
「もはや御伽噺だが、今のフォルトゥナ王家の始祖は『竜』からこのセプテム王国を救った英雄だ」
ああ、だから聞いた事があったのか。
海を超えて別の大陸から襲来した魔物——『竜』をこの国の王様のご先祖様が討伐したと言う伝説を、幼い頃寝物語で聞いた覚えがある。
「でもそんな伝説級の魔物が、何故今になってこのダンジョンに現れたんだ?」
「分からん。しかし我々は英雄ではない。幸いアレは眠っていて、まだこちらには気付いていない」
「だったらやることは一つだな。目の前に黒い花のお花畑があるんだ。さっさと採取して逃げるぞ」
「ああ」
そう、俺達はついていた。
ロワの読み通り、黒い花の群生地はこの第60階層だったんだ。
『竜』の巨体に驚かされて、そちらにばかり気がいってしまうが、目の前には彼の目的の黒い花が採り切れないほど咲き乱れている。
俺とロワは持てるだけ黒い花を摘むと、撤退すべく出口に目をやり、再び息を呑む事になった。
「なん、で———」
乾いた声が、俺の口から漏れる。
確かに花を積んでいる間も、視界の隅にヤツの巨体を捉えていた。その筈だった。
それが今、俺達の目の前——出口を塞ぐように立ち塞がっている。
そうだ。まさに立ち塞がっていた。『竜』は俺達を逃すつもりはないらしい。
第60階層はダンジョンらしい岩壁が四方を囲う空間だが、ヤツの巨体に合わせたように天井が高い。
巨大な胴体が直立しても十分余裕があった。
瞑っていた眼は今やしっかりと開かれ、ギョロリと光る黄金の2つの球体が視界に映る俺達を、どうやっていたぶってやろうかと思案しているようにさえ見えた。
明らかにこちらが不利だが、この絶望的な状況でも俺の相棒なら、きっと勝機を見出してくれるだろう。
そう、願いを込めて彼に視線を向ければ———
「ラント」
真っ直ぐ『竜』を睨みつけて、ロワは次に信じられない言葉を吐いた。
「私が囮になる。お前だけでも生きてここから逃げろ」
通常、最深部にはダンジョンの『主人(あるじ)』とでも言うべき、そのダンジョン内で最強の魔物が棲んでいる。
「ダンジョンを完全攻略した」とか「踏破した」とか言われる状態は、そのダンジョンの主人を討伐した事を指す。
他の階層の魔物は討伐しても一晩経てばまたワラワラと湧いて出てくるが、主人は一度討伐したらそれっきり出現しない場合が多い。大ダンジョンはどうか知らないが、俺達の向かう先に待ち構えているのが、強大な魔物であるのは間違いない。
俺とロワは第59階層での『黒い花採取』を終了すると食事を摂り、もはや日課となった性交を行って、やっと就寝した。
第60階層に棲まう主人の情報は皆無で、『モザイク』とは違い対策の立てようが無い。
なので事前に俺達に出来る事と言えば、俺のレベル上げくらいのもので…………………要するにロワの攻めがしつこかった。
快楽で朦朧とする意識の中で口内に一回、尻の中に三回は出された気がする。
「これが最後だ」と耳元で囁かれれば、俺に抵抗する術は無い。
そのお陰で———と言うのも癪だが、翌朝俺のレベルは『58』にまで達していた。
「やはり追い越されたな。私は現在『レベル56』だ」
俺の報告に当然のようにロワは答える。
彼の端正な顔に、俺にレベルを抜かれて悔しいと言う感情は見当たらない。
まあ、魔力を使えば減る仮初の数字だ。ここで驕ってはいけないな。
「それよりも」と、ロワがぐりぐりと俺の肩に寝起きでグシャグシャの頭を押し付ける。
まるで猫が甘えるような仕草に顔が緩む。
朝飯を食って覚醒はしているが、彼の身支度はこれからだ。
「しょうがないな」とこぼしながらも、ロワの面倒を見るのは苦ではないので、テキパキと髪を梳かし結って整えてやる。
「ロワがどこに住んでたか知らないけど『黒い花採取』が終わったら、速攻で戻るんだろ」
「もちろんだ」
「なら、その道中俺がいなくてもちゃんとしろよ。初めて会った時みたいにボサボサだと、男振りも三割減だぞ」
「!」
パッとロワが急に振り向いた。
結い終わったところだったから良かったが、最中だったら髪型が崩れてもう一度やり直しだ。
「ん? どうした」
「…………そうか、そうだな。気が向いたらな」
「いや、気が向かなくても寝癖くらい直せよ」
身の回りを片付け、いざ最下層に向けて出発となったところで、ロワが俺の方を向く。
「もう一度言うが、私はダンジョン攻略の名誉に興味が無い。私達の力では『主人』に敵わないと思ったら、採取だけして撤退する。それで良いな?」
「もちろんだ。命あっての物種だからな。ロワが採取してる間、絶対守ってやるから安心しろよ!」
自信満々に宣言すれば、相棒は不敵な笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞だ。行くぞ、ラント」
「おう!」
そして俺達は意気揚々と第60階層に踏み込んで———息を呑んだ。
「………おい、これって、ロワ…………」
「シッ! もう少し声を潜めろ。ヤツが起きる」
いつも冷静な彼の声に焦りが滲んでいる。
目の前にいた大ダンジョンの『主人』は、俺達の想像以上の魔物だった。
蛇のように長い胴体は黒々と艶光りする鱗をまとい、猛禽類のような鋭い爪のついた手足はひと1人よりはるかに大きい。そして背中には蝙蝠のような巨大な翼と、鹿のような——いや、枝分かれした古木のような角の生えた頭部。
今までに見たどの魔物よりも大きく、その姿は異様だった。
少なくとも俺はこんな魔物は見た事も聞いた事もない。
『鑑定眼』の瞳にはどんな真実が映っているのか。
今はまだこちらに気付いていない様子のそれに、全神経を集中している。
「こいつは……『竜(リュウ)』だ」
押し殺した声が、どこかで聞いた事のあるような名を告げる。
「『竜』?」
「もはや御伽噺だが、今のフォルトゥナ王家の始祖は『竜』からこのセプテム王国を救った英雄だ」
ああ、だから聞いた事があったのか。
海を超えて別の大陸から襲来した魔物——『竜』をこの国の王様のご先祖様が討伐したと言う伝説を、幼い頃寝物語で聞いた覚えがある。
「でもそんな伝説級の魔物が、何故今になってこのダンジョンに現れたんだ?」
「分からん。しかし我々は英雄ではない。幸いアレは眠っていて、まだこちらには気付いていない」
「だったらやることは一つだな。目の前に黒い花のお花畑があるんだ。さっさと採取して逃げるぞ」
「ああ」
そう、俺達はついていた。
ロワの読み通り、黒い花の群生地はこの第60階層だったんだ。
『竜』の巨体に驚かされて、そちらにばかり気がいってしまうが、目の前には彼の目的の黒い花が採り切れないほど咲き乱れている。
俺とロワは持てるだけ黒い花を摘むと、撤退すべく出口に目をやり、再び息を呑む事になった。
「なん、で———」
乾いた声が、俺の口から漏れる。
確かに花を積んでいる間も、視界の隅にヤツの巨体を捉えていた。その筈だった。
それが今、俺達の目の前——出口を塞ぐように立ち塞がっている。
そうだ。まさに立ち塞がっていた。『竜』は俺達を逃すつもりはないらしい。
第60階層はダンジョンらしい岩壁が四方を囲う空間だが、ヤツの巨体に合わせたように天井が高い。
巨大な胴体が直立しても十分余裕があった。
瞑っていた眼は今やしっかりと開かれ、ギョロリと光る黄金の2つの球体が視界に映る俺達を、どうやっていたぶってやろうかと思案しているようにさえ見えた。
明らかにこちらが不利だが、この絶望的な状況でも俺の相棒なら、きっと勝機を見出してくれるだろう。
そう、願いを込めて彼に視線を向ければ———
「ラント」
真っ直ぐ『竜』を睨みつけて、ロワは次に信じられない言葉を吐いた。
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