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第47話 最期の真相
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………また俺はメンブルム城の旧館にいた。
これがフィリアの過去に記憶だと、俺は冷めた頭で自覚している。
あれ……俺は死んだんじゃないのか?
身体は魔王の魔力によって、バラバラになったはずなのに………。
俺の意志とは関係なく、フィリアの身体は目的を持って暗い廊下を突き進む。
おそらくメンブルム城で見た夢の——記憶の続きだ。
彼女はぴたりと立ち止まった。
古い木製の扉の先、この中がフィリアの目的地のようだ。
ギィィィィィッ
静寂の中、扉の軋む音が響く。
「お待ちしておりました、フィリア様」
部屋の中は無人ではなかった。
フィリアも彼がいることは承知していたようだ。
ああ。
俺はこの男の正体を知っている。
フードを目深に被り声色も変えているが、そこにいたのは間違いなくコスタだった。
部屋の中は窓もないのに、中央の台座に置かれた大きな魔石から発せられる光で、仄かに明るかった。
魔石が部屋の主のように、他には何もない。
フィリアは息を深く吸うと、躊躇わずに魔石の前に立つ。
「これに触れば、私は本当に強くなれるのね」
「はい、誰よりも。フィリア様に敵うものはいなくなります」
駄目だ。
その男の言葉を信じちゃいけない。
「……私はいいの。私はディエス殿下を守りたいだけ」
「なんとお優しいフィリア様。きっとその御心は殿下に伝わります」
「本当?」
男の甘言にフィリアは微笑む。
駄目だ。
早くここから逃げて、誰でもいいから助けを呼ぶんだ。
「本当ですとも。あなたはこれから誰より強くなる。さあ、その魔石から魔力を受けて、フィリア様の本当の姿を取り戻すのです」
こくりと頷き、フィリアが魔石に手をかざす。
淡かった魔石の光が強まり、彼女の身体ごと光が包み込む。
「———あっっ!!」
魔力がフィリアの身体の隅々まで浸透し、やがて溢れた魔力が逃げ場を失い、彼女の身体に亀裂を作る。
駄目だ駄目だ。
もう駄目だ———!!
「嫌っ、何、これ、私、わたくしは———っ!」
ここに至って、ようやくフィリアは気付いたのだろう。
自分が取り返しのつかない選択をしたことに。
指が、手が、腕が、既に壊れて彼女の欠片が宙を舞っている。
「フィリア様。何も恐れることはないのです。もうすぐです。心という枷さえ消えてなくなれば、恐怖さえ必要ない完全な存在に、あなたは生まれ変わるのだから」
陶然とコスタは呟く。
その声はフィリアに届かない。
彼女の目も耳も、すでに彼女の身体を離れていた。
「嫌っ、嫌ぁぁ!! ディエス殿下、ディエス様っ、助けてください、助けて、たす、け、て———」
ぷつっと、テレビが消えるように、あっさりとフィリアの世界は消えた。
俺はようやく理解した。
俺がフィリアの身体に入った時、彼女の心はもう、この世界のどこにもなかったんだ———
これがフィリアの過去に記憶だと、俺は冷めた頭で自覚している。
あれ……俺は死んだんじゃないのか?
身体は魔王の魔力によって、バラバラになったはずなのに………。
俺の意志とは関係なく、フィリアの身体は目的を持って暗い廊下を突き進む。
おそらくメンブルム城で見た夢の——記憶の続きだ。
彼女はぴたりと立ち止まった。
古い木製の扉の先、この中がフィリアの目的地のようだ。
ギィィィィィッ
静寂の中、扉の軋む音が響く。
「お待ちしておりました、フィリア様」
部屋の中は無人ではなかった。
フィリアも彼がいることは承知していたようだ。
ああ。
俺はこの男の正体を知っている。
フードを目深に被り声色も変えているが、そこにいたのは間違いなくコスタだった。
部屋の中は窓もないのに、中央の台座に置かれた大きな魔石から発せられる光で、仄かに明るかった。
魔石が部屋の主のように、他には何もない。
フィリアは息を深く吸うと、躊躇わずに魔石の前に立つ。
「これに触れば、私は本当に強くなれるのね」
「はい、誰よりも。フィリア様に敵うものはいなくなります」
駄目だ。
その男の言葉を信じちゃいけない。
「……私はいいの。私はディエス殿下を守りたいだけ」
「なんとお優しいフィリア様。きっとその御心は殿下に伝わります」
「本当?」
男の甘言にフィリアは微笑む。
駄目だ。
早くここから逃げて、誰でもいいから助けを呼ぶんだ。
「本当ですとも。あなたはこれから誰より強くなる。さあ、その魔石から魔力を受けて、フィリア様の本当の姿を取り戻すのです」
こくりと頷き、フィリアが魔石に手をかざす。
淡かった魔石の光が強まり、彼女の身体ごと光が包み込む。
「———あっっ!!」
魔力がフィリアの身体の隅々まで浸透し、やがて溢れた魔力が逃げ場を失い、彼女の身体に亀裂を作る。
駄目だ駄目だ。
もう駄目だ———!!
「嫌っ、何、これ、私、わたくしは———っ!」
ここに至って、ようやくフィリアは気付いたのだろう。
自分が取り返しのつかない選択をしたことに。
指が、手が、腕が、既に壊れて彼女の欠片が宙を舞っている。
「フィリア様。何も恐れることはないのです。もうすぐです。心という枷さえ消えてなくなれば、恐怖さえ必要ない完全な存在に、あなたは生まれ変わるのだから」
陶然とコスタは呟く。
その声はフィリアに届かない。
彼女の目も耳も、すでに彼女の身体を離れていた。
「嫌っ、嫌ぁぁ!! ディエス殿下、ディエス様っ、助けてください、助けて、たす、け、て———」
ぷつっと、テレビが消えるように、あっさりとフィリアの世界は消えた。
俺はようやく理解した。
俺がフィリアの身体に入った時、彼女の心はもう、この世界のどこにもなかったんだ———
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