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第2章:突然の事件
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「あっ……! 千秋さん、
大規模な転移反応の兆しが……!」
英語しか表示しないモニタを眺める綾が、
突然声を上げた。
「わかった、すぐ行くね」
千秋さんは自分の席を離れ、
すぐに綾のモニタを見に行った。
「うわ……レーダーに反応アリですな」
千秋さんは目を細めた。
「これって」
「……うん、綾ちゃんの世界で言うところの、
神隠し事件みたいなもの。
今から、あの世界で大勢の人が時に飲まれる」
千秋さんは淡々とした口調で説明する。
「これが、過去を変えた代償。
誰かの祖先は常に変わり続け
いるべき世界を失って時にさらわれる。
だけど存在が消失することは稀。
他の世界に引き寄せられてしまう。
だから、行方不明になる」
その場は、妙に静かな空気だった。
大事件が起こる前兆を捉えたのに
何かに備える気配がない。
焦っている様子もない。
「助けられないんですか?」
私は、千秋さん達に言った。
「……え?」
千秋さんは、驚いた顔をする。
「だって、綾や私のこと、助けてくれたでしょう?
助けられないんですか?」
「それは……」
千秋さんは、視線を逸らした。
沈黙。
誰も、口を開かない。
「無理なんだよ、華菜ちゃん」
空山さんが、その沈黙を破った。
「どうして?」
「ひとりだけさらわれた
君たちは変わったケースらしいの。
こういう大規模なのは……
どうしようもない…」
何を根拠に。
まず、そう思った。
しかし、私はこの現象を知らなさすぎる。
だから、安易に“助けたい”なんて
言ってしまうのかも知れない。
でも、それでも……
最初から諦めているような
この雰囲気が、何故か許せなかった。
「あの……!」
諦める前にひとつだけ、知りたいことがある。
「時が人をさらう時、さらわれた人は
どんな風に別の世界に行くんですか?
別の世界に行く前に、
元の世界に強引に帰したりは、できないんですか?」
そう、漫画や小説の世界みたいに。
この人達は漫画みたいなことをやっている。
だったら、できるのではないだろうか?
「…………」
その場にいた全員が、私を見つめていた。
驚いた表情のまま、銅像のように固まっている。
「やっぱり……変なこと、言いましたか……?」
私が聞くと、千秋さんがぶんぶんと首を横に振った。
「逆! 何も分からないはずなのに
現象の本質を見抜いてる華菜ちゃんに
みんなが驚いてるの」
熱のこもった声で千秋さんが語る。
「確かに、その方法は理論上は可能。
でも、それは華菜ちゃんや綾ちゃんみたいに
小規模な歪みに巻き込まれた人にしか
使えない手段で、
こんな大勢の人を元に戻してあげるのは、
……過去に成功したことが一度もないの」
悲しそうな顔をする千秋さん。
諦めている訳じゃ、ないんだ……。
「あの……」
私は、覚悟を決めた。
無知は罪、無知は恥と言うけれど、
今は私の無知さを……誇ろうと。
「なに?」
「試させてください。
どうすれば、今、時にさらわれそうに
なっている人を……帰してあげられますか?」
千秋さんと空山さんは、
私の発言に心底驚いているようだった。
「それとも、素人には試すことすらできない
難しい技術ですか?」
私がそう言うと
「そんなことない!
これは、どんな人が試しても
成功の可能性はあるわ!」
千秋さんが、大きな声でそう答えた。
「ちあちゃん、彼女に説明してる暇がない。
本人が乗り気なんだ、試してみよう。
俺達はもう……規則に縛られなくていいんだ。
今まで試そうとも思わなかったことの方が、
愚かだったかも知れない」」
空山さんが、千秋さんに言う。
「そ、そうね。
じゃあ、空山くんはゲート2に!」
「了解!」
千秋さんの指示と同時に、
空山さんは部屋から飛び出していった。
…………。
あんな思いは。
あんな思いはもう、誰にもして欲しくない。
誰かがいなくなる悲しみ。
その悲しみと向き合えず、
心を凍てつかせ、何も感じなくなる虚無感。
あんな思いをする人は、
ひとりでも減って欲しい……!!
大規模な転移反応の兆しが……!」
英語しか表示しないモニタを眺める綾が、
突然声を上げた。
「わかった、すぐ行くね」
千秋さんは自分の席を離れ、
すぐに綾のモニタを見に行った。
「うわ……レーダーに反応アリですな」
千秋さんは目を細めた。
「これって」
「……うん、綾ちゃんの世界で言うところの、
神隠し事件みたいなもの。
今から、あの世界で大勢の人が時に飲まれる」
千秋さんは淡々とした口調で説明する。
「これが、過去を変えた代償。
誰かの祖先は常に変わり続け
いるべき世界を失って時にさらわれる。
だけど存在が消失することは稀。
他の世界に引き寄せられてしまう。
だから、行方不明になる」
その場は、妙に静かな空気だった。
大事件が起こる前兆を捉えたのに
何かに備える気配がない。
焦っている様子もない。
「助けられないんですか?」
私は、千秋さん達に言った。
「……え?」
千秋さんは、驚いた顔をする。
「だって、綾や私のこと、助けてくれたでしょう?
助けられないんですか?」
「それは……」
千秋さんは、視線を逸らした。
沈黙。
誰も、口を開かない。
「無理なんだよ、華菜ちゃん」
空山さんが、その沈黙を破った。
「どうして?」
「ひとりだけさらわれた
君たちは変わったケースらしいの。
こういう大規模なのは……
どうしようもない…」
何を根拠に。
まず、そう思った。
しかし、私はこの現象を知らなさすぎる。
だから、安易に“助けたい”なんて
言ってしまうのかも知れない。
でも、それでも……
最初から諦めているような
この雰囲気が、何故か許せなかった。
「あの……!」
諦める前にひとつだけ、知りたいことがある。
「時が人をさらう時、さらわれた人は
どんな風に別の世界に行くんですか?
別の世界に行く前に、
元の世界に強引に帰したりは、できないんですか?」
そう、漫画や小説の世界みたいに。
この人達は漫画みたいなことをやっている。
だったら、できるのではないだろうか?
「…………」
その場にいた全員が、私を見つめていた。
驚いた表情のまま、銅像のように固まっている。
「やっぱり……変なこと、言いましたか……?」
私が聞くと、千秋さんがぶんぶんと首を横に振った。
「逆! 何も分からないはずなのに
現象の本質を見抜いてる華菜ちゃんに
みんなが驚いてるの」
熱のこもった声で千秋さんが語る。
「確かに、その方法は理論上は可能。
でも、それは華菜ちゃんや綾ちゃんみたいに
小規模な歪みに巻き込まれた人にしか
使えない手段で、
こんな大勢の人を元に戻してあげるのは、
……過去に成功したことが一度もないの」
悲しそうな顔をする千秋さん。
諦めている訳じゃ、ないんだ……。
「あの……」
私は、覚悟を決めた。
無知は罪、無知は恥と言うけれど、
今は私の無知さを……誇ろうと。
「なに?」
「試させてください。
どうすれば、今、時にさらわれそうに
なっている人を……帰してあげられますか?」
千秋さんと空山さんは、
私の発言に心底驚いているようだった。
「それとも、素人には試すことすらできない
難しい技術ですか?」
私がそう言うと
「そんなことない!
これは、どんな人が試しても
成功の可能性はあるわ!」
千秋さんが、大きな声でそう答えた。
「ちあちゃん、彼女に説明してる暇がない。
本人が乗り気なんだ、試してみよう。
俺達はもう……規則に縛られなくていいんだ。
今まで試そうとも思わなかったことの方が、
愚かだったかも知れない」」
空山さんが、千秋さんに言う。
「そ、そうね。
じゃあ、空山くんはゲート2に!」
「了解!」
千秋さんの指示と同時に、
空山さんは部屋から飛び出していった。
…………。
あんな思いは。
あんな思いはもう、誰にもして欲しくない。
誰かがいなくなる悲しみ。
その悲しみと向き合えず、
心を凍てつかせ、何も感じなくなる虚無感。
あんな思いをする人は、
ひとりでも減って欲しい……!!
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