白き時を越えて

蒼(あお)

文字の大きさ
169 / 179
終章:終わりの前の静寂

しおりを挟む
私はお休みをもらって、ある場所に来ていた。
……捜し物をする為だ。
もし回収されていたら困るな、と思っていたけど
それは“時丘 華菜の遺品”として保管されていた。

――時は近い。
見つかって、良かった。
これがなかったら、
あの人達の言うとおりに……
みんなを見捨てて、元の世界に帰るしかないもの。

私が別の私のように
柊さんを男性として好きになることはなかったけれど
それも仕方のないことだろう。

前の彼女のことをあんなに引きずっている人を
好きになれなんて言われたって無理だもの。

それが、“私”という存在だったとしてもだ。
それは他の人なのだ。

みんなは、
“柊さんは今の私を見てる”というけれど
私にはその気持ちは全く伝わってこない。

柊さんには悪いけれど、
肝心の私に伝わらない気持ちを
受け取ることなんて、私にはできないよ。



目当ての物が見つかった私は、
上機嫌で自分と綾の部屋に戻る途中だった。


交代の時間だったんだろう。
廊下で柊さんとばったりであった。
そういえば、居住区の入り口って付近って
そんなところだっけ。

「……こんにちは」
「………ああ」

この人はろくに挨拶も返せないのだ。
はっきり言って、私より暗い性格だと思う。

「すみません、お休みもらって」
「千春が戻ってきたから、問題ない」

……悪気はないんだろうけど、
それって、やっぱり私は頼りにならないって
意味……だよね。

悪気がないのは分かるから、
何も思わないけれど。
実際、私は無資格でお手伝いしているだけだし。

それでも、もう少しくらい
悔しいと思うかな、と思っていた。
しかし、そうはならない。

私がこの人に心を動かされることは……
きっとないだろう。

「じゃあ、行く」
「はい、今日も頑張ってください」
そう言葉を交わし、別れるときだった。
私が足を滑らせ、体勢を崩し、
後ろ向きに倒れていきそうになったのは。

どうして後ろなのだ。
つんのめったのなら、
体勢の立て直しようもあるのに。

私は、転ぶ覚悟しかしていなかった。
しかし……床にはぶつからず、
しっかりと支えられていた。

……柊さんの、腕に。



「……柊さん」
「疲れているのか? ……よく、休め」

お互い完全に背を向けた後だったと思うけど
そんな状態からでも、
こんなことって出来るんだなぁ。

「ありがとうございます」
「たいしたことはしていない」

そう言うと、柊さんは行ってしまった。

私が、あの人に恋でもしていれば。
きっと、すごくどきどきしたんだろう。
でも不思議なことに……
私の鼓動は、いつものままだ。

彼と触れあったところで、
何の変化もない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...