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第二章

スミスの調査3

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 僕は急ぎ足で魔法部門へ駆け込んだ
 扉を勢いよく開けると部屋の中にいた数人が驚いてこちらを見る

「隊長のエレノアさんはいらっしゃいませんか!」

 僕の第一声は魔法部門の隊長エレノアさんの指名の一言だった
 入口に一番近いデスクにいたメガネの女性が僕に応えてくれる

「お、奥の部屋にいらっしゃいます」
「ありがとう!」

 急いで奥の部屋まで駆けつける
 ノックをする前に息を整える
 緊急事態だがこういう時こそ礼儀をきちんとしなければ・・・
 僕は扉を手の甲で軽く2回叩く

「どうぞ」
「失礼します!」

 返事が返ってきたのでドアを開けた
 ドアを開けた僕の視界に一番に飛び込んできたのは

「キシャーー!!!」
「うわぁー?!」

 人一人なら簡単に飲み込んでしまいそうな大蛇だった

「ダメよトキシックちゃん、まだご飯の時間じゃないわ」
「ご飯の時間じゃなくてもダメです!!」

 ビックリしたぁ
 蛇を飼っているとは噂されていたがこんなに大きな蛇だとは思わなかった
 エレノアさんがトキシックと呼ばれた大蛇をなでながら言い聞かせている
 ・・・ん?

「・・・これヨルムンガンドの幼体では?」
「あら、よく知ってるわね
 でもこれなんて言ってはダメ
 ちゃんとトキシックちゃんと呼びなさい」

 ヨルムンガンドとは
 蛇型の魔物の中でも最上位に君臨する魔物である
 1匹で村が3つは滅ぶと言われている
 大きな個体となれば街一つ落とすのも容易いらしい・・・

「なんでこんなところに?!」
「私の家族だからよ
 この子は私が卵から孵したからね
 私の許可なく人は襲わないし、ちゃんと王様の許可も貰ってるわ
 この子を研究するって名目でね」

 なるほど王様の・・・王様?!
 さらっととんでもないこと言ってるよ
 国王に謁見してまで許可を取るとは大事な家族なのだろう
 誰しも一度は魔物を飼ってみたいとは思うだろうが実際にやる人には初めて会ったなぁ
 ・・・ってそんなことより!

「すみません、お願いがあって来たのですがお時間いただけませんか?」
「私は高いわよ?」
「かまいません!緊急事態なので!」
「あら、即答ね
 わかったわ、話して頂戴な」

 僕は先程鍛冶部門で起きたこと、スミスを調べていることを話した
 そして素材保管庫で見つけた痕跡になりそうなものを彼女のデスクに広げて見せた
 何かの燃えカス、割れた宝石のようなもの、何も書かれていない羊皮紙の3つだ

「この中で魔法の媒体になったものはありませんか?
 転移魔法を使っているとしたらこれらが何かの手掛かりになると思いまして」
「調べてみるわね、魔法を使うけどちょっと眩しいからこのメガネをつけて」

 そうしてエレノアさんにグラスが真っ黒い眼鏡を渡された
 サングラス・・・じゃないんだろうか
 僕が不思議がっていると

「魔法の放つ光は太陽の光と違って目に影響が出ることがあるのよ
 目が見えなくなってもいいなら外しておいて」
「絶対外しません!」
「いい子ね、さ、始めるわよ!」

 彼女が杖を振り上げ呪文を唱える

魔力痕跡マジックトレース分析アナライズ

 杖の先が光栄を放つ!
 部屋の中の様々な物に反射してとても綺麗だ
 この眼鏡が無かったら確かに目に影響がありそうだ

 そして徐々に光が収まる
 空中に何か文字が浮かび上がる
 エレノアさんが一息ついてお茶を飲んでいる
 結果はどうだ・・・?

「どうですか?」

 何か情報は得られるだろうか
 彼女が空中に浮かび上がった文字をメモに取る
 とても難しそうなお顔をしながら、それを僕に渡してきた
 そこに書いてあったのは・・・

『痕跡無し』

「えっこれは・・・いったい・・・?」
「書いてある通りよ
 これらのものから、何も得られなかったわ
 ただの何も書いてない羊皮紙と割れてしまっているルビー、そして誰かの吸い終わったタバコね」
「そんな・・・!?」
 
 まさか痕跡無しだなんて!
 だったらどうやって素材保管庫から素材を盗んだんだ・・・?
 何か別の方法があるのだろうか
 くそっ!僕には何も思いつかない・・・

「面白そうな事件だし、私も同行していい?」

 なんと、エレノアさんから協力を申し出てくれた!
 人手も足りないし丁度素材保管庫でも痕跡を探したかったから助かる
 しかも魔法部門の隊長だなんて強力な助っ人を得られるなんて思ってもいなかった!

「ぜひお願いします!すぐに素材保管庫へ向かいましょう!」
「トキシックちゃん、お留守番お願いね」

 こうして僕はエレノアさんを連れて素材保管庫へと戻っていった


「戻りました!」
「おう!おかえり!おっと、エレノアの嬢ちゃんじゃねぇか」
「ルフタさん、お久しぶりね」

 戻ってきた僕を迎えてくれたルフタさん
 お二人が知り合いだとは・・・

「彼は私の杖を作ってくれたのよ
 専属だったと言ってもいいわ」
「今はもう作ってないけどな、俺の弟子が担当してんだ」

 隊長たちは僕の表情を読むのが本当に上手い
 顔に出やすいところがあるからそろそろしっかりポーカーフェイスができるようにならなければ・・・

「ルフタさん、異常はありませんでしたか?」
「ああ、何も起きてないぞ
 ずっと見張ってたからな」

 何も起きてなくてよかった
 残った素材まで持ってかれていたらゴブニュさんを抑えることはもうできなくなってしまうだろう

「ではエレノアさん、お願いします!」

 エレノアさんは魔法を使って素材保管庫の痕跡探しを始めた
 何度も同じ魔法を唱えていて大変そうだ
 僕はその場を離れ、お昼ご飯を買ってこようと思った
 僕が彼女たちにできる手伝いと言ったらもうこれくらいしかないだろうと思ったからだ
 無力な自分が悔しい・・・
 ルフタさんにこの場をお願いして、購買部門へ向かおうとしたその時

「見つけたわ!こっちに来てちょうだい!」

 エレノアさんが何かを見つけたようで大きな声で僕たちを呼ぶ
 この状況を打開する何かであってくれ!

 僕はそう神に祈りながら、ルフタさんとともにエレノアさんのもとへ駆けつけたのだった
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