上 下
70 / 79
第三章

横たわる元覆面男の面通し

しおりを挟む
「ワシァこんなやつ知らん」

 覆面男が横たわる部屋に四人を連れてやってきた
 僕とラビヤーは万が一毒に触れないように、少し離れた場所から顔を見るよう皆に言う
 そしてバルトロ爺さんが男の顔を見て、知らないと言った

「そっか・・・」

 まぁバルトロ爺さんは店から出てくることもあまり無い
 行員や役人と交流があったわけでもないし
 本命は爺ちゃん、マスター、ミアさん、サンスケさんだ
 この四人なら、接客や工事の関係で顔を見ているかもしれないからだ

「うーむ・・・」
「私は見てませんね~」
「私も温泉工事では見なかったです」

 三人ダメでした
 残ったマスターは・・・?

「む?むむむ・・・」

 なんだろう
 悩んでいるような・・・
 そんな感じの顔だ

「知っているような・・・でも違うような・・・」

 ふむ・・・?
 見たことあるなら見たとはずだよね?
 ピンと来ない感じ・・・なのかな

「思い当たる節は無いですか?」
「思い当たる・・・」
「そういえば、酔った客を叩き出したとか言ってませんでした?」
「いや、似てるけど違うな・・・ん?似てる・・・?」

 おっ?もしや・・・

「そうだ、似てるんだよ
 僕の店で酔って暴れた男に」
「もしかして兄弟・・・とかですかね」
「ああ、ここまで似てるなら多分兄弟なんだろうね
 よく見ると・・・顔のパーツも所々こんな感じだったような気がするし・・・」

 ちょっとあやふやだけどここはマスターを信じよう
 この元覆面男は工事の時から出入りしていた人間の兄弟
 ってことはつまり・・・

「つまりまだ、仲間がいるってことですね」
「・・・そのようだね」

 ああ
 規模がどんどん大きくなる
 この依頼は僕たちの手に負えるのだろうか・・・?
 そんなことをぼんやりと考えていると・・・

「ひぃ!マ、マーク君たちがこの人に襲われたんですよね?
 だったらまだ村の中に危険があると・・・
 明るいうちは大丈夫かもしれないけど夜出歩けないじゃないですかぁ!!」
「ええ、解決するまで出歩く際はくれぐれも気を付けて・・・
 二人以上で行動するか、非常用に笛でも使いましょう」
「しかし村人にこのことを知らせるわけにはいかんじゃろう
 ワシらだけの話にするのがいいじゃろな・・・」
「ですね・・・」

 バルトロ爺さんの言うとおりだ
 村人に知らせたらパニックを起こすかもしれない
 それにこの元覆面男の仲間に気付かれるかも・・・
 そうなればこの件の解決は厳しいものになるだろう

 そういえば・・・この元覆面男は夜一人で出歩いていたようだけど・・・
 もしかして斥候役だったのか?
 でも結構な強さ・・・いや、非戦闘員からしたら強かっただけかもしれない
 こいつより強いやつが出てきたら、ジェイクとマスターに丸投げしよう
 僕より強いし!

 そんなことを考えていると、ミアさんが僕たちの思いつかなかった、別の視点で気づいたことを言ってくれる

「王子がいない今、まだ残ってるってことは・・・この村の何かを狙ってるんですかね~」
「バルトロのとこの楽器とかかの?」

 ミアさんがすごい!
 そんなこと考えなかった
 王子が関係するなら王子狙いだと決めつけていたから・・・
 なるほど、それなら盗賊たちが来るのに合点がいくかもしれない
 確かに村には貴重な楽器など置いてあったりする
 音楽の村だからね、演奏会とか開くと、世界中の楽器が集まるんだ
 ここ数年は開いてないけどね
 温泉も新しくなったし、そろそろ開催するだろう

 そして王子が村に来てたってことは、その護衛となる人たちが村にいたはずだ
 いたよね?さすがに
 じいちゃんからそんな話は聞いてないけど・・・
 そして工事が終わり、監督官だった王子は王都へと帰った・・・
 だったら狙うのは今だろう

 楽器と言えば・・・
 かなり古い楽器とか、高価な楽器がバルトロ爺さんの工房に置いてある
 誰も使わないようなものとかも・・・
 それを元に爺さんが新しいものを作る
 その楽器があると聞き、買いに来る客もいるんだ
 そんな商売もバルトロ爺さんはしているのだ
 まぁ、それなりの値段がするから、求めて来た客もそれなりの富豪だったり高名な演奏家だったりする

「じゃあ明日、バルトロ爺さんの工房に行って楽器がちゃんと揃ってるか確認しなきゃね」
「わかった、昼頃に来い
 それなら弟子たちも全員揃ってる頃じゃろ」

 バルトロ爺さんの弟子は三人
 なんとシフト制を導入しているらしく、店にいない弟子は楽器の材料を取りに山や森に行っているのだ
 自分で材料を取りに行く職人なんて滅多にいないよね
 これはバルトロ爺さんが昔からやっていたことで、別に踏襲させたわけじゃないのだが、弟子たちは尊敬する師匠に倣って、行っているそうだ

「ほかに何か意見はある?」

 僕は今いる全員に問いかける

 ・・・・・・・

 うん
 誰も特に無いらしい

 彼らは僕たち追放部門みたいに調査を仕事にしてるわけじゃないし・・・
 ちょっと権力のある、田舎の村人たちである
 あとなんかそれぞれ、戦闘能力とか楽器作りとか色々あるけど・・・

 う・・・
 眠くなってきた
 あくびを我慢する
 ラビヤーは大きなあくびをして、とっさに口元を抑えている
 そろそろ解散しようか
 長いこと話していたし、このままだと朝になってしまう

「じゃあ、今日はとりあえずここまでにして・・・
 皆家に帰って休みましょう
 明日から僕と仲間たちが調査します
 何か気づいたことがあったら知らせてください」

 そう言ってこの場を解散する
 男の死体はマスターがとジェイクが墓地で埋めてくれるそうだ
 僕も手伝おうと思ったけど、調査に精を出してほしいと断られた
 明日からの調査で何か分かるといいなぁ
 そして早めに終わらせて・・・
 休暇を過ごしたい

 集会所からラビヤーと爺ちゃんと一緒に、家へ帰る
 ああ・・・
 空がぼんやりと明るくなってきた・・・

 明日って言ったけど、今日になっちゃったよ

 この後、寝るつもりなんだけど・・・ちゃんと起きれるかな・・・?
しおりを挟む

処理中です...