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4 よし!決めた!
しおりを挟む今わたしの目の前に飄々とした表情で立ち、片腕に突然降って湧いたらしい『妹さんという名の女』を平然とぶら下げ続ける厚顔無恥な婚約者に、殺意を覚えるわたしはきっと間違っていない。
「妹さん…と…おっしゃいますと?」
「実は父の外の家庭が発覚してね…今朝から大騒ぎだったんだ」
「ではエドガー様のお父様のお嬢様?」
「いや…ミリエルの父親は早くに他界した」
「……ミリエル?」
「妹は名をミリエルという」
どーでもいい。…と叫んでも?
「そうですか。でも…そうしますとエドガー様の妹さんではありません」
「血は繋がっていないが妹だろう」
「メリー…(わざと)」
「ミリエルだ」
だからどーでもいい!
「あーミリエルさんは籍が入っておりますの?」
「その辺は詳しく知らない」
「ミリエルさんはご存知?」
「………あたしも知らない」
籍が入っていないなら他人よね? もはやどーでもいいけど。
「それで……何故こちらへ?」
「あぁ…そんなわけで家はゴタゴタしていてね。ミリエルをあんなところには可愛そうで置いておけなかったんだ」
「それでここへ連れていらした…」
「そうなんだ!」
二の句が継げない…どうしよう。
「ところでエドガー様? 今夜はわたくしのエスコートを婚約者であるエドガー様にお願いしておりましたが?」
突然ミリエルさんがエドガー様の腕をギュッと強く掴んでウルウルと瞳を揺らす。…凄い。
「そうなんだが…これは不測の事態だろう? ミリエルの側を離れるわけにはいかないんだ。なんとかならないだろうか」
「なんとか………そうですか。…まぁ(もーどーでも)よろしいですわ…」
「そうか。わかってくれたか! 良かったなミリエル」
いや、少しも良いとは思ってないケドな。
何故、エドガー様は今夜この場でわたくしよりミリエルさんを優先できると思えるのか理解に苦しむ。
婚約者の思考回路がわからない。
けれど、エドガー様もザグラス侯爵様もまとめてクズだってことはわかった。
ひいてはザグラス侯爵家などと縁づくと要らぬ火の粉を被りかねない。ヤバいということも非常に良くわかった。
エドガー様は眉を下げ、腕にしがみつく『本日発覚したばかりというほぼ間違いなく他人な妹』に嬉しそうに微笑みかける。
彼女もふふ…っと上目遣いと笑顔の媚び合わせ技でもって熱く見つめ返す。
何コレお似合い。
………だけど婚約者殿が蛇に気付いてない馬鹿なカエルにしか見えないのはわたしだけかしら?
それにしてもエドガー様はこういう方がお好みだったのね………。
だったらわたくしなど…ハナから相手にもなりません。
あーそうか。
もうそうしよう。
急いて事を仕損じたのならさっさと反省しよう。
これは父と母も確実に悪い。
なんなら彼らが焦りすぎたせいだコレ絶対!もっとちゃんと精査してくれ…わたしの一生かかってんだ。
つまり焦って選んだらボンコツ以下のクズでした…ということ。
もはや被害を最小限にすることを最優先に考えよう。
最初はなんで今日と思ったけれど…今日で良かった有難かった。
今日ならば今ならばギリギリセーフで無かったことに出来る。
「よし!決めた!」
「ヴィクトリアお嬢様!」
「あら…ごめんあそばせ。ほほほ…」
エドガー様がアホ面でぽかんとする。
エセ妹は我関せずブラ下がってる…どーでもいい。
でも絶対今夜のパーティーは成功させてやる!
策だ策!
くだらないこのクズトラップを綺麗さっぱり一掃する策!
考えろ…考えろヴィクトリア!
「………とりあえず、まず確認させてくださいませ。エドガー様は婚約の書面はちゃんとご覧になってサインなさいましたわね?」
「もちろんだ!」
「しかと承りました。…大丈夫よね、 レイモンド?」
サインを含めた婚約契約書の内容確認はしたけれど万が一にも不備があっては困る。
「責任をもって漏れなく確認しております」
レイモンドが腰を折り深く礼をとる。
「…では時間もありませんので手短にお伝えします。
まず本日のエスコートは妹さんを優先していただいて構いませんわ」
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