棋士に恋愛は似合わない？

1章 人生逆転の一手

第7局 棋士に告白は似合わない？

ところで、忘れてはいないだろうか？
仲村 楓が言った

「私と翔太様は付き合っていますもの」

という言葉を。

あれから数日が経ったが人の目は変わらないものだ。
特に男子には親の仇を見るような目で睨まれる始末だ。
全く、彼女も彼女で無責任だ。全部僕に丸投げしてきやがって。

「ねぇ、翔太様。少し良いかしら？」

「何ですか。また勘違いされるようなことは勘弁ですよ？」

「あ、あの、えっと、そのぉ」

「はぁ、そういう系のことですか？」

「まぁ、はい」

はあ、僕はこうして悩みが増えていくのか‥‥
しかし、悩みなんて１つも２つもこの際同じだ。
諦めるしかないな。

「はぁ、分かりました。要件は何ですか？」

「よくぞ言ってくれました。翔太様、貴方にやってもらうことはただ１つです。私の彼氏になって下さい」

「あ、えっとその仲村さん。それは こ、告白ということで受け取れば良いんでしょうか？」

「そ、そんなこと女の子の口から言わせないで下さい」

や、やばい。この王手は逃れにくいぞ。

一瞬そうは思ったが、すぐに相手が真剣に言っているものだと思った。目を見ればすぐに分かる。
だから僕もしっかりと自分の意見を言わないと思った。真剣で偽りのない僕の気持ちを。

「ごめんなさい。僕は貴方とは付き合えません」

これが僕の真剣な偽りのない返事だ。
それから少し間が空き彼女の口が動き出した。

「何故なんですか？」

彼女の瞳にはいつもの光とそれを反射させる涙が浮かび上がっていた。

「何故私はダメなんですか？翔太様は私といた時はいつにもなく笑顔で楽しそうにしていたじゃないですか！大好きな翔太様があんなに笑顔になってくれて本当に嬉しかったんですよ。あの笑顔は私だけに向けてくれましたから‥‥私は、決心がついたというのに‥‥」

彼女の言っていることは間違ってはいない。たしかに彼女といた時間は本当に楽しかった。でも‥‥ダメなんだ。

「君が僕の何を知っているんだよ！君と僕が出会ったのはついこの前じゃないか！」

必死なあまり僕は口調がおかしくなってしまった。それに驚きながらも彼女は負けずに返す。

「少なくとも私は見ていました！病院の窓から公園にいた貴方を！」

ダメなんだ‥‥

「だからなんだよ！僕は公園にいてもブランコに腰をかけるだけで何もしていなかったはずだ！」

ダメなんだ‥‥

「たしかにそうでしたが、そんな貴方の姿を見て私は元気を貰いました！」

ダメなんだ‥‥

「ふん！そんなことで元気が出るなんて君は相当おかしいね！もう一回病院に行ったら！」

お願いだ‥‥

「おかしくて結構です！とにかく私は貴方が大好きです！」

もう、やめてくれ！僕は‥‥僕は！

「うるさい！無理なものは無理なんだよ！全てがお前の思い通りになると思うなよ！分かったらさっさと失せろ！」

分からないんだよ！！

「うぅ、あ、貴方なんてもう知らない！」

悔いがあるわけではないが無いわけでもない。僕は彼女にしっかりとした返事を返そうとしたあまりにこうなってしまった。だって告白の返事に

「分からないなんて答えるやつなんて‥‥いるわけ‥ないだろ」

いつの間にか僕は泣いていた。泣く権利なんてないことくらい知っている。でも、自然に流れてくるんだよちくしょう！

～数日後～

「えぇ、仲村さんが今日も欠席なのですが、明日仲村さんは転校してしまうようです」