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じゅうなな
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「―――え?」
どっちかっていうと、「へ」に近かったと思う。
思いがけない問いかけに、間の抜けた声が出た。
突き飛ばされた?―――誰に?
「あの時の、アイツが、いただろ?何か逃げるみたいに走ってったけど。」
「…あ」
言われて、あのカンジの悪いニヤけ顔が脳裏に蘇る。
目の前に飛び出されて、
ビックリして、
それで……。
「大丈夫か?」
ハッとして顔を上げると、彼がまだ膝をついた状態でこっちを覗き込んでいた。慌てて微笑んでみせる。
「あ、…大丈夫。うん。それに、突き飛ばされては、ない、し。突然目の前に出てきたから、ビックリはしたけど…」
「目の前に?」
あ、しまった。
彼の眉根が寄せられてる。
「あの…、ホントに、実際何かされた訳じゃ無いっていうか…」
何となくしどろもどろになりながら言っている間に、駅員さんが戻ってきた。
「救急車すぐ来るからね。おうちの人、連絡ついた?」
「えっ、あっ…」
慌ててスマートフォンを取り出そうとしたところで、ズキッとまたこめかみに痛みが走った。
反射的にこめかみを押さえて俯くと、不意にその手が温かなものに包まれる。
―――えっ?
顔を上げて“それ”が彼の手の平だと気付いた瞬間、鼓動が跳ねた。
そんな私の顔を、彼が心配そうに覗き込んでる―――って、待って待って、近くない?!
「無理するな。発信までしてから、親には駅員さんから話してもらえ。」
そう言って目を細めるとか、何なの、これ?!
顔に熱がどんどん集まってくるんだけど!!
なのにこの顔が綺麗過ぎて目が離せないなんて、どーしたらいいの?!
またしても内心パニック状態なんだけど!!!
「あー、えーっと、その、ホントにすぐ来ちゃうんだけどね?救急車…」
ゴホン、という咳払いに我に返った。
同時に彼の手も離れたので、慌ててスマートフォンを取り出したけど、通話アプリを立ち上げる指が震えてしまう。
“通話”をタップして耳に当てようとしたところで、スマートフォンを彼に取り上げられた。
彼はそれを駅員さんに差し出す。
駅員さんは、一瞬困った様に躊躇ったけれど、彼の有無を言わせぬ雰囲気に押されて受け取った。
おかしい、何かこの場の主導権が“彼”になってるんだけど。
「あ、もしもし?えーと…」
通話が繋がったらしく、スマートフォンを耳に当てた駅員さんがこっちに視線を寄越す。
そうだ、まだ駅員さんに名前を言ってなかった―――そう気付いた私よりも、早く。
「コウサカ、シズル、です。」
迷い無く、ハッキリと、彼は私の名前を口にした。
駅員さんが、驚いた様に目を見開く。
「あー、コウサカ、シズルさんの、親御さんで間違いないでしょうか?」
電話の向こうでお母さんが肯定したんだと思う。
そのまま、駅員さんが電話を続けていたけど、私の耳には全く内容が入ってこない。
駅員さんに向けられていた彼の視線が、私に戻った。
「…名前…」
どうして?と言いかけて、思い出した。
そうだ、この人、大地と…
彼が少し困った様に微笑んだ。
「大地に聞いた。…中学は、同じになるだろうと思ってたんだけど、違うとこ行ったんだろ?」
「え…?」
「サッカーも辞めたって、大地が。」
彼の言ってる意味が分からない。
どういう事?
中学は?
それってやっぱり、チームメイトでは無かったって事?
でもそれならなんで、私を―――知ってるの?
「あー、ゴメンね。ちょっといい?」
またしても駅員さんの声にハッとなる。
苦笑気味にスマートフォンを差し出され、慌てて受け取った。
「救急車来たみたいだから、病院決まったら連絡してくれって。そっちに迎えに来られるそうだよ。」
「あ、はい…スミマセン。ありがとうございます。」
いえいえ、と言う駅員さんの向こう、階段からストレッチャーを持った救急隊員さん達が上がってきて、それを見た彼が立ち上がる。
追いかけるように立ち上がろうとした私の肩を、彼がまた押さえた。
「シズル―――」
と、当たり前のように彼が私の名前を呼んだ。
「しばらくこの駅を使わないで家に帰れるか?」
「え―――」
目を見開く私に、彼がかがみ込みながら告げる。
「成陵の試験は、明日で終わるんだ。もう、この駅には来ない。」
だから―――と。
彼が続きを言う前に、救急隊員さんが私達のところに到着した。彼は、チラッとそっちを見てから、もう一度私を見たけれど、そのまま身体を起こし、私から離れて駅員さんと階段に向かった。
そして私は、というと。
そのまま、階段を降りていく彼の背中を見送りながら、救急隊員さんに様子を聞かれ、歩けるからとストレッチャーを断固拒否して救急車に乗りこみ、病院へと搬送された。
病院では頭を打ってるとの事で、CTスキャンを撮られ、傷口は縫う程では無いだろうと判断された上で、消毒と軟膏を処方されてガーゼをあてられた。
「夜中とかに気分が悪くなったとか、吐いたりとかしたら直ぐに救急車を呼んで下さいね。」
という注意事項を貰った上で、迎えに来た母に連れられて家に帰ったのだけれど。
―――結局、彼は一体何者だったんだろう?
という謎に囚われたまま。
まんじりともせずに、夜を明かしたのだった。
どっちかっていうと、「へ」に近かったと思う。
思いがけない問いかけに、間の抜けた声が出た。
突き飛ばされた?―――誰に?
「あの時の、アイツが、いただろ?何か逃げるみたいに走ってったけど。」
「…あ」
言われて、あのカンジの悪いニヤけ顔が脳裏に蘇る。
目の前に飛び出されて、
ビックリして、
それで……。
「大丈夫か?」
ハッとして顔を上げると、彼がまだ膝をついた状態でこっちを覗き込んでいた。慌てて微笑んでみせる。
「あ、…大丈夫。うん。それに、突き飛ばされては、ない、し。突然目の前に出てきたから、ビックリはしたけど…」
「目の前に?」
あ、しまった。
彼の眉根が寄せられてる。
「あの…、ホントに、実際何かされた訳じゃ無いっていうか…」
何となくしどろもどろになりながら言っている間に、駅員さんが戻ってきた。
「救急車すぐ来るからね。おうちの人、連絡ついた?」
「えっ、あっ…」
慌ててスマートフォンを取り出そうとしたところで、ズキッとまたこめかみに痛みが走った。
反射的にこめかみを押さえて俯くと、不意にその手が温かなものに包まれる。
―――えっ?
顔を上げて“それ”が彼の手の平だと気付いた瞬間、鼓動が跳ねた。
そんな私の顔を、彼が心配そうに覗き込んでる―――って、待って待って、近くない?!
「無理するな。発信までしてから、親には駅員さんから話してもらえ。」
そう言って目を細めるとか、何なの、これ?!
顔に熱がどんどん集まってくるんだけど!!
なのにこの顔が綺麗過ぎて目が離せないなんて、どーしたらいいの?!
またしても内心パニック状態なんだけど!!!
「あー、えーっと、その、ホントにすぐ来ちゃうんだけどね?救急車…」
ゴホン、という咳払いに我に返った。
同時に彼の手も離れたので、慌ててスマートフォンを取り出したけど、通話アプリを立ち上げる指が震えてしまう。
“通話”をタップして耳に当てようとしたところで、スマートフォンを彼に取り上げられた。
彼はそれを駅員さんに差し出す。
駅員さんは、一瞬困った様に躊躇ったけれど、彼の有無を言わせぬ雰囲気に押されて受け取った。
おかしい、何かこの場の主導権が“彼”になってるんだけど。
「あ、もしもし?えーと…」
通話が繋がったらしく、スマートフォンを耳に当てた駅員さんがこっちに視線を寄越す。
そうだ、まだ駅員さんに名前を言ってなかった―――そう気付いた私よりも、早く。
「コウサカ、シズル、です。」
迷い無く、ハッキリと、彼は私の名前を口にした。
駅員さんが、驚いた様に目を見開く。
「あー、コウサカ、シズルさんの、親御さんで間違いないでしょうか?」
電話の向こうでお母さんが肯定したんだと思う。
そのまま、駅員さんが電話を続けていたけど、私の耳には全く内容が入ってこない。
駅員さんに向けられていた彼の視線が、私に戻った。
「…名前…」
どうして?と言いかけて、思い出した。
そうだ、この人、大地と…
彼が少し困った様に微笑んだ。
「大地に聞いた。…中学は、同じになるだろうと思ってたんだけど、違うとこ行ったんだろ?」
「え…?」
「サッカーも辞めたって、大地が。」
彼の言ってる意味が分からない。
どういう事?
中学は?
それってやっぱり、チームメイトでは無かったって事?
でもそれならなんで、私を―――知ってるの?
「あー、ゴメンね。ちょっといい?」
またしても駅員さんの声にハッとなる。
苦笑気味にスマートフォンを差し出され、慌てて受け取った。
「救急車来たみたいだから、病院決まったら連絡してくれって。そっちに迎えに来られるそうだよ。」
「あ、はい…スミマセン。ありがとうございます。」
いえいえ、と言う駅員さんの向こう、階段からストレッチャーを持った救急隊員さん達が上がってきて、それを見た彼が立ち上がる。
追いかけるように立ち上がろうとした私の肩を、彼がまた押さえた。
「シズル―――」
と、当たり前のように彼が私の名前を呼んだ。
「しばらくこの駅を使わないで家に帰れるか?」
「え―――」
目を見開く私に、彼がかがみ込みながら告げる。
「成陵の試験は、明日で終わるんだ。もう、この駅には来ない。」
だから―――と。
彼が続きを言う前に、救急隊員さんが私達のところに到着した。彼は、チラッとそっちを見てから、もう一度私を見たけれど、そのまま身体を起こし、私から離れて駅員さんと階段に向かった。
そして私は、というと。
そのまま、階段を降りていく彼の背中を見送りながら、救急隊員さんに様子を聞かれ、歩けるからとストレッチャーを断固拒否して救急車に乗りこみ、病院へと搬送された。
病院では頭を打ってるとの事で、CTスキャンを撮られ、傷口は縫う程では無いだろうと判断された上で、消毒と軟膏を処方されてガーゼをあてられた。
「夜中とかに気分が悪くなったとか、吐いたりとかしたら直ぐに救急車を呼んで下さいね。」
という注意事項を貰った上で、迎えに来た母に連れられて家に帰ったのだけれど。
―――結局、彼は一体何者だったんだろう?
という謎に囚われたまま。
まんじりともせずに、夜を明かしたのだった。
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