残念少女は今ドキ王子に興味ありません

はなの*ゆき

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にじゅうよん

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「いらっしゃいませ~」

 野太い声に出迎えられてそっちを向くと、紺色のエプロンをかけたマッチョな男性が微笑んでいた。

「あらぁ、久しぶりねぇ?」
「こんにちは、ご無沙汰してます。」

 駅から少し歩いた所にあるこの酒屋は、レイちゃん行きつけのお店だ。
 店舗自体はこじんまりとしていて、あまりお客さんがいるのを見た事がないけど、ネットでかなり手広くやってるらしい。

「レイちゃんいなくなっちゃったから仕方ないけどさ、たまには顔見せてよね?」
「はい、ありがとうございます。」

 にっこり微笑んでそう言うと、うんうんと嬉しそうに頷いてくれる。
 レイちゃんのお遣いで何度か来てる内にすっかり馴染んだこの店長さんは、オネエ言葉だけど、ちゃんと奥さんも子供もいて、すごく気のいい人だ。
 客商売の酒屋を継ぐにあたって、厳つい外見を和らげる為に始めたとかいう話らしいけど、単純に趣味なんじゃないかと密かに思ってる。

「今日はなぁに?生憎、ウエハースは昨日レイちゃんに送ったばっかりでねぇ、バニラ1袋しか残ってないのよ~。」
「あ、そうなんですか?」
「そうなのよ~!あの子ったらさ、“獺〇”のスパークリング送れとかメールしてきて!ベトナムにお酒送るの大変なのよ?!それなのに送料までオマケしろとか、もーっっ」

 うわぁ…レイちゃん、何て事…

「す、スミマセンッッ」
「ああ、まぁいいのよ、1人で海外で頑張ってるから、それはね。」

 苦笑する口許を片手で覆ってもう片方の手を振る店長さんに恐縮する。うん、これはもう買わずにはお店出れないわ。
 幸い、レイちゃんお気に入りのイタリアメーカーのウエハースは、私も大好物だし。

「えっと、じゃあそのバニラ1袋下さい。あと、炭酸ありますか?」
「あるわよ~、1パック届けましょうか?」
「あ、いえ、6本でいいです。持って帰るので。」

 フランス産のスパークリングミネラルウォーターは、500ml入りのペットボトルが24本でパッキングされている。1番外側のそれを破ると、今度は6本でパッキングされたのが出てくるという仕様になっていた。

「後はいい?」
「はい、お会計お願いします。」

 そう言ってレジに立つと、カウンターにビニールで包装されたメモ用紙が積んであった。
 可愛らしい花柄模様で、“Liquor store Andou”と小さく表記されている。

「あ、それねぇ、可愛いでしょ? 通販始めてから5周年になる記念で作ったのよ~。3,000円以上お買い上げの方にオマケで付けてるんだけど、いる?」
「え、あ、でも…」
「いいわよ~、よく買ってくれるから、オマケ。」

 入れとくわね~と、もうビニール袋に入れてられてしまったので、すみませんと言いながら受け取った。


 また来てね~と入り口まで見送ってくれた店長さんに手を振って、元来た道を戻る。
 1回レイちゃんちに入ってから、ちょっと戸棚を漁らせてもらう。持ち物が結構そのままになっていて、目的の物もウォークインクローゼットの中に残っていた。
 何処かのブティックのモノらしき、しっかりと厚めの紙袋に、さっき買ったミネラルウォーターを入れる。
 レイちゃんは意外としっかり整理する人で、そしてその傾向はうちの母によく似ていたから、難なく封筒を見つけた。
 ちょっと考えてから、封筒の表にメモを書く。

“昨日のお礼と、クリーニング代を入れておきます。
 ありがとうございました。 高坂”

 その中に千円を入れて立ち上がった。
 部屋を出て、エレベーターで1階に降りる。一旦エントランスを出て、メールコーナーへ入ると、直ぐの所にあった宅配ボックスを開けた。
 この宅配ボックスは、その名の通り不在でも宅配便を受け取れるようにしたもの。ボックスに入れて扉を閉めてから、暗証番号を設定する。
 その暗証番号をメモに書いて、401号室のポストに落とした。

 お礼、にしては安いかな、とも思ったけど。
 彼は運動しているから、甘い物は食べないかもしれないし、スポーツドリンクなんかは好みがあるだろう。


『大丈夫だよ、これ、砂糖入ってないから。』

 そう言った彼女の言葉を思い出す。
 ひとしきり練習した後、喉が渇いた私に、飲む?と言って差し出してくれたのがこれだった。

『え、炭酸は…コーチに怒られちゃう。』

 コーチは結構口うるさい人だったから、そう遠慮したのだ。
 そうしたら、彼女がそう教えてくれた。

『炭酸はね、疲労回復効果あるんだよ。アスリートとかも飲んでるんだって。砂糖無しなら問題無いから、よく飲んでるんだ。』
『えっ、そうなんだ?』

 恐る恐るながら飲んでみると、喉に刺さる刺激と、爽やかな酸味があった。何も入ってないって、嘘じゃ無いの?と聞いたら、また彼女が笑った。

 コレを飲んだから上手になる、何て事は無いと思ったけど。
 それ以来、自分のお気に入りになった。

 今思えば、彼女と同じ物を共有出来る事が嬉しかったのかもしれない。
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