残念少女は今ドキ王子に興味ありません

はなの*ゆき

文字の大きさ
29 / 39

にじゅうはち

しおりを挟む
 咄嗟に引き抜こうとした手を大地が更に強く掴んだ。

俺の方が先・・・・・だったんだぜ?」
「は…?」
「シノは、Twitterとかそういうの、興味ねぇから。俺は高校んなってやっとスマホ買ってもらってさ。オマエまだ、サッカーやってねぇかなって、何となく、検索するようになって…」

 大地は言いながら、また親指で肌を撫でる。
 これ、無意識なんだろうか。
 正直、止めて欲しい。だって何だか落ち着かない。
 混乱する私の前で、大地がふっ、と笑った。

「オマエもやってないよな…ぽいけど。でも、“シズル”って入れると、まあ大体芸人とか、他のがヒットしてたのに、何かコミュニティ?でヘンなの見つかってさ。」

 その言葉にドキリとした。
 例の、アレだ。
 そう言えば、大地も言ってた。
 “アイス・メイデン”―――って。

「写真だけだと全然わかんねぇよな。3年も経ってるし。」

 言いながら、大地は手を滑らせるようにして、今度はぎゅっと手首を掴んだ。

「髪も、伸びてるし…」

 腕も―――と、呟いて大地が視線を落とす。
 私の手首にぐるりと巻き付いた人差し指の先が、親指の第一関節に届いたのを見て、大地の唇が弧を描いた。
 その親指が、今度は腕の内側の柔らかな場所を探るように撫でると、ざわり、と、さっき以上に肌が粟立つ。

 わからない、何でこんな事するんだろう。
 ちょっと本気で止めて欲しいっっ

「だっ、大地っ…「“黒蜜きなこ”」」

 へ?―――一瞬、キョトンとなった。
 黒蜜きなこって、―――まさかあの、アレ?
 顔を上げると、大地が昔よくしてたようなドヤ顔をしている。

「ミョーなトコだけ変わってねぇよな。ほら、試合ん時、オマエ変な菓子ばっか持ってきてたじゃん?」
「へ、変な菓子って…」
「アレだよ、黒棒?とかしるこサンドとか。どこのばーちゃんだよっての。」
「それは、チョコなんかはバッグん中で溶けちゃうからでっ」
「って言うけどさ、ないだろ、フツー。でもそれでわかった、“シズル”だって。」

 そう言って、あの頃のように笑った大地が、次の瞬間、すぅっ―――と糸を引いたように笑みを納めた。
 
「―――会いに行こうって。」

 グッと、手首を握る手に力が籠もる。
 まさかこのまま、バキッと折っちゃうつもりじゃないよね?って、軽く恐怖を覚える程に強い。

「早くそうすれば良かった。今日みたいにサボっちまえば、俺だったかもしれないのに。シノじゃなくて、さ。」 
「は…?」
「『“シズル”だった』って、シノから言われるとか。…写真見せても、ふーんってそんな位だったくせに、何でだよって思うじゃん?」
「そんな事言われても…」

 つまり、“彼”も掲示板の事は知ってたんだ…なんて、今はそれどころじゃないかも。
 だって、何だか段々大地の目が据わってきてる気がする。
 声も聞いたことが無いほど低くなってるし、怒ってるカンジっぽい。
 でも、何で?
 戸惑いながら首をかしげると、大地が口許を歪めて笑った。

「やっぱオマエもアレ?助けてもらって惚れたとか?」
「はい?」
「“王子”とかって、騒いでるじゃん?」
「って、私が騒いでる訳じゃ…」
「じゃあ、別に好きじゃ無いんだ?」
「す―――」

 すき?

 一瞬、思考が止まった。

 “すき”って、“好き”?

 頭の中で漢字変換したと同時に、自分の顔を覗き込んでいた切れ長の瞳が蘇る。
 直ぐ近くで、微かに感じた彼の息遣いと、手の温もり。

 その瞬間、胸の奥がきゅっ、と撓った。
 そこから何かが染み出すように、溢れ出る。
 瞬く間に全身へと広がっていく、“それ”に息を詰めた。

 何だろう、これ―――

 どんどん膨らんでいく何かに胸苦しさを覚えて、息を吸い込もうとした時だった。

「っだよ…」

 絞り出すような声と同時に、ギリッ―――と更に強く手首を握りしめられる。

「痛った、ちょっ、大地…」

 痛みに抗議の声を上げたのに、大地はそれを無視して握り込んだまま、私の腕を左右に広げて手前に引き寄せた。とっさの事にバランスを崩してたたらを踏んだ私が上げた顔の、直ぐ鼻先に、冷たく目を細めた大地の顔があって。

 ―――近いっっ

 考えるよりも早く、仰け反った頭が。
 次の瞬間、

 ―――ゴッッ

 と音を立てて、大地の顔面にヒットした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...