召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

27話

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 今回の魔石拾いはみんなで行う。すぐに日が暮れてしまいそうなので後始末は早い方がいい。
 グレーターデーモンの魔石は早々に回収し、亜空間収納にしまっておいた。
 倒壊した建物の残骸を少しずつ吹き散らし、そこにあったものを確認する。

「こいつはひでぇ…」

 骨の山だった。
 ブラッドクリスタルのフレーバーテキストが、何か物騒なものだったのは覚えている。詳しい事は、バニラたちに聞いた方が良いだろう。

「全部、贄にされたんだね…」

 グレーターデーモン自体が、成れの果てという説も聞いた覚えがある。一族の再興と言ってたしな…

「一応、クリスタルも回収しておきやした。もう、残りカスみたいなもんですが。」
「提出はしておきたいね…」
「そうだな。」

 オレが亜空間収納で保管する。ここなら影響も少ないだろう。

「ちょろまかしても良かったんだよ…?」
「冗談を。こんなもん、持ち歩きたくねぇですよ…」

 心底嫌そうな顔をしながら、手を払ってみせる。
 意味があるかは分からないが、この廃墟と全員に浄化を掛けた。何もしないよりは良いだろう。
 獣か人か判別できない骨を一ヶ所に集めて埋葬し、それから魔石を回収する。
 作業が長引き日が暮れてしまったので、オレが複数の光の球で辺りを照らしながらその場を離れ、言葉少なくキャンプ地まで速やかに移動した。
 到着した頃には夜も更け、ジュリアもスカウトも夕食を終えるとすぐに眠ってしまう。
 慌ただしい一日が、ようやく終わりを迎えた…



 気が付くと、周囲は大分明るくなっていた。
 いつ寝たのかも覚えていない。

「おはようごぜいやす。」

 テントから這い出ると、スカウトが焚き火の前に居た。

「すまん。すっかり寝てたな…」
「気になさらず。あたしは大した事してねぇんで。」

 用を足してから上だけ裸になって洗浄と浄化をし、着ていた物は別に洗浄と浄化を朝食の準備をする。脱いでようやく汚れている事に気付くくらい精神的に疲れていたらしい…
 スカウトはこの場で脱ぐとはいかないだろうから、洗浄と浄化を掛けてからいつも通りの食事を出すと喜んで食べ始めた。

「ジュリアはどうした?」
「すぐ寝袋に潜ったは良いんですが昂りが治まらず、結局遅くまで起きてたようでして。その分、あたしは寝させてもらえやしたがね。」

 こいつのちゃっかりしてるところは見習いたい。

「もう一眠りしてきても良いぞ?」
「遠慮しておきやす。昼まで起きれなくなりやすよ?」
「それは困るな。」
 
 そんな感じで食べながら会話をしていると、ジュリアが匂いに誘われて出てくる。

「おはようございます…」
「おはよう。」

 欠伸をしながら這い出てきたジュリアはすぐにに用を足し、挨拶がてら洗浄と浄化を掛けてやる。
 少し驚いたようだが、すぐに理解して焚き火の所に座る。

「昨日は先に寝て悪かったな。」
「謝らなくて良いよ…逆になんだか眠れなくて…」

 ジュリアの分は既に用意してあったので、再度温めて渡す。

「ありがと…」

 仕事は終わったが、考えなくてはならないことがある。
 スカウトの扱いである。

「どうかしやしたか?」

 どうしたものかと白いエルフを見ていると、不思議そうにこちらを見る。

「ここまで世話になるともうカトリーナさんに紹介しないとダメだよなぁ…」
「だよねぇ…」
「あたしの事でしたら勝手にやってる事ですんで。」
「言っただろ、タダ働きもさせないって。まあ、騎士団まで来いとは言わんが。」
「旦那は本当に人が良いですね。」

 その分、戻ってからの事を考えると頭が痛い。

「こっちも世話になってるんだ。しっかり礼くらいさせろ。」
「…では、お言葉に甘えさせていただきやす。」

 そう言って、スープのおかわりを要求してきた。

「いい性格してるよ。」
「よく言われやす。」

 いい笑顔をされ、オレにはそれ以上どうこう言うことはできなかった。
 そんな笑顔のヤツを邪険には出来そうにない。




 その後、三日掛けて王都へ戻ってくる。
 スカウトが迫害され欠けたり、ジュリアが空腹で崖から落ちそうになったりという事もあったが、互いに助け合う事で信頼関係が強固になっている気がする。
 ジュリアが憎まれ口を叩くと、するりと流す巧みさは見習いたい。

「そちらのエルフは…」
「うちのメンバーだが。」
「ですが、咎人でしょう?」
「それがどうかしたか?」
「…いえ。しっかり面倒を見るならこれ以上は。」

 門でそんなやり取りを終え、ようやくルエーリヴに帰って来れた。

「随分、離れてた気がするな。」
「そうだね…」
「あたしは10年くらいぶりですから、そんなに久し振りという気がしやせんね。」

 エルフは本当に時間感覚がバグるな。深入りすると怖い。

「すぐ帰りたいが、騎士団に報告してくる。二人は家に戻っていいぞ。」
「カトリーナさんに怒られておくね…」
「いったいどういう御人で?」
『すぐに生殺与奪を握られる…』
「お、おおぅ…?」

 ここで二手に別れ、オレは騎士団に報告に向かった。



「…以上となります。」

 ジュリアから預かってた依頼書と、戦利品の魔石、ブラッドクリスタルの残骸を提出する。
 スカウト含め、隠すことなく全て報告した。道中で知り合った協力者という事にはしたが。

「グレーターデーモンの魔石まで…」

 対応しているのは請け負った時と同じエルフの騎士だ。この件の担当者なのだろう。だいぶくたびれた様子。
 ジュリアたちから説明を受けていたが、本来は十数人で相手をするレベルらしい。それを三人、しかも無傷でという報告は信じられないようだ。

「ブラッドクリスタルが気になりまして、個人的に調べたいのですが。」
「組成をですか?」
「それもですが、作用もです。」
「そういう事ですと、許可できません。町で何が起こるか分かりませんので。」

 それもそうか。

「確かに…では、諦めることにします。」
「こちらで調べますので、何か解れば報告しますね。
 そして、こちらが報酬となります。」

 小袋の中身を確認すると中金貨15枚ほど。
 価値は後で確かめよう。

「巣を二つ、しかもグレーターデーモン一匹倒したという事は冒険者ギルドに報告しておきます。」
「助かります。」
「いえ、あの辺りが手薄だったのはこちらの落ち度です。スタンピードの抑止、大変感謝しております。
 発生していたらと思うと、ゾッとしますからね…」

 あっさり倒せたのは武器と魔法のお陰だ。バンブーとバニラには感謝しよう。

「他にも似たような場所はあるのでは?」

 思い切って気になっていたことを尋ねる。
 ブラッドクリスタルの事を含め、どうにも自然発生とは思えない。何か黒幕でもいるのだろうか。

「お恥ずかしながら手が足りていない状況でして…
 魔法院の方で位置の観測までは出来ているのですが、なかなか全部対処するのは…」

 これはスタンピードもあるかもしれないな。家に戻ったら話しておこう。

「グレーターデーモンさえも少人数で圧倒できる方々だ、続けて受けてくださるようならこちらとしては大歓迎です。」

 すぐに受けても良いが、持ち帰った問題もあるからな…

「独断では決められません。戻って他と相談してからにします。」
「わかりました。良い返事を期待しております。」

 苦笑いをしつつ、エルフの騎士はそう締め括った。
 騎士も人手不足で疲労が隠せないようだし、期待には答えてやりたいものである。




「そこにお座り下さい。」

 帰ってくると、掛けられた第一声がそれだった。
 親指が示す先には、辛そうな表情で正座をする二人の姿があった。
 はい。素直に従います。
 オレも二人の横で正座をし、腕組みをして見下ろすカトリーナさんを見上げる。威圧感プレッシャーが凄まじい…

「こちら、今回の報酬となります、お受け取りください…」

 中金貨15枚全てをカトリーナさんに献上し、神妙に沙汰を待つ。

「中金貨15枚ですか。ケチな騎士団にしては奮発して下さいましたね。」

 辛辣である。
 一応、雇い主なのでそこまで言えない…

「旅の一部始終はやわらかエルフから聴取させていただきました。」
「やわらかエルフ…」

 横で正座するジュリアが不満げな声を漏らす。

「目的地まで行くまでに悪天候の不運があったようで。」

 チラッとスカウトの方を見る。口をキュッと閉め、寒い玄関で汗をだらだら流していた。
 一人だけ【鬼神化】の威圧効果を受けまくってる状況だな…

「人助けは良いでしょう。仕える旦那様として誇らしいです。ですが、やり過ぎです。
 食事は良いです。洗浄、浄化が良くなかった。
 言葉遣いは壊滅的ですが、北方エルフはヒュマス以外には魅力的に見えるのです。それを誤魔化すために汚れていたと、何故気付けなかったのですか。」

 汚れていて、卑屈でいれば面倒を避けられていたのか。
 そこまで考えが及ばなかった…

「ですが、その先は素晴らしいの一言です。
 旦那様なら、グレーターデーモンくらい敵ではないでしょう。三人の連携も良かったようですね。」

 二人の表情に照れたような笑顔が漏れ出る。誉められて嬉しいようだ。

「で、北方エルフの処遇ですが…」

 皆が息を飲む。
 真の主の判断はいかに。

「家では私の元で働いてもらい、旦那様の仕事にも同行して貰います。」

 カトリーナさんの判断に、二人は嬉しそうに見合う。すっかり仲良くなったようだな。

「ただ…」

 顎に手を当て、何やら考え込む。

「咎人であるのが問題です。仕事も家の中だけではありませんし、当家には幼い客人も多いので…」
「あたしなら奴隷でも構いやせん。その上で、晩の仕事だけでも良いです。」
「そうもいきません。宿泊される方も多いのです。夜はその方々の為に働いて貰いますから、奴隷に相手をさせるというのは印象が悪い。そして、咎人でも変わらない…」

 そう言って、大きくタメ息を吐く。
 一筋縄ではいかないとは思っていたが、やはり条件が厳しいようだ。

「お嬢様方、隠れてないでこちらへ。」

 驚いた声を上げて、苦笑いをしながら四人とも姿を見せる。
 こんな姿で再会はしたくなかったよ。

「勉強の一環です。あなたの状況を説明してください。」

 北方エルフに説明を要求し、腹を括った様子でカトリーナを見上げる。

「あたしの恥ずかしい話をしやしょう。」

 見た目通り、生まれはエルフの森の北部。家は領主だが、より大きな領主に代々仕える家系だったそうだ。
 自分もそのつもりで、剣に弓に魔法にと技術を磨いたらしい。腕前も上々で、同世代で屈指だったそうだ。
 こっちへは留学のような形で来ており、その頃は幅広い交遊関係を築いていたとのこと。
 だが、その中の一部がよろしくなかった。権力を傘に着て、やりたい放題の連中がいたそうだ。
 腕っぷしは強いが、見目麗しい白いエルフの令嬢。我が物にしようと、実力行使に出たのが裏目に出る。返り討ちに遭い、男として再起不能。あまりの出来事に親も憤慨し、強権で司法に介入。令嬢を犯罪者に貶めた。
 だが、時はエディさんによる粛清真っ只中。醜聞はエディさんの耳に入り、一族は追放されたらしいとのこと。
 令嬢は裁判の段階で家からは絶縁され、全てが終わった頃には刻印が施され追放者として各地を転々とする旅の日々だった。一族は司法に介入し、粛清される前に北方エルフの少女を『不能者』へと貶めていたのである。

「待ってください。その裁判、確か…」

 カトリーナさんが慌ててその場を去る。

「北方エルフさん、名前はあるの?」

 リンゴが興味津々といった様子で名前を尋ねる。

「勘当されたあたしに名前はありやせん。」

 当然のように答える。

「それは不便じゃないのか?」
「追放者に名前なんて必要ありやせん。名乗ることも、呼ばれる事もありやせんからね。
 #&%とも@&\#とも好きに呼んで下さって結構です。」 
「おいやめろ。教育に悪い。」
「へへ。すいやせん。」

 とんでもない呼称を言い出す。小さい子も居るんですよ!

「どういう…」
「リンゴちゃんはまだ知らなくていいからねー」

 頼むぞバンブー。ホントに頼む。

「急に離れて失礼しました。」

 カトリーナさんが傷んだ紙束を持ってやってくる。

「あなたの元の名前はリュドミラ・シュリャホバヤですか?」

「へぇ。その通りで。」

 その中の一枚を取り出し、読み上げる。

「エルディー魔法国王エディアーナの名の下、リュドミラ・シュリャホバヤへの裁判に瑕疵を認め、無罪放免とする。」 
「えっ…」
「正式な書類です。覚えていて良かった。」

 持っている紙束は公的な書類なのだろう。保管が甘いのが気になるが…
 北方エルフ、改めリュドミラは書類を震える手で受け取り、内容を確認して抱き締めるようにうずくまる。
 漏れ出る声から泣いているようだが、どう声を掛けたら良いのか誰も答えを持ち合わせておらず、ただ眺めるしか出来ない。横に居たジュリアが、その背を触れるか触れないかという感じで撫でるだけだ。

 数分ほどして、落ち着いたのかようやく顔を上げる。その間、オレたちはまだ正座を続けていた。もう許してくれても良いのでは…?

「すいやせん。色々と心がおっつきやせんで…」

 まだ涙声のままだ。10年の誤解を紙切れ一枚と数分でどうこうは難しいだろう。仕方がない。

「リュドミラ、これからあなたはどうしたいですか?」

 カトリーナさんに問われ、一つ深呼吸。
 そして、晴れ晴れとした表情で宣言する。

「リュドミラという娘はもうおりやせん。ここに居るのは名前のない北方エルフ。
 この北方エルフ、生涯旦那についていきやす。棄てたと思った人生を再び拾えたのは旦那のお陰です。この恩に報えないのはあたしの魂が許しやせん。」

 色々と思う所はあるだろう。自分では止められたと思っていた涙がまた溢れだしている。顔以外に咎人の刻印が施されたという事実は、きっと簡単には払拭できない。それによる仕打ちも忘れ去れない。

「旦那、どうぞこれから存分にこの命を使ってくだせい。あたしの命は旦那の物ですから。」

 オレの方を向いて土下座をする。左手では大事に紙切れを抱えたまま。
 
「何言ってる。お前の命なんて預かれない。」

 手を握り、そう言うと心底驚いた表情で顔を上げる。

「お前の命はお前のものだ。オレには重すぎて抱えきれないよ。」

 一瞬、感情が抑えきれずに表情が大きく歪む。それを見て、一本取ってやった気分になり、思わず笑みが浮かぶ。

「旦那、ズルい…ズルいですよ…ヒドイ、御人だぁ…」

 リュドミラはオレの膝をポカポカ叩き、再び泣き出した。
 今までの飄々とした様子は微塵もなく、わぁわぁとまるで子供のような大泣きだった。
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