召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

92話

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 1時間の水遊び、30分の昼食、30分の昼寝といった感じの昼休みが終わる頃にはバニラも復活していた。
 遥香の様子を見に行くと一人で食事をしている最中だったので、オレたちも付き合うことにする。食事は先に済ませてしまったので、バニラとロッティが付き合った。

「遥香、調子はどうだ?」
「よくわかんない。まだ、刀抜いたことないし…」
「それもそうだ。」

 遥香の答えに納得するバニラ。
 自身にとっての未知の一太刀がどうなるのか、期待はしつつそれが過剰にならないようにしないといけない。

「遥香、初めての事だし失敗しても気にするな。わたしは初めてのことはほぼ失敗しているからな。」
「うん。よく知ってる。」

 モグモグと、3つ目のプレストーストを食べながら当然のように答える遥香。
 その答えに微妙な表情になる発明家と、『あ、そうなんですね…』と言いたげなその助手。
 バニラは誰と組んでも面白いコンビになるな。相方は気の毒だが。
 オレの影から飛び出すタマモとレッド。
 慣れていないロッティが、ビックリして仰け反りそうになった。

「急にどうした。」
『大珊瑚海の竜について話そうかと思ってのう。』
『この先にはブルードラゴンが棲んでいるはずです。』
「ブルーか…」

 レッドと同じような大きなトカゲだろうか?
 レッドや東のあれのようなドラゴンは、ゲームに居なかったのでピンと来ない。
 ドラゴンはいたのだが、獣の延長みたいな存在だったからな。

『亀みたいなドラゴンです。非常に大きく、鱗と甲羅の上が青くなっていますよ。』
「甲竜なんだな。好戦的な性格か?」
『逆ですね。のんびりしててマイペースと言いますか…』
『恐らく、嵐の海は寝るのを邪魔されない為のものじゃろう。『北のあれ』には見習ってもらいたいのぅ…』

 タマモが封じてるのは余程のようだ。東のあれも紙一重な部分はあるが…

『あの方にとって、暴虐と生きることは同じことですから…』

 生きる天災ではないか。そんなものが解放されないよう願おう。

『それよりハルカよ。恐らく、おまえの一撃でここの竜を叩き起こすことになる。
 その後の事は覚悟しておくと良い。』
「倒さないとダメ?」
『目的と、叩き起こすことになった理由を素直に話すのじゃな。』
「まあ、それくらいなら…」

 不本意のようだがしかたない。守護者とは良好な関係でいたいからな。
 食事を終えた遥香が立ち上がり、ストレッチを始める。

「気力は充実、魔力は万全、お腹も満たされた。後は嵐の前に行くだけだよ。」
「頼もしい言葉だ。」

 バニラも残りのプレストーストを食べ終え、立ち上がる。

「さあ、旅の仕上げだ。
 いつも通り、わたしたちの前に道を切り拓いてくれ。」
「うん。任せて。」

 バニラが出した握り拳に、コツンと遥香もぶつけ返す。
 ニヤリと笑う二人の姿は、頼もしさを感じる程だった。




「出航だー!」

 バニラが号令をすると、動き出すグロリアス。
 船首の方には遥香とソニアが準備しており、足場にするソニアのピラーにアンカーを繋いでいた。
 一太刀で出し尽くしてしまう可能性を考慮してだろう。刀と遥香の腕も細いワイヤーで繋がっているそうだ。

「色々と考えたな。最悪を潰していくのは良い傾向だ。」
「遥香はあまりそういう事を考えるタイプじゃなかったからなぁ。失敗を経験してか、誰かさんを真似してか…」

 意味深な表情でオレを見るバニラ。

「余所見すると座礁するぞ。暗礁も多いからな。」
「そんなもの、わたしたちのグロリアスなら砕いて進める。気にするほどじゃないよ。」

 そう言えば、受け渡された時にも親方から注意されたな。ぶつかるとぶつけられた側が壊れると。

『船までバケモノじゃったか。まともなのはお前の助手と魚人の片割れくらいではないか?』

 前の方でレッドとガラスに張り付きながら言うタマモ。やはり見ずにはいられないようだ。

「努力の結晶をそう言われるのは心外だ。
 だが、まともじゃない、は誉め言葉として受け取っておくよ。」

 笑顔で言い返すバニラ。
 様々な失敗の上にある集大成がこの船だ。悪く言われるのは気に入らないだろう。
 だが、そこは言われ慣れたバニラ。その程度で憤慨するような事はなかった。

『これで終わりではなさそうな事の方が妾は恐ろしいぞ…』
「まだまだ目指す場所はある。今のグロリアスだけじゃ行けない所もな。これで満足はしていられないよ。」
『御主らの旅に真の終わりは訪れるのかのう…』

 何とも言えない声色のタマモは窓の方を向き、深く息を吐く。

『ああ、この感じ、御主と自称勇者の決戦と同じじゃな…
 長い時間掛けて魔力を整えるのも、一撃で出し切ろうとするのも一緒じゃ…』

 懐かしさと寂しさの混じる声。

『だが、一人じゃないのはこんなにも心強いのじゃな。あの時の御主に教えてやりたいわ。』

 自分の命を含め、終わらせる為の一撃と、先へ進み続ける為の一撃は違う。
 そして、この一太刀は今の遥香を証明する為の一太刀。側にソニアが居て、ここからはオレたちが、大部屋ではタマモを介して皆が見ている。
 遥香がゴーグル付きの帽子を外し、ソニアに預けてピラーに乗った。
 いよいよその時が来る。
 天候が再び荒れ始め、船首より向こうへ移動した遥香の長くなった髪が風に弄ばれていた。ソニアは離れて壁に体をくっ付けている。

「遥香、後はお前の呼吸に合わせろ。」

 バニラがそう言うと、遥香は固定していない左足を大きく下げ、体を深く沈み込ませる。
 あれだけ練りに練った魔力が更に一段、いや、二段階研ぎ澄まされ、刀へと集中していく。
 見事な魔力に言葉が出ない。オレの理想とする輝きがそこにはあった。

 抜刀、一閃、納刀。

 一瞬で全てが解放され、全てが終わる。

「ソニア、遥香を下げろ。」

 大慌てで下げられる遥香の体がぐらつき、危うく落ちそうになった所をソニアに救助された。
 刀はしっかり納刀まで済ませたので無事である。

『なにもおこ』
「みんな、掴まれ!突っ切るぞ!」

 バニラの指示より早く、首を傾げるタマモとレッドを掴み、ロッティへと投げ渡してから席に着き、オレも魔力タンクとしての仕事を始める。
 ソニアは遥香を連れ、影移動で大部屋へと移っていた。
 チラッとだが、遥香が鼻血を出しているのを見ている。諸々の処置の方法は、バニラが事前に伝えているので大丈夫なはずだ。

 グロリアスが加速を始めると同時に割れる海と黒雲。
 差し込む陽の光が道のようになり、海と空を割る虹色の輝きはグロリアスを導くパレードの光に、海が消えて困惑する海洋生物達は観衆に思えた。

「船体が吸い込まれるように進む…まるで、遥香に手を引かれているみたいだ…」

 妹のやったことに感激して、今にも泣きそうな声のバニラ。
 苦労や挫折を見てきて、誰よりも率直に受け止めて来たからこそだろう。

『おお…おお…!あの時以上の輝き!あの娘、やるではないか!』
『人の身でこの域に至れるとは…驚愕するしかありません…』

 そんなのは当然だ。いつか、オレを越える。そう言って修練を重ねてきたあの頃。
 その時が来たのを、オレは認めるしかなかった。

「しっかり、遥香を労ってやろう。その為に、まずはこの海を越えるぞ。」
「もちろんだ!」

 遥香の虹色の輝きに導かれ、グロリアスは嵐の海を渡り切る。
 この旅、最後の目的地である大珊瑚海にオレたちは到着したのであった。




「…師匠が絶対に抜くなと言った意味が半分だけ分かったよ。」

 オレと同じ、過負荷状態に陥った遥香。
 それだけでなく、体の方も耐え切れなかったようで身動きが出来ずにいる。
 今回は遥香がミイラ男…いや、ミイラ女になっていた。絶対に動くなと言うバニラによるいましめのようである。
 そんな遥香を休ませる個室として、離れた所にコンテナを1台準備した。

 巨大珊瑚島に浜にグロリアスを乗り上げ、海から離れた所に簡易乾ドックを設けて船体のチェックをしている。探索はその後だ。

「半分じゃ怒られそうだな。」
「そうだよね…」

 その反応に笑うオレとバニラ。

「私は気を失って見れなかったんだけど、どうだった?」
「もう、お前はオレを越えたよ。魔力も、剣の腕もな。」
「でも、この一瞬に時間が掛かりすぎてダメ。安定して一瞬が常になるまで『英雄越え』は預けとくね。」
「その向上心は流石だよ。わたしも敵いそうにない。」
「そんな事ないよ。私はお姉ちゃんみたいに失敗したくないもん。」
「ぐぬぬ…複雑な気分だ…」

 笑い出す遥香だが、すぐに痛みで笑うのを止める。

「3日の辛抱だ。3日立てばあとは普通の筋肉痛と同じになる。よく食べ、よく寝るんだぞ?」
「大丈夫。お姉ちゃんと違ってそれは得意だから。」
「…反論できない。」

 すっかり反抗期の様子も、二人の間の妙な距離感は消え、以前よりも仲が良くなったように思える。

「ねえ、〈白閃法剣〉はこの先何になれるのかな?」
「何にでもなれる。踊り子、歌手、絵描き、料理人、魔導師、製薬師、剣聖…
 目指したいものを目指せ。」
「そんなにいっぱいあると迷っちゃうよ。でも、どれも楽しそう…だな…」

 急に電池が切れたように眠り出す遥香。
 バニラがスッと薬を見せてくれた。どうやら、眠り薬が効いたようである。

「ユキ、後は頼むぞ。カトリーナも休ませたい。」

 さっきまで付きっきりで看病していたカトリーナを魔法で眠らせ抱き上げる。こちらはこちらで全部放り出して遥香の側に居たがる困り者だ。

「お任せくだせい。あたしにも大事な妹みたいなもんですからね。」

 影から出て来たユキとビクターに遥香は任せ、オレたちは部屋を後にする。 

「ついに父さんを越えちゃったか…
 もう、遥香を導けるのはいないかもしれないな。」
「そうだな。でも、もう大丈夫だ。遥香はもう一人前だからな。」
「そっか…」

 少し寂しそうに見えるバニラの横顔。

「また、遥香は一人旅に出るかもしれない。そんな気がするんだ。」
「そうか…」

 またカトリーナが荒れそうだが、きっと大丈夫だろう。次の旅は、かつてのように闇雲に飛び出すものじゃない。きっと何か明確に求めるものがあっての旅になるはずだ。

「大丈夫だよ。なんせ遥香は、オレの自慢の娘で、」
「わたしの自慢の妹だ。うむ。道が違うなら喜んで送り出してやるべきだな…」

 だが、大きなタメ息を吐く。

「それより、どうすればあんな理想的な体を手に入れられるのか。お姉ちゃんは不思議で仕方ない。」

 顔の前で両手の指を複雑に動かしながら言うバニラ。
 たしかに、ミイラ女状態で体型がよく分かってしまっていたからな…

「よく食べ、よく寝て、カトリーナの訓練を受けるんだな。」
「…作業に支障が出るから止めておく。」

 バニラにとっては、理想の体型よりそっちが大事のようだ。

「グロリアスはどうだ?」
「かすり傷くらいで問題はない。船体に歪みも認められないから無傷と言って良いくらいだ。
 あんな無茶な運用に耐えられるよう、仕上げてくれた親方たちに感謝だよ。」
「旅が終わったらお礼をしないとな。」

 甲板に出て開けた左舷側から遠くを見る。
 夕日に染まる黒雲と荒れた海があり、割れた海と空は元通りになっていた。

「なんだか、夢のような一瞬だった。
 遥香が立ち直れた事も、手を引いてくれた事も、全部夢のようだった。」
「手を引いたのは夢だな。
 だが、気持ちは分かる。あの状態からよくここまで立ち直れたと思うよ。」

 信じてはいたが、そのまま戦闘から退いても仕方ないとも思っていた。
 遥香の師匠、ギンさんに感謝しないといけない。

「だが、これで終わりじゃない。ここを探索して、ルエーリヴに帰るまでが冒険だ。」
『良い言葉じゃな。妾もそう思うぞ。』
『そうですね。私もルエーリヴが楽しみですよ。都会ってどんな場所か知りませんからね。』

 南国特有の生暖かい湿った風が吹き、タマモとバニラの髪を揺らす。が、揃って顔をしかめる。とても臭い。
 どういう事かとキョロキョロしていると、

『あああああ!!』
「わああああ!!」

 タマモとバニラが同時に悲鳴を上げる。
 視線の先を見ると、とても巨大な青い鱗に覆われた首長竜がオレたちを上から眺めていたのだ。
 タマモはレッドの時と同じ反応じゃないか。

『ブルードラゴン様じゃないですか。大きすぎて声がよく聞こえていないようですね…』
「大きいのも考えものだなぁ…」

 目を閉じ、周囲を探知しているととんでもないことが分かってしまう。

「この小島、甲竜の甲羅じゃないか…」
『は?』

 島にしか見えず、そのまま上陸してしまった迂闊さを呪いたい。
 グロリアスも固定してしまっていて、また移動させるには時間が掛かる。

『ヒガン殿、私を連れていってください。御老体と話をしますから。』
「頼むぞ。それと、ソニア。」
『はい。なんでしょう?』
「海底でやっていた声を伝えるあれ、今も出来るか?」
『はい。【同調】ですね。出来ますよ。』

 魔法や魔力操作による行為かと思ったが、独特な変わり種スキルのようだ。
 スキルは色々と持っているが、そういう変わったものは無いんだよなぁ…

「じゃあ、ライトクラフトを着けて甲板に来てくれ。少しやってもらいたいことがある。」
『分かりましたわ。』

 オレも抱いていたカトリーナを日陰に寝かせ、ライトクラフトを装着し、箱にレッドを座らせる。タマモは頭にでも置いておくか。

「バニラは一応、皆に伝えてくれ。万が一の時はさっさと…逃げられたら逃げろ。」

 あまりにも大きすぎて無事に逃げられる可能性が考えられない。
 西の山より大きいのではないだろうか?

『大丈夫だと思いますよ?
 あの方、余程の事がない限り怒りませんので。』
「そう願うよ。」
「お兄様、いったいどうされました?」

 準備の早いソニアがすぐにやって来て尋ねるので、ずっとこちらを見ている顔を指した。

「ひぇっ!?」

 大きすぎてやはり気付いていなかったようだ。

「力を借りるぞ。さあ、話し合いに行こうか。」
「き、きもちのせいりが…あーれえー!?」

 戸惑う義妹の腕を掴み、巨大な顔に向かって飛翔した。
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