召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

102話

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「夕べはお楽しみでしたね?」
「おい、やめろ。」

 ニコニコとやたら丁寧で、穏やかな口調で、声色まで作って言うバニラ。何度も言われてきたが今までで一番怖い。

「何もありませんでしたし、何も起こりませんでしたよ…」

 と言うのも、オレもリリも疲れが抜けておらず、あっという間に寝てしまったのである。何か起きるはずもなかった。

「久し振りの寝袋じゃない寝床でしたので…」
「ああ、うん。それもそうだな…」

 バニラもそうだったのだろうと寝癖で察した。
 みんな、心身共にくたくたなのである。と言いたいが、そうでないのが前衛組。

「あ、二人ともおはよう。まだおはようって言う時間じゃないけど。」

 既に準備万端という遥香。
 それに付き合ってという訳でもないのだろうが、カトリーナと柊も一汗かいてきたようである。

「皆さん、今日も元気ですね…」
「リリ、少し体を慣らしておこう。こういう時はいつも通りが一番だ。」
「はい。分かりました。」

 という事で、しっかりと体と魔力を慣らし、暗い内から1日が始まった。




 ドートレス家には早すぎる朝だったようで、見送りはカトリーナと柊だけだったがそれでもありがたい。
 二人に見送られて出発したオレ達はライトクラフトで移動し、夜明けには西部へと入国していた。歩いたら何日も掛かる距離なので、やはり空の旅は早い上に風景も良くて素晴らしい。

 入国管理所はいつも通りだったが、エルディー側のおかげでという印象が拭えない。西部側はだいぶ混乱しているようで、店の営業や準備もまちまちだった。
 少し話を聞くと、役人も情報を得られていないようでその不安が伝播しているとの事。ここは国境だが、何かあればエルディー側に逃げ込んでも良いという事になっているそうで、比較的平穏を保てているようだ。
 それを聞き、不安そうな表情を浮かべるリリ。
 故郷が想像以上に混乱していて戸惑いが隠せないようだ。

 北部へと続く道の上を飛ぶオレ達。
 道中、ちょいちょい追い剥ぎや野盗を片付けていったが切りがない。襲われるのは商隊などではなく、家族で脱出を図ったり、ロッティのように自分を売り込む為に放浪する者が狙われているようだ。
 道中に居た商隊の所まで連れて行き、金を渡して同行させるようにお願いする。こういう時はヒガン一家の看板は非常に強力だ。
 ただ、全ては流石に救えない。屍と思わしき物体もあったが、急ぐために見て見ぬ振りをさせてもらった。

 オラベリア領に入ってもその傾向は変わらず、どうやら手口が盗賊の間で共有されているようだと推測する。
 西部は東部とエルディーの良いとこ取りをしているイメージだが、それでも上手く行っていなかった様子。それが今になって噴出しているのだろう。
 街道の一番大きな町に入ると、表面上はいつも通りに見えていた。
 こういう時は冒険者ギルド、という事で早速立ち寄る事にする。
 領内に限らず、西部の詳細な情報について尋ねると、

「こちらへどうぞ。」

 と、個室に通された。
 そして、リリに渡された10を越える手紙。これはどういう事だ?

「これ…これはいつの手紙ですか?」
「一番新しいので一週間前になります…」

 封を破り、読んですぐバニラに押し付けて立ち上がる。

「行きましょう。」
「事情を…いや、急ごう。」

 個室を出るなり、槍が突き出されるがそんなものに当たるリリではない。

【エア・ストライク】

 リリからの3連射が囲もうとしていた冒険者を吹き飛ばし、遥香が四肢切りの本領を発揮した。

「覚えていたら治してやろう。手足は大事に保管しておけよ。」

 そう言いながら、胴体の傷だけを塞ぐバニラ。こちらも言葉とは裏腹に全く容赦がなかった。
 全員が敵対的かと思いきやそんな事もなく、他はオレ達から目を逸らして何事もなかったように見過ごしてくれる。
 

「討ち入りに参ります。御同行願えますか?」
「これでわたしたちの借りを一つずつ返せるなら、御安い御用だ。」
「右に同じく。」

 リリに借りだらけの二人が即答した。

「では、行きましょう。付いてきて下さい。」
「オレは…」
「?」
「いや、なんでもない…」

 リリは首を傾げただけで走り出す。
 バニラと遥香に背を叩かれて、オレもその後ろ姿を追い駆けた。
 うん、まあ、来て当然というのも分かるんだが…




 道中、ライトクラフトをかっ飛ばしながら、バニラから軽く説明を受ける。
 実家が襲撃を受けて散り散りになったらしく、隠れ家から人伝にギルドへ手紙を送られていたようだが、さっき四肢斬りされた連中が幅を利かせていて外へ送れなかったようだ。送り主の名はミミとなっており、字の拙さから幼子だろうとバニラは予想する。
 同じ母からの妹かどうかも分からないが、あの様子からだと目を掛けていたのは間違いない。

 郊外の農場の建物の場所に辿り着く。
 戦闘の痕跡があり、不安が込み上げてくる。だが、生命反応は確かにあった。

「ミミ!いますか!?」

 リリが扉を蹴破って大声で呼ぶ。
 反応は掴んでいるようで、ちゃんとその方向へ歩いていく。

「リリねーさま…」

 藁束の中から子供が一人出てくる。

【アンティマジック】

 バニラが子供の姿を見て、アンティマジックを掛けた。

「趣味の悪いものを持たせる。
 このネックレスで首を吹っ飛ばさせるつもりだったのか?」

 そう言って、ミミのネックレスを取り上げ、分解して魔石を外し、刻印を削り潰して亜空間収納に放り込んだ。

「ネックレスだけ?」
「全部だ全部。一度、裸になって着替えてもらった方がいい。」
「服は…バニラのお古があればちょうど良さそうですね。」
「複雑な気分だがそうしてくれ。父さんは遥香と周囲の偵察を頼む。」
「分かった。」

 遥香と揃って外に出た瞬間、遥香の刀が閃いた。

【シールド・スフィア】

 尋ねるより先に、小屋全体を防御魔法で包み込む。

「ボウガンの矢だね。」

 そう言って、へし折られた矢をつまみ上げてみせる。
 射撃地点は把握してるので、そちらに向けて拳大の魔力弾を撃ち込むと血飛沫が舞った。だらしない相手だ。

「魔法すら必要ない。」
「でも、多いね。」
「全部把握しているが皆殺しは無しだ。色々と吐かせるぞ。」
「分かった。」

 【インクリース・オール】【バリア・オール】

 遥香にオレの認識を共有させている間にバフも掛ける。

「箱も付けるから上手く利用しろ。」
「任せて。」

 遥香を中心に浮かぶように箱を配置した。鞘で叩くと円を描くように動き出し、引き寄せれば3秒ほどそこに留まる。
 下手にこれでオレが何かするより、遥香のアイデアに任せる方が良いだろう。
 サポートに箱の維持は任せ、遥香の電光石火な動きを眺めているとリリ達がやって来た。

「なかなかゲスい事をしてくれる。アクセサリーだけでなく、服にもデストラップが仕掛けられていたぞ。子供相手にこんな事するなんて、どういう頭をしてるんだ。
 ユキの事もあったし、体内、体表も念入りに調べたが、そっちは大丈夫のようだ。」
「そうか。救出出来て良かった。」
「いえ、それが…」

 どうやら、母や他の兄姉のほとんどが捕まったり、殺されたりしているらしく、オラベリア家は壊滅状態に陥っているようだ。
 幼女は安堵というより、恐怖と悲しみの渦中であることを理解し、歯を食い縛りながら泣いている。

「正直、実家がなくなっても構わないとは思っていましたが、こんな形じゃありません。
 ちゃんと、弟や妹が自由になれなくては意味が無いのです…」

 俯きながら、淡々と言うリリ。
 強く握り締めた拳が震えている。

「手加減出来そうか?」

 口を真一文字にし、怒りに満ちた表情で首を横に振った。

「じゃあ、今はバニラと妹を守ってくれ。雑魚を尋問するのは任せろ。」

 一人、また一人と積み上がる襲撃者たち。五体満足な者が一人もなく、仲間の状態を見て自分達が何を相手にしたのかようやく理解したようだ。

「ほ、北方で行方不明になって死んだはずじゃ…?」
「南方で船ごと消息を経ったって聞いたぞ…」

 情報が錯綜していた。
 『グリッチ野郎』が撒いた噂なのだろうが、それが結果的に恐怖を増幅させている。時間がなく、出来ることは少ないが、存分に利用させてもらおう。

「さて、どうしてこんな事をしているのか吐いて貰うぞ。
 なに、腕や足が失くなるまで吐かなくても問題ない。次は耳と目と鼻、その次はハラワタが一つずつなくなるだけだ。」
「喜べ、賊共。ハラワタは多少減っても直ぐには死なない。死んだ方がマシだろうが直ぐには死なせない。苦しみ抜いて死ぬか、あっさり死ぬか痛みに耐えながら考えるんだな。」

 そう言うバニラの前に、下を噛み切った女西方エルフを引き摺り出す。

【リザレクション】

 口から血を流し、そのまま息絶えるつもりだったであろう女が困惑の表情を浮かべた。

「言い忘れたが自害は無駄だ。わたしたちは死なない限り生かし続けるし、死人だろうと喋れるようにするからな。死んでも逃げられないぞ。」

 最後の一押しが効いたのか、観念した賊が次々に雇い主について話し始めた。

「ヒュマスの男と女、それと結託した西方エルフがあちこちで蜂起を促したらしいんだ。」
「あたしらも食っていけない程じゃないが暮らすのがやっとだった。野盗をして食っていく方が早く稼げるってみんな言うからそれに乗っかって…」
「『創士』様が 武器を供給してくれてるって聞いたが、まさか偽者だったなんて思いもしなかった。俺は生活が苦しいのを知って下さったのだとばかり…」
「散り散りになった領主の家族に外へ手紙を書かせ、やって来た救援を襲って身ぐるみ剥げば大儲けだって聞いて…」
「冒険者もグルだったんだよ。外からやって来たヤツは何も知らないからカモだって。」

 覚悟の無い賊共の取り調べを終えると、五体満足にして食事を与えてやった。
 どうやら、サトルとシュガーが関わっていたらしい。
 とはいえ、主犯とは言い難いので罪の上乗せは東部にいる限りされないだろう。護送中という名目がなければ、エルディーから一生出れない可能性もあったな。

「さて、最後の質問だ。
 武器ややり口は何処で手に入れた?」
「領都だよ。みんなあそこで学んで武器を手に入れたんだ…」
「いったい何を考えてそんな事を…
 こんな混乱を広げたって何一つ解決しないのに。」

 やり方に全く納得出来ず首を振るリリ。
 だが、賊共はそうではないらしい。

「少なくとも俺らはこっちの暮らしの方がマシな食事にありつけ、石や泥と無縁の寝床で眠れる良い日々だった。それも終わりなのが悔しいよ…」
「あなたたち…!」

 怒りが爆発しそうなリリだが、バニラがそれを制した。抱き抱えるミミに爪が食い込んだようで、血が滲んでいるのを治してやる。

「…分かってます。分かってますよ!
 政治の怠慢が招いた事態だって!でも、妹や弟がこんな目に遭って良い道理はないはずです!」
「散々道具としてこき使われて来たんだ。今度はあたしらが利用する番になっただけの話さ。」
「あなた…!」

 家はどうなっても良いとは言うが、やはりリリは領主の側。相容れない二つの主張は歩み寄る事はないだろう。

「行こう。他の兄弟姉妹の居場所は分かるかな?」

 オレを見て、震えるミミは首を横に振った。
 散り散りに逃げた、のではなく、散り散りにさせられたと言う方が正しいのだろう。
 それに、オレを極端に怖がっているのも気になる。あまり近付かない方が良いな。

「…領都へ行きましょう。他の弟と妹の事は忘れます…」
「…ああ。」

 賊に横の繋がりもなく、何処にいるかも分からない。リリにとっては苦渋に満ちた決断だっただろうが、そうするしかないようだ。

 オレ達はライトクラフトで飛翔し、領都へと一直線に向かう。
 背後で爆発が起き、さっきまで居た小屋が木っ端微塵に吹き飛んでいた。

「あー、ミミのアクセサリーが一つもない。情報料のピュアクリスタルと一緒に置き忘れてたみたいだ。」

 と、惚けた様子でバニラが言うと、リリが呆れた様子でタメ息を吐いてから、少しだけ笑みを浮かべていた。

 後で聞くと、どうやらミミがまだ妊娠出来ないのを良いことに、そういう行為に及んでいた痕跡があったらしい。
 バニラとしてはそれが許せず、怒りでつい忘れ物をしてしまったという事だそうだ。頭に血が昇って忘れ物をするのはしかたない。今後は気を付けてもらうことにしよう。
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