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43 どんどん溢れて
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あるわけないのに、でもそんな奇跡があったらいいなぁなんて思っちゃったじゃん。旭輝が、俺のこと迎えに来てくれたとか、さ。
「って、は? 何、晩御飯って!」
今、確かにそう言ったよね?
一旦スルーしちゃったけど、びっくりして思わず大きな声が出ちゃった。
「なんだよ。急に、驚くだろ」
「だ、だって、だってだって、晩御飯って」
今、何時だと思ってんの? 夜中の十二時ちょっと前だよ? そんな時間から晩御飯って遅すぎるし、それに、いつもは作って食べるじゃんって、驚いた。
「聡衣がいないから」
けど、落ち着いた低い声、真剣……に見えちゃう眼差し。
「…………え?」
それから、それを全部俺にだけ向けられたりして、もう、それこそ心臓が止まるくらい、驚いた。
「なんてな……」
旭輝はそこで笑った。
「聡衣がいないから、部屋で仕事してたんだ。そしたらこの時間になって、この時間から飯作るのも面倒だったからコンビニで弁当を買ってきた」
「えぇ? こんな時間まで仕事とか」
「明日休みだしな。だからのんびりしながら仕事してた。けっこうあるぜ? リモートが可能になったから自宅で仕事。ブラック企業みたいなこともたまにな。それで?」
「?」
「晩飯って、一緒に行ったのって、さっきの……」
「あ、うん」
国見さん、見た事はないもんね。そして、チラッとでも見えたんだ。見えたところで、誰? って感じだよね。
「お店の店長さん。一緒にどう? って誘ってもらったんだ」
「……へぇ。バー? 居酒屋?」
「ううん。レストラン。スペイン料理」
「へぇ」
「すっごい美味しかった。旭輝知ってる店かな。えっとね、お店の人が名刺くれたんだ」
いただいた名刺を見せると、旭輝が暗い夜道よく見えなかったみたいで、顔を俺の手元に寄せた。
「……いや、知らない店だな。そう遠くないところにこんな店があるのか」
「そ、そう、けっこう近いよ。すごい、美味しくて、トマトクリームパスタがね」
たったそれだけ。
ただ旭輝が顔を寄せただけ。ただそれだけのことで心臓が飛び跳ねる。
ねぇ。
だからね。
食べなかったんだ。
「トマトクリームパスタか。美味そうだ」
「あは、俺は全然どうやって作ったらいいのかもわからないけど、旭輝なら作れそう」
「かもな」
本当はパエリアがおすすめって言われたけど、食べなかったの。
旭輝がいつか作ってくれるかもしれないから、そしたら、旭輝が作ってくれたパエリアを食べたくて、別のにしたんだよ。
二人で食べる、かもしれないから、なんてさ。
「で? 何買ったの?」
「……焼肉弁当」
「えぇ? この時間から?」
「仕方ないだろ。もう大してなかったんだから」
「っぷは、十二時じゃそうかも」
思ったんだよ?
「ただいま」
「ただいまぁ」
帰り道、今日がとても忙しかったって話をした。だからその労いを兼ねてご飯に誘ってもらたんだって、別に訊かれてもないのに旭輝にペラペラ話してた。
それで何かを旭輝が思うわけじゃないのに。
クリスマス前でギフトがたくさん来たこと。ラッピングが素敵って国見さんだけじゃなく、お客さまにも褒めてもらえたこと。明日は日曜日だから今日以上に忙しいだろうなぁってこと。
それから、そんなクリスマス直前、早く、鎌田さんの交際認定が降りるといいよねってことも。
話しちゃった。
どんなリアクションが返ってくるのか、見たかったんだ。
女の人と素敵なクリスマスを過ごせるじゃんって言ったら、どんな顔するかなって。
だから話しながら、ちらりと顔を見てみたりして。旭輝がどんな顔してるかなって気になってさ。けど、特に変わったところはなくて「どうかな……」って返されただけで。
そうだよねって思う平らで冷静な気持ちと。
あぁ、そうだよねって、ちょっとしょんぼりしてしまう気持ち。二つの「そうだよね」が一緒に胸の内でごちゃ混ぜになった。
「先に、風呂入って寝ろよ。明日も仕事だろ?」
「うん」
なのにさ、なんでだろうね。
「聡衣?」
冷蔵庫からチューハイの缶を一つ出して、旭輝の隣に座ったのを、旭輝が目を丸くして見てる。
「お風呂、まだ湧かないから」
「……」
「沸くまでここでチューハイ飲んでる」
「酒飲み……そっちで飲まなかったのか?」
「んー……」
なんもないのに。
希望なんてさ。
女好きの旭輝が俺のことを、俺が思ってるのと同じように思ってくれる希望なんてさ。
なぁんもないのにね。
「んー……飲んだけど、やっぱお店の人とじゃん? 落ち着かなくて、飲んだ気しなかった」
「あぁ、まぁ、そういうのあるよな」
「でしょー?」
旭輝が隣でリラックスした顔して笑ったりなんかするから。
なんか、俺もちょっとは特別なんじゃないかって思っちゃう。
何にもないってわかってるのに、それでもちょっと期待しちゃって、少しでも一緒にいたいって、思っちゃうんだ。
好きになるの、はい、おしまい。
そうできたらいいのに。
「……はぁ」
お風呂が沸くまで十五分。その間にチューハイは飲み終わって、次、おかわりすることなくバスルームに向かった。
「やばいなぁ……」
どんどん、好きになってく。
自覚した時からお仕舞いになってる片思いなのに。
まるでこの湯気みたいって、お湯に浸かりながら、天井を見上げて思った。
「……」
湯気みたいに、好きの蛇口を捻った瞬間からふわふわもくもく広がって、このバスルームの中いっぱいになっていく。キュって蛇口を閉めればいいのに、その蛇口がなんでか締められなくて、その間もずっとずっと流れて膨れて。
「……はぁ」
でも久しぶりだ。
こんなの。
こんなに溢れるくらいに好きになったの、こんなに足の先までポカポカするくらいに好きになったの、久しぶりで――。
「やばいなぁ」
そう言いながら、そっと目を閉じた。
「って、は? 何、晩御飯って!」
今、確かにそう言ったよね?
一旦スルーしちゃったけど、びっくりして思わず大きな声が出ちゃった。
「なんだよ。急に、驚くだろ」
「だ、だって、だってだって、晩御飯って」
今、何時だと思ってんの? 夜中の十二時ちょっと前だよ? そんな時間から晩御飯って遅すぎるし、それに、いつもは作って食べるじゃんって、驚いた。
「聡衣がいないから」
けど、落ち着いた低い声、真剣……に見えちゃう眼差し。
「…………え?」
それから、それを全部俺にだけ向けられたりして、もう、それこそ心臓が止まるくらい、驚いた。
「なんてな……」
旭輝はそこで笑った。
「聡衣がいないから、部屋で仕事してたんだ。そしたらこの時間になって、この時間から飯作るのも面倒だったからコンビニで弁当を買ってきた」
「えぇ? こんな時間まで仕事とか」
「明日休みだしな。だからのんびりしながら仕事してた。けっこうあるぜ? リモートが可能になったから自宅で仕事。ブラック企業みたいなこともたまにな。それで?」
「?」
「晩飯って、一緒に行ったのって、さっきの……」
「あ、うん」
国見さん、見た事はないもんね。そして、チラッとでも見えたんだ。見えたところで、誰? って感じだよね。
「お店の店長さん。一緒にどう? って誘ってもらったんだ」
「……へぇ。バー? 居酒屋?」
「ううん。レストラン。スペイン料理」
「へぇ」
「すっごい美味しかった。旭輝知ってる店かな。えっとね、お店の人が名刺くれたんだ」
いただいた名刺を見せると、旭輝が暗い夜道よく見えなかったみたいで、顔を俺の手元に寄せた。
「……いや、知らない店だな。そう遠くないところにこんな店があるのか」
「そ、そう、けっこう近いよ。すごい、美味しくて、トマトクリームパスタがね」
たったそれだけ。
ただ旭輝が顔を寄せただけ。ただそれだけのことで心臓が飛び跳ねる。
ねぇ。
だからね。
食べなかったんだ。
「トマトクリームパスタか。美味そうだ」
「あは、俺は全然どうやって作ったらいいのかもわからないけど、旭輝なら作れそう」
「かもな」
本当はパエリアがおすすめって言われたけど、食べなかったの。
旭輝がいつか作ってくれるかもしれないから、そしたら、旭輝が作ってくれたパエリアを食べたくて、別のにしたんだよ。
二人で食べる、かもしれないから、なんてさ。
「で? 何買ったの?」
「……焼肉弁当」
「えぇ? この時間から?」
「仕方ないだろ。もう大してなかったんだから」
「っぷは、十二時じゃそうかも」
思ったんだよ?
「ただいま」
「ただいまぁ」
帰り道、今日がとても忙しかったって話をした。だからその労いを兼ねてご飯に誘ってもらたんだって、別に訊かれてもないのに旭輝にペラペラ話してた。
それで何かを旭輝が思うわけじゃないのに。
クリスマス前でギフトがたくさん来たこと。ラッピングが素敵って国見さんだけじゃなく、お客さまにも褒めてもらえたこと。明日は日曜日だから今日以上に忙しいだろうなぁってこと。
それから、そんなクリスマス直前、早く、鎌田さんの交際認定が降りるといいよねってことも。
話しちゃった。
どんなリアクションが返ってくるのか、見たかったんだ。
女の人と素敵なクリスマスを過ごせるじゃんって言ったら、どんな顔するかなって。
だから話しながら、ちらりと顔を見てみたりして。旭輝がどんな顔してるかなって気になってさ。けど、特に変わったところはなくて「どうかな……」って返されただけで。
そうだよねって思う平らで冷静な気持ちと。
あぁ、そうだよねって、ちょっとしょんぼりしてしまう気持ち。二つの「そうだよね」が一緒に胸の内でごちゃ混ぜになった。
「先に、風呂入って寝ろよ。明日も仕事だろ?」
「うん」
なのにさ、なんでだろうね。
「聡衣?」
冷蔵庫からチューハイの缶を一つ出して、旭輝の隣に座ったのを、旭輝が目を丸くして見てる。
「お風呂、まだ湧かないから」
「……」
「沸くまでここでチューハイ飲んでる」
「酒飲み……そっちで飲まなかったのか?」
「んー……」
なんもないのに。
希望なんてさ。
女好きの旭輝が俺のことを、俺が思ってるのと同じように思ってくれる希望なんてさ。
なぁんもないのにね。
「んー……飲んだけど、やっぱお店の人とじゃん? 落ち着かなくて、飲んだ気しなかった」
「あぁ、まぁ、そういうのあるよな」
「でしょー?」
旭輝が隣でリラックスした顔して笑ったりなんかするから。
なんか、俺もちょっとは特別なんじゃないかって思っちゃう。
何にもないってわかってるのに、それでもちょっと期待しちゃって、少しでも一緒にいたいって、思っちゃうんだ。
好きになるの、はい、おしまい。
そうできたらいいのに。
「……はぁ」
お風呂が沸くまで十五分。その間にチューハイは飲み終わって、次、おかわりすることなくバスルームに向かった。
「やばいなぁ……」
どんどん、好きになってく。
自覚した時からお仕舞いになってる片思いなのに。
まるでこの湯気みたいって、お湯に浸かりながら、天井を見上げて思った。
「……」
湯気みたいに、好きの蛇口を捻った瞬間からふわふわもくもく広がって、このバスルームの中いっぱいになっていく。キュって蛇口を閉めればいいのに、その蛇口がなんでか締められなくて、その間もずっとずっと流れて膨れて。
「……はぁ」
でも久しぶりだ。
こんなの。
こんなに溢れるくらいに好きになったの、こんなに足の先までポカポカするくらいに好きになったの、久しぶりで――。
「やばいなぁ」
そう言いながら、そっと目を閉じた。
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