35 / 41
35
あっくんとさよなら
しおりを挟む
目が覚めるとそこは暗闇の中だった。
ベッドに横たわり、両手足を拘束されている。
ホノカと白衣の男に誘拐された日を思い出してぞっとした。
近くに誰かが立っている。
目が慣れてくると、その顔が見えた。
幾何学模様が描かれている。
そんな人、一人しか知らない。
「あっくん。久しぶり」
「ああ」
あっくんはベッド上のテーブルに、コンビニのビニール袋を置いた。
ここは病室なのか。
「お見舞いの、おにぎり」
あっくんは、おにぎりが好きなんだな。
「あっくんは最初から俺を死なせるつもりはなかったんだね。死にたかった俺の脳内をエデンで元に戻そうとしたんだろ」
「違う。やっくんの望みは叶えるつもりだった。ただ、時間稼ぎをしただけ」
「どういうこと?」
「手っ取り早く死ねるドラッグが開発されるまで、待ってもらおうと思った。今あるドラッグで死ぬのは苦しいから」
あっくんは一家心中の生き残りだ。
天野が前に話していた家族の一人。
あっくんの兄は自殺して、自分は父親に殺されかけた。
無理やりドラッグを飲まされて、苦しんで、たった一人生き残ってしまった。
きっと壮絶な人生だったのだろう。
それでも、こうして生きている。
「あっくんは、どうして俺と友達になってくれたんだっけ? あんまり覚えてないんだ」
「やっくんが、おにぎりをくれたから」
「そうだっけ?」
「野垂れ死にしそうになっていた俺に、やっくんは自分のおにぎりを分けてくれた。俺は覚えている。絶対に忘れない。それに、俺も友達が欲しかった。一緒に遊んだのは楽しかった」
あっくんが少しだけ笑ったように見えた。
見間違えかな。
「あっくんは、天野っていう役人と、東っていう刑事を知っている?」
「東は知らない。天野は入国管理局の局長だ。ヤタガラスと提携しているから、俺にも協力的だ」
天野の父親があっくんに協力的なのは、違う感情もあるはずだ。
あっくんは知らないのか。
「俺の母親を殺したのはどうして? 俺に殺させない為?」
「いや。感情に身を任せただけ。やっくんの包丁じゃ母親を殺せなかった。子供用の先が丸いものだったから」
そっか。
あの包丁は俺の為に、母親が買ってくれたものだ。
俺が稼いだ金だろうけど。
「感情的に人を殺すことは、始末屋としては失格。今は一流になったつもりだった。でも、人は簡単に変わらない。ニュース見た?」
俺は首を横に振った。
最近はあまりテレビを観なくなってしまった。
「派手にやりすぎた。しばらく、海外に身を隠す。今日はお別れを言いに来た」
「待って! 俺も連れて行って」
「ダメ」
「俺じゃ足手まといになるから? その時は、その場で俺を捨ててもいいから」
俺はあっくんの腕を掴みたかった。
でも、拘束されていて無理だった。
あっくんは首を横に振るだけ。
「どうして、母親の死体を残したんだよ。あれさえ見つからなければ、叔父さんに知られずに済んだのに」
「やっくんが、そうしろって言った。いつかお墓を作ってあげたいって言っていた」
昔の俺の馬鹿。
「母親の死体をさらして、見せしめにすれば、やっくんを狙う人間がいなくなると思った。俺の考えが甘かった。傷つけたなら、ごめん」
母親の死体が今更出てきたのは、あっくんのせいか。
本当に余計なことだったよ。
「でもこれでやっくんは、昔みたいにお日様の下で笑える」
太陽なんか嫌いだ。
どんなに身を隠しても俺を見つけ出して、強烈な熱で照らしてくる。
どうせ生きなければならないなら、穏やかな闇の中にいたい。
「また、いつか」
あっくんは一瞬俺の頭を撫で、そして暗闇に溶けて行った。
俺はそのまま、一晩中その闇を見つめていた。
ベッドに横たわり、両手足を拘束されている。
ホノカと白衣の男に誘拐された日を思い出してぞっとした。
近くに誰かが立っている。
目が慣れてくると、その顔が見えた。
幾何学模様が描かれている。
そんな人、一人しか知らない。
「あっくん。久しぶり」
「ああ」
あっくんはベッド上のテーブルに、コンビニのビニール袋を置いた。
ここは病室なのか。
「お見舞いの、おにぎり」
あっくんは、おにぎりが好きなんだな。
「あっくんは最初から俺を死なせるつもりはなかったんだね。死にたかった俺の脳内をエデンで元に戻そうとしたんだろ」
「違う。やっくんの望みは叶えるつもりだった。ただ、時間稼ぎをしただけ」
「どういうこと?」
「手っ取り早く死ねるドラッグが開発されるまで、待ってもらおうと思った。今あるドラッグで死ぬのは苦しいから」
あっくんは一家心中の生き残りだ。
天野が前に話していた家族の一人。
あっくんの兄は自殺して、自分は父親に殺されかけた。
無理やりドラッグを飲まされて、苦しんで、たった一人生き残ってしまった。
きっと壮絶な人生だったのだろう。
それでも、こうして生きている。
「あっくんは、どうして俺と友達になってくれたんだっけ? あんまり覚えてないんだ」
「やっくんが、おにぎりをくれたから」
「そうだっけ?」
「野垂れ死にしそうになっていた俺に、やっくんは自分のおにぎりを分けてくれた。俺は覚えている。絶対に忘れない。それに、俺も友達が欲しかった。一緒に遊んだのは楽しかった」
あっくんが少しだけ笑ったように見えた。
見間違えかな。
「あっくんは、天野っていう役人と、東っていう刑事を知っている?」
「東は知らない。天野は入国管理局の局長だ。ヤタガラスと提携しているから、俺にも協力的だ」
天野の父親があっくんに協力的なのは、違う感情もあるはずだ。
あっくんは知らないのか。
「俺の母親を殺したのはどうして? 俺に殺させない為?」
「いや。感情に身を任せただけ。やっくんの包丁じゃ母親を殺せなかった。子供用の先が丸いものだったから」
そっか。
あの包丁は俺の為に、母親が買ってくれたものだ。
俺が稼いだ金だろうけど。
「感情的に人を殺すことは、始末屋としては失格。今は一流になったつもりだった。でも、人は簡単に変わらない。ニュース見た?」
俺は首を横に振った。
最近はあまりテレビを観なくなってしまった。
「派手にやりすぎた。しばらく、海外に身を隠す。今日はお別れを言いに来た」
「待って! 俺も連れて行って」
「ダメ」
「俺じゃ足手まといになるから? その時は、その場で俺を捨ててもいいから」
俺はあっくんの腕を掴みたかった。
でも、拘束されていて無理だった。
あっくんは首を横に振るだけ。
「どうして、母親の死体を残したんだよ。あれさえ見つからなければ、叔父さんに知られずに済んだのに」
「やっくんが、そうしろって言った。いつかお墓を作ってあげたいって言っていた」
昔の俺の馬鹿。
「母親の死体をさらして、見せしめにすれば、やっくんを狙う人間がいなくなると思った。俺の考えが甘かった。傷つけたなら、ごめん」
母親の死体が今更出てきたのは、あっくんのせいか。
本当に余計なことだったよ。
「でもこれでやっくんは、昔みたいにお日様の下で笑える」
太陽なんか嫌いだ。
どんなに身を隠しても俺を見つけ出して、強烈な熱で照らしてくる。
どうせ生きなければならないなら、穏やかな闇の中にいたい。
「また、いつか」
あっくんは一瞬俺の頭を撫で、そして暗闇に溶けて行った。
俺はそのまま、一晩中その闇を見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる