上 下
23 / 23

23から33

しおりを挟む
「近距離テレポート使えるの?」

「ええ、本当に近距離、調子が良くて5メートルくらいですが」

レティカが近距離テレポートを使えることがわかった。
長距離テレポートでいきなりレーダーの場所に向かっていくのはいくらなんでも対策されてるだろうからあっても今回は使えないだろう。

近距離テレポートか、何かに使えないかな。
空間操作系は対策されると一気に死に能力になるが『まさかこんなところでこんな風に襲われるとは思わなかった』に持っていければ、正面からの力比べじゃ勝てない勝負でも勝ちに持っていける。

本当に魔法耐性の無い相手なら相手の首だけテレポートで持ってくれば即席の即死魔法になるし。

以外だったのはソフィアがそんなに疲れてないことだった。
丸一日歩き通しな上に色々とあったから疲れているかと思ったらまだまだ動けるとのこと。

偽王様をやるくらいだからそれ相応に武術とかも覚えて身体も鍛えておいたほうがいいということなんだろうか。

軍師ラムーウは渡した探知機、NNN72を探すのと自分を探すのとの2つを使って色々と検証をしている。

話し合いも終わって外に出た、夜がふけてきた。
まだまだ朝は遠い。

地面に転がっている木の枝を拾う。
何か武器でも作るか。

少し『力』を込めると手の中の木の枝が形を変えて赤い棒になる。
少しだけ発光している。
取手の部分を同じ用に作り、即席の剣が出来た。
長さは1メートル程度だが念じるとポケットに入るようなサイズになる。

素手でもいけると思うが暇だったからね。

ミスティアのところを見に行くと気合を入れて銃の手入れをしていた。
背負っている巨大なカバンの中から謎の道具を取り出して何か色々やっている。
かなり集中しているようなのでここは退散しておこう。

しばらくして軍師ラムーウから招集がかかった。


24

俺、ミスティア、ソフィア、レティカ、そしてモンスター軍団が軍師ラムーウの前に揃った。

軍師ラムーウは周囲を見回してから言った。

「これよりクレイドル城に攻め込んでNNN72を捕獲する、ロイ殿、発見さえすれば捕獲できるんだったな?」

「勿論」

絶対にとまでは言わないが自信はある。
正面からの勝負に持ち込めた時点で負けることはないだろう。

「捕獲後の話はそのあとでしよう、皮算用になるからな……さて方法だが、レティカよ長距離テレポートを使ってロイ、ミスティア、ソフィア、そしてスライムとロックゴーレムをクレイドル城へ送り込んでくれ、ロックゴーレムは全部だぞ全部」

言われたレティカは戸惑いながら言った。

「この人数をですか? それにそんな長距離は難しいですよ。失敗したら壁の中とかに埋まっちゃいますよ。しかも10中8、9失敗します」

「大丈夫、この私がサポートする」

軍師ラーミアが力強く言った。

「ロイ殿は探知機を持っていてくれ、これでNNN72の方から接触してくるだろう」

「探知機を持っていたらNNN72の方から接触してくる?」

「その通り、やればわかる」

本当に来るのか疑問だがかといって代案があるわけでもない。
代案を出せないなら黙るべきだろうし、代案無しに主張する者の意見は尊重しないほうがいいと思うのでここは素直に従っておくことにする。

「残りのメンバーは盛大に暴れてくれ、何せクレイドル城の中に侵入したとなればハチの巣を突いたように兵士がワラワラと出てくるはず。さあ、出発だ」


25

クレイドル城。
白亜の巨大な城は城壁によって守られている。
城下町には城壁のようなものはなく何処までも町が続いている。
途中で森になったり湖になったりしており何処までが城下町かはわからない。

城壁の中は広く、城だけではなく兵士が泊まりこんでいる家もある。

夜でも見張りの兵士達が大勢居る、ちゃんとみんな長袖長ズボンの上に華やかなビキニアーマーを着ている。

「番号!」

「1」

「2」

「3」

「4」

「5」

「6」

「7」

「8」

「9」

「10」

「11」

「12」

「13」

「14」

「15」

「よし!」

ここでよしと言った人物はミスティアに顔面を5発撃たれて倒された人である。
かすり傷一つ残っていないが倒されてしまったことに対する悔しさのようなものは当然ある。
流石にそれを引きずって八つ当たりする程、愚かではないが。

空を見ると巨大で赤い三日月と満月の2つが浮かんでいる。
月明かりは結構明るいが、目が慣れれば光源なしでもなんとか夜道を歩ける程度のものでありやはり暗い。

そんな月夜よりももっと暗くなっている者がクレイドル城の地下深くに居た。

NNN72である。

外見は偽王様のソフィアと全く同じである。
NNN72の隣には半透明で黒ローブを着用した骨だけのモンスターが居た。
背中には巨大なカマを背負っている。
このモンスターはハギャという名前のモンスターでNNN72の部下である。

「NNN72様、確認が取れました。魔道士チュイ・ローレンスは闇の呪縛により一ヶ月程度の眠りについたと」

「死んでないのか、殺せないのか?」

「死んでないし殺せません、そもそもチュイ様は723個の命の予備を持っていて何度も復活してきますし」

「死んでいれば俺の死者蘇生で即座に復活できるのに、なんてこった」

手品師マリーアリーも封印された。
身動きはとれない状態だ。

「でも、本来なら無限の時間封印される闇の呪縛を一ヶ月程度で破って起きてこれるなんて凄いですよ、しかも呪縛が解けた暁には今までより更にパワーアップすることが予想されます。ノーリスクで核兵器並の破壊光線が撃てて銃弾でもかすり傷一つ負わず長期間封印することもできない魔道士チュイ・ローレンス様が居ればそれだけで千界から追っ手がかかっても軽々と返り討ちにできるはず」

「チュイは一ヶ月は起きないんだろ、マリーも寝ているんじゃこっちの戦力で強い奴は俺しか居ねえ」

NNN72は語りだした。

「タイジュの部下で千界出身の奴で捕獲できた奴は誰も居ないんだったな」

「ええ、これだけ大規模にやっているんだから数百人は来てると思ったんですが」

「大規模にやってたのは見せかけで本当は少数精鋭だったのか? それともまだまだ大勢居るのか? 千界との出入りはできなくしたが向こうに戦力が残っているなら意味はない……少なくともロイは確実に残っている、こっちの主戦力であるチュイとルーを1日で撃破したロイが」

「ええ、はい」

「タイジュの戦力が総動員されて全面戦争になっても勝てるくらいこの城の兵士たちを強化した、下っ端共ですら拳銃の4、5発は耐えられるだろうし魔法にも強力な耐性がある。千界のエリート兵士と比べても遜色はない。この城も大規模攻撃魔法には絶対自動反射が5重にかかっているし、魔法じゃない物理的な攻撃、例えば核ミサイルとかが飛んできても魔法バリアで防げる」

「はい」

「厳重に守っているつもりだった……タイジュのところのエリート兵士、ミスティアは戦力にもなって道案内も交渉もできるから確実に来るだろうと踏んでた、対俺としてタイジュの部下の中で選ばれるとしたらカーマインかギャンダルフだろうとも予想していた。どっちかが、あるいは2人が同時に来てもチュイ1人で返り討ちにできる予定だったんだ……全軍をあげきてきても、精鋭で暗殺しにきても、全軍と暗殺部隊の両方が来ても勝てる勝負だった」

「あう」

「それがまさか、こんなことになるなんて。潜入されて身代わりのところに暗殺しに行くところまでは想定内だったが俺が何時も居る王座にまで来るなんて、最精鋭のエリート兵士、凶悪な罠、そして部屋の前にはチュイまで居たのに、そのチュイも勝負らしい勝負にもならず一瞬で殺られてしまった。慌てて身代わりを置いて逃げてきたが気が気じゃなかった。身代わりを調べたら偽記憶が解かれていてなおかつ嘘発見を使った痕跡まであった」

「でも偽記憶が入っているんならまあなんとか」

「なんともならん、精神探索で本人も覚えてない深層意識を探ったのなら何を探ったかわかるが嘘発見という何を話したかを覚えてなきゃ何を聞き出されたかもわからない奴を使われてはなんにもわからない。本当の記憶の中に嘘発見は無かった、つまりどういうことかわかるか? というか俺の話ちゃんと聞いているか?」

「ええ!? 本当の記憶の中に嘘発見が無かった理由ですか? そんなことわかるわけないじゃないですか、ハハッ」

NNN72の部下ハギャはそういうと陽気に笑った。
骨だけで半透明で黒ローブを着ている、そんな容貌の割に陽気だった。

「本当の記憶の中に嘘発見が無かった、だというのに嘘発見の痕跡があった、ということは偽記憶の方をを調べたということだ、何故だと思う?」

「それは……なんででしょうね?」

「単純に偽記憶に気が付かなかっただけかもしれないが、俺を探し出す探知機のようなものを作りたかった可能性も捨てきれない」

「それは散々やって失敗したんじゃ」

「失敗はしているが諦めてるとは限らないだろう……まあいい、証拠が足らないのなら憶測にしかならない」

そう言うとNNN72は両手で顔面を押さえた。
かなり落ち込んでいるようだった。

NNN72が落ち込んでいる。

もうすぐ最初に前にロイが攻め込んできてから24時間が経過しようとしている。

「どうしましょう、どっか逃げます?」

ハギャが陽気に言ってみた。

「何処に逃げるんだよ、何処に?」

「え? それは、何処に行けばいいんでしょうね」

「本当だよ、何処に逃げるんだよ何処に。戦力整えて迎え撃つ、これ以外に勝利はない」

「迎え撃てるんですか? 全戦全敗じゃないですか」

しばしの沈黙。

そしてNNN72が口を開いた。

「勝ち道はないわけじゃない」

「え? 何かあるんですか?」

ハギャが明るく言った。

「一ヶ月は千界から援軍は来ない、結界があるからな。今ここに居るやつでまともに強い奴はロイだけだ、タイジュの部下の中で一番強いカーマインが来てても俺なら軽く捻り潰せる。ロイを撃破して立て直す。一ヶ月あればチュイの封印も溶ける、もしロイの屍を確保できればチュイどころじゃない強力な兵隊が作れる、反乱されたら困るから10等分くらいするがそれでもチュイより強い奴が作れるはず……」

そこまで言ったところで地下の更に下で爆音がした。


26

周囲に何もない?
いや周囲に全部あるのか、どうやら俺はテレポート失敗で地中深くに飛ばされたらしい。
ここがどこの地下なのかはわからないが、とりあえず力を開放してみようと思う。

轟音と共に周囲の全てが飛び散る。

俺は穴の底に居た、地上まではあるが俺ならジャンプで上がれるだろう。

というわけで外に出てみたところ、目の前にクレイドル城があった。
すぐ後ろにはクレイドル城の城門がある。

なにやら警笛と警鐘のようなものが鳴り響いていて周囲が騒がしい。
少し遠くではロックゴーレム達がビキニアーマーを着た城の兵士たちに片っ端から倒されてっているのが見える。

本当は例えでもなんでもなく一騎当千の強さらしいが……普通に一対一でも負けそうなのに、無駄に図体が大きくて遅いからすぐに囲まれてしまう。

とりあえず陽動くらいにはなっているようなので良しとしておこう。

ミスティアとソフィアとスライムも来ているはずなんだが何処に居るんだろうか。

「まさか埋まってたりしないよな」

地面を見てみる、よく踏み固められた土がある。

「あっ、ロイ様が居た」

ミスティアの声がした。
声がしたほうを見ると銃を背中に担いでソフィアをお姫様抱っこしたミスティアが凄い速度でこっちに走ってくる。
ソフィアを抱え持っているのに普通に走るように走っている。
ソフィアの肩にはソフィアを守るようにスライムが居た。

遠くから数体のロックゴーレムがソフィアを守りに近寄ってくるのが見えた。

近くに来たミスティアはソフィアを降ろす。

「ミスティアとソフィアは無事だったか」

ミスティアは自信満々に言った。

「私は城の屋上より高いところに飛ばされたので着地まで結構時間かかりました、自由落下の速度って遅いですね」

「無事なようでなによりだ」

軍師ラムーウは今回はNNN72は向こうから来るだろうと言っていたが本当に来るのだろうか?

「ええ、そうですね。ここからがほ」

そこまで言った瞬間、ミスティアの動きが止まった。
やや後ろの地面から斜め上に突き出された槍はミスティアの胸を刺し貫いている。
ミスティアが視線を下げるとすぐ目の前に自分の胸から飛び出た槍が見える。

「え? 嘘でしょ? ゴフッ」

次の瞬間、槍は消滅しミスティアは口から血を吐いて倒れた。

ソフィアはその光景を見て呆然としている。

「キャ……ア」

キャアアアと大声で叫ぼうとしたようだが、驚きが大きすぎて叫ぼうにも叫べてない。

奥から槍を持って豪華なマントをつけた、ソフィアと同じ顔をした人物が現れた。
隣には半透明で黒ローブを着た骸骨も居る。

骨はどうでもいい雑魚として、ソフィアと同じ顔している奴は明らかに他とは気配が違う、あれがNNN72だな。

俺はチラッと倒れているミスティアを見た。

(ミスティアよ、そのままそこで死んだふりしとけ)

(はい、結構迫真の演技だった思うんですが、ロイ様にはバレバレだったようですね)

優勢だと思わせとけば逃げる可能性も減るだろうからな。
それにしても口から血のような何かを吐き出してたがあれは何を吐いていたんだろうか、匂いからして血じゃないだろうが……それより目の前に居るNNN72の相手をするほうが先だろう。

俺は目の前に居るNNN72と黒ローブの骸骨に向き合った。


27

「5年、長かったが過ぎ去ってみれば一瞬だった。俺が作った箱庭と箱庭の中の兵士たち。千界に攻め込んだ途端お前のような刺客が来るとは想定しなかったがな、勝算は十分あったというのに、だがロイ、お前さえ倒せば勝敗は決する」

目の前に居るNNN72が語り始めた。
5年? こいつがここに来てからもう5年も経ってるのか。
タイジュやミスティアの話から察するにこいつが人間界に行ってすぐに俺に話が来たかのようだったが、この千界基準でも強固な魔法で守られた城や人間離れした人間の数々。
そして自分で考えてどんどん強くなっていくらしいNNN72がこれ以上強くなりようがない段階まで強くなっているところを見るにそれくらいは経過しててもおかしくはないかもしれない。

個体としてこれ以上強くなりようがないならば、何処かの国の王様になって強い個体を作って軍勢にしていくという判断も納得がいく。
タイジュの話が本当なら、こいつはただひたすら強くなることを目的に動いているということだからな。

それにしても極限まで強くなってもこの程度とはちょっと拍子抜けだぞ。

「あの、私はどうすればいいでしょうか?」

ソフィアが俺の後ろで指示を仰いだ。

「自分に出来ることをすればいいと思うよ」

「わかりました!」

何をするつもりなのかはわからないがソフィアが走り出した。

行く手に半透明の骸骨がふさぐ。

「まて、このハギャ様が居る限り進ませはせんぞ」

俺はハギャを一睨みするとそれでハギャは煙のように消え、消滅した。

それとほぼ同時にNNN72が槍で突いてきた。
俺はその槍を華麗にキャッチする、棒立ちの俺に片手で捕らえられた槍はピクリとも動かない。

俺は無から前に作った剣を取り出すとNNN72に向かって一振りする。
剣は命中していないがNNN72が憑依している身体は倒れ、槍は消滅した。

「よし、封印成功」

前に作った剣の中にNNN72は封印された。
これは俺でも専用のアトリエに行かなければ解けない封印である。

あまりにもあっけない、これで本当に終わりなのか?
まさか油断しているところでもう1戦あったりしないだろうな?


28

ソフィアは走っていた。
目指す場所は城門の中の正面玄関、背中に居るスライムは背中に貼り付いて隠れてもらっている。

正直できるかどうか自信無いがここが大勝負である。
多分、人生最大の大勝負。
みんな王様に偽物が居るなんて知らないだろうとソフィアは睨んでいた。

突如現れたロックゴーレムの軍勢に引き続いて現れた人影にクレイドル城の兵士たちが警戒し弓矢を向ける。
だがその姿が王様だと指揮官が気がつくと慌てて弓矢を下げるようにと伝令を出す。
兵士たちは一斉に弓矢を地面に向ける。

「ソーフィアー王様、何故ここに。ここは危険でございます」

「私なら大丈夫よ、私をロックゴーレムのところに連れて行って」

「え?」

「聞こえなかったのかしら?」

「それは危険で」

「聞こえなかったのかしら? もう一度言いましょうか?」

「はい、すぐに案内いたします。ただ私だけでなく私の部下が全員付いていくことをお許しください」

ロックゴーレム達が破壊されては高速で再生しつつ暴れている。
いくら兵士たちが強いとはいえ無限に再生するロックゴーレムと一つしか無い命では、戦闘能力が拮抗していると死んだら終わりの方は戦いづらい。
ロックゴーレム達は身を守るということを一切考慮せず、完全破壊されてでも指一本でも折れたら儲けものとでも言わんばかりに突撃してくる。
当然そんな無謀な戦い方をするロックゴーレムは次々に破壊されていくが破壊されたボディが崩れて地面に付くまでにはもう再生が終わっている。
そして戦いながら少しづつ人間の戦い方に対応しつつあり、どんどんロックゴーレムが優勢になりつつある。
増援をもっと呼んでこないとロックゴーレムの進撃を止められないし、根本的には魔法が使える者を呼んできて再生を止めてもらわなければならないだろう。

2階の小さなバルコニーにソフィアが現れた。

「モンスター達よ、止まりなさい」

ソフィアが一言、言うとそれでロックゴーレム達は動きを止めた。

モンスターが人の言うことを聞くなどということは今まで聞いたことがない。
だが、実際に王様の一言でロックゴーレム達は動きが止まった。
王様が何かしたことは確かだ、今までも王様ことNNN72が常識はずれなことを散々してきたから最早驚かない。

「皆のもの、安心せよ。この城を襲ったモンスター達は王である余の一言で動きを止めた」

ソフィアが高らかに宣言する。
1階にいる兵士から歓声が上がった。


29

NNN72を封印した剣を、更に封印して自分の影の中に収めた俺はミスティアと2人で走っていた。
向かっている先はラーミアの里である、前はソフィアが居たのでそれほど早くは走れなかったが今ではミスティアがついてこれる速度まで早く走れる。

「こんなに走るんだったらテレポート石用意しとけば良かったですね、ロイ様」

「しょうがないんじゃない、千界とも後一ヶ月くらいは行き来できないみたいだし」

「そうですね」

「それはそうとさっき思いっきり刺されてたけどなんで無傷なんだ?」

「前にお守りくれたじゃないですか、あれの効果ですよ」

「ああ、そういえば渡したな……1年で効果消えるから注意してね」

「わかりました、それはそうとソフィアさん置いてきちゃって大丈夫ですか?」

「思念転送してみたらこっちはもう大丈夫だってさ」

ちなみに思念転送は思念が通じ合っている間は普通に話すように会話できる。
ちょっと訓練すれば3人くらいの話を同時に聞いて聞き分け、理解することもできるようになる。
あんまり大量にやり取りしなきゃいけないのなら情報体を一つ作ってそれに管理させるという方法もある。
NNN72が連れてたハギャとかいう黒ローブの骸骨は情報体なんだろうが改良されてて情報体としての原型を留めてない。
恐らく、情報体とこの世界の野生のモンスターを合成して作ったものだと思われる。

なんにせよNNN72は捕獲した。
こいつが自分の分身とか端末とかそういうのを各地にバラまいている可能性はあるは明確な本体であるこれが押さえられている以上、自然消滅していくことになると思う。
そうしないと本体を潰して俺が取って代わろうという別行動の分身が現れる可能性がある。
よって分身や端末には本体が死ぬか消えるかするとお前も死ぬか消えるかするぞという形にするのは常識といっていい。
……たまに反抗されて牢屋みたいなところにブチ込まれて取って代わられることもあるので分身や端末は扱い辛い。
勿論、使い方次第では優秀な能力になるのだが。

思考しない、完全に指示に従うだけの分身や端末も作れるがそれを作るんなら、探知ならレーダーやソナー、攻撃魔法を使って欲しいんなら魔法が封じられている精霊石、と機械やマジックアイテムを使った方が早い。
機械やマジックアイテムが手に入らない時もあるだろうから無駄というわけではない。

ハギャみたいな改良されまくった情報体が居るところを見ると分身はあれだけじゃないと思う。
分身は本体が封印されたら急速に力を失って消滅するはずだが、いざという時に備えて1体くらいは常時監視つけて自分と完全に切り離した分身の1体くらい作っててもおかしくないのではないだろうか。
NNN72の性格を考えると。

ちなみに俺は分身は管理が難いので作らない主義である。
作れるけど。
性能も赤にも黒にもできるけど。

走っているうちに夜が明けてきた。

「朝日だ」

「朝日ですね……私は睡眠不要持ちの特殊能力がありますが久しぶりに寝ようと思います、久しぶりに何か食べるのもいいですね、私は飲食不要持ちですけど」

人間の割にミスティアって寝てないなあと思ったが睡眠不要持ちだったのか、何故か飲み物は飲んでたけど。
ちなみに俺も睡眠不要だが別に特殊能力とかそういうのではない。

もうすぐラーミアも里である。
周囲は深い森で足の踏み場もないくらい草は生い茂っているが、俺もミスティアも問題なく走り抜けられる。


30

こうして俺のNNN72捕獲作戦は終了した?
いやいや、まだである。
NNN72を封印したこれを千界まで持って帰ってはじめて終了である。

「というわけで、これを見張りながら一ヶ月程過ごそうと思う」

「結局一ヶ月待たないと千界には戻れなそうなのか?」

「無理やり結界を解くと千界とこの世界を繋ぐルートが消滅してしまう、そうなるとまたつなぎ直さないといけないんだがそれをやるには二ヶ月くらいかかるので」

俺は目の前の軍師ラムーウとレティカを前に話している。
ミスティアは寝てる。

軍師ラムーウはよく話すがレティカはどこか呆然としている。
まるで俺とミスティアが普通にここに戻ってきたことが信じられないことのように。

「レティカさん、呆然としてますけど何かあったんですか?」

「あっ、いえ、なんでもありません」

レティアは視線を逸した。

「そうだ、良かったら、一ヶ月あるんでしたら……この世界を見て回ったらいいんじゃないでしょうか、良かったら案内しますよ」

「そうしたいのは山々なんだけど、どっかでNNN72を封印したのを落としたりしたら困るのでこの森の中で大人しくしていようと思う」

「ああ、そうですね。良かったら今度はバカンスとかで来てくれたら歓迎しますね」

「それはそれはどうも」

俺のやることは一ヶ月NNN72を封印したこれを見張ることである。

唯一気になるのはレティカである。

最初にレティカを見捨てて逃げた重装甲達は何処で仲間にしたんだろうか。
ここラーミアの里にずっと居たらしいし。

一回それとなく聞いてみたがはぐらかされてしまった。
強く聞くというのもやりずらい、そもそもそんなことを話す義理はないだろうし。
この世界のモンスターであるラーミア達はレティカに忠実だし。

そもそもなんでレティカはモンスターを操れるんだろうか?
そしてなんで千界とこの世界を繋いでいる門がある迷宮に居たのだろうか?
この世の全てを支配する魔王になるとか物騒なことを言っていたような気がするがあれはなんなんだろうか。

わからないことは多いがそのうちわかることもある、無理に答えを求めてもしょうがない。
何か果たさなければならない使命とか志のようなものがあって、というのなら話も変わってくるんだろうが。

改めてラーミアの里を見てみる。
大型の台風でも来たらそのまま吹っ飛んでいきそうな、大型テントを木材で補強したような家が沢山ある。
千界に協力してくれた人たちの隠れ里が襲撃されると軍師ラムーウが前もって察知したので、大移動してきた人たちである。

クレイドル王国から追放された軍師ラムーウについてきたり、同じく追放された者も居るが殆どは行き場の無い人が少しでも人の多いところに来ればなんとかメシにありつけるかなとやってきた人のようだ。
軍師ラムーウはそんな人達を散々こき使って井戸を掘ったり、畑を作ったり、地図を作って道になる場所に砕いた石を敷き詰めて舗装したりと色々やっている。

森から通行人を襲う強力なモンスターが消滅したことで軍師ラムーウが内政をしているこの村と商売をしたいという行商人が来るようになった。
商売が大きくなると裁判を行う移動裁判官などもやってくるようになり、専門の裁判官が裁判しなくてはならないような難しい裁判をやる為の牢屋付きの建物もできた。
人が増えて商売も多くやるようになると複雑で難しい犯罪も増えてくるものらしい。


31

俺は座って部屋の中央に置かれている剣をじっと見ている、朝も昼も晩も一睡もせず食事も取らず身動きもせずじっとNNN72を封印してある剣を見ていた。

建物の外ではミスティアが代わりに何かやっている。
ちょくちょく報告に来るので聞いているのだが、なんでもガッツリ王様になったソフィアがこの森に親衛隊を連れてやってきたり、その時にはミスティアは隠れてこっそり1対1で話したとか。
軍師ラムーウがお城に戻ったとか。
戻ってきたと思ったらこの土地の自治権を軍師ラムーウが獲得したが税金はクレイドル国に払って、クレイドル国からは税金を投入する公共事業が入ってくるようになったとか。
ラーミア達が新天地を求めてどっかに行ったのでラーミアが居なくて人間しか住んでないのにラーミアの里の名前はラーミアの里のままだとか。

色々なことがあったらしいが特に問題らしい問題は起きず一ヶ月の時が流れた。

俺のところにミスティアが来ている。
俺が呼んだのである。
ここ最近ミスティアは観光旅行ということで、変装して色々なところに顔を出している。
そろそろ帰るということでこうして呼んだらすぐに来た。

「ところで相談なんだが」

「はい、なんでしょうロイ様」

「ミスティアって分身出せる?」

「これですか」

ミスティアがそう言うと、ミスティアのすぐ隣にミスティアと全く同じ外見をしているミスティアの分身が現れた。
分身は全く動かない。

「よし、じゃあ歩きながら話すか」

「帰るんですよね、千界に」

「そうだよ」

「それなら、ロイ様も皆さんに挨拶してきてはどうでしょう」

「ミスティアは挨拶したの?」

「ええ、勿論。ただレティカさんはちょっと前から何処に行ったかわからなくて」

「今日会えるかもよ」

「と言いますと?」

「ひょっとしたら会えないかもしれないんだけどね」

「ちょっとそこの茂みに隠れて準備するんでちょっと待ってて」

「え? ええ」

俺は最後の準備に取り掛かった。
この準備が無駄であってくれるとありがたい。

俺の予想が正しければここからが最終決戦になる。
絶対魔法防御、絶対魔法防御を貫く魔法、絶対魔法防御を貫く魔法をも通さない絶対魔法防御。
みたいなぶつかり合いは一回やっている。
もし一回それを見られているなら同じ防御魔法では防げないと思う。

別にこれで防げないなら防げないでいくらでもやるようはあるが。

一番いいのは全て杞憂で終わって、何事もなく千界に帰れることなんだけどね。


32

「お待ちしておりました」

千界と人間界を繋ぐ迷宮の前、そこにレティカが立っていた。
何故かちょっと嬉しそうなニコニコ笑顔である。

「ミスティア、銃を構えろ」

ミスティアが俺の言葉が終わると同時に銃を構えた。
結構離れては居るが、ミスティアなら外さないだろう。

「そこから一歩たりとも動くな、ミスティア、一歩でも動いたら躊躇せず撃て、動くまでは撃つなよ」

「YES、ロイ様」

銃を構えたミスティアとレティカの間に挟まらないようにしつつ俺はレティカに近寄っていく。
レティカは銃を構えたミスティアをと俺を交互に見ながら何故を銃を向けられているのかわからないという顔をしている。

「あの、これはなんなんでしょうか? ひょっとして私、疑われてます?」

「まずなんでここに居たのか聞かせて貰おうかな?」

「ああ、それはですねえ……」

レティカがまたニコニコ笑顔に戻った。

「理由を考えるの面倒なんでもうやっちゃいますね」

レティカの姿は煙のように消える、それは倒されたモンスターが消滅するのと同じような消え方だった。
その場に残ったのは銃を構えたミスティアと俺?のみ。


俺はそんなやり取りをかなり離れたところで見ていた。
先程レティカが話していた相手はミスティアと、ミスティアの分身である。

ミスティア一人芝居上手いなとちょっと関心しながら見ていた。
ミスティアって凄い奴だなあ、とたまに思う。

レティカは消滅したてその場には俺の偽物とミスティアの2人が立っている。
ミスティアは銃を構えたまま動かない。

「ロイ様、急に黙り込んでどうしましたか」

「……」

「レティカさんは何処に消えましたか」

ミスティアは聞くというより独り言を言うように言っている。
そろそろ演技しなくてもいいかなと判断したか?

「クックックッ」

俺の偽物が何か意味深に笑い出した。

「この身体は貰ったぞ」

「あなたはNNN72ですか?」

「さあ、どうだろうな? 俺は冥土の土産でも重要なことは教えない主義なんだよ」

「最後のこれの意味と正解は自分で考えて解けよ、ということですね。わかりました」

俺の偽物は意味深に笑っている。

「これでこの世界は俺のものだ、この身体さえあればなんでもできる。かつてロイが城に真正面から単独で攻めこなかったのだってNNN72に逃げられるからだろう? それを考えなくていいのならばこの世界は俺のものだ」

などと実にバカっぽいことを言いながら、俺の偽物が一歩、歩くと銃声が響いた。

ミスティアは律儀なことに、自分で宣言した、一歩でも歩いたら撃つを守って歩いたから撃ったのだ。

銃弾は俺の偽物の身体を貫通していた。

「?」

何か信じられないことでも起きたかのような顔をしながら俺の偽物はミスティアを見ている。
ミスティアはたて続けに4発撃ち込んだ。

俺の偽物はレティカが消滅したのとは少し違う、煙が消えるようにではなく一瞬で消滅するような消えかたで消滅した。


33

「お手柄だ、ミスティア」

また銃声が響いた。
俺は普通にしゃがんで銃弾を避けた。
前にミスティアに聞いたところ、この動きは余りにも高速移動過ぎて短距離テレポートしたみたいに見えるらしい。
直撃しても無傷なのにいちいち避けちゃう俺も俺だが。

「あっ、本物でした」

「本物か偽物かを確認するのにいちいち撃つの止めようよ」

「善処します、ただこの世界はロイ様の偽物多いですよ、これで11体目です。まさか11体目が自分の分身が化けてる相手になるとは思いませんでしたが」

「そんなに偽物出てきたの?」

「出てきましたよ、最初に城に忍び込んだ時に」

「そういえば前にも言ってたような、あれはなんなんだろうな? 俺の存在を察知したその瞬間に寝るようにしたまま歩いてて最上階にたどり着くまでは1回も抵抗された感触無かったのになんで俺の姿になれるんだろうか」

「そこまではわかりませんが」

手品師マリーアリー辺りが何かしたのかな。
あいつが連れてた同じ顔した忠臣化の魔法使う4人組はあいつの分身だったし。
短距離テレポート使える奴は手品師マリーアリーの分身じゃなくて完全な別人だったけど。

ミスティアは千界に帰ったら今回の出来事を総まとめして報告書の形にする予定らしいので完成したら読ませて貰おうと思う。
もっとも、今回の件を総まとめにすると文庫本にして数十冊くらいの量になる予定らしいので俺がメインで関わっているところだけでいいかなと思う。

検証班とか捜査班とか様々な専門家が呼ばれてきて今回の件のうち謎に包まれている部分を解き明かしていくのだろう。
俺の任務がNNN72を捕獲して連れて帰るというシンプルで簡単なもので良かったと思う。
ただ任務の簡単さと重要さは別物だろう。

俺はNNN72を完全な形で捕獲することができた、NNN72が建てた家だとか作った人形だとかそういうNNN72が残した影響のようなものはまだあるかもしれないがそっちはまた別である。

「よし、じゃあ帰るか」

「はい、帰りましょう。ロイ様」



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...