邪竜と聖竜に懐かれた黒騎士~設定してたイメージとは似て非なる異世界を管理中?~

フィーたら

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第1章 竜人の国

竜人とドラゴン

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竜人とドラゴニュート…両者とも半人半竜であるが、この世界では異なる種族として扱われている。

そんな彼らを区別する上で最もわかりやすい特徴はその容姿にある。
見た目がほぼ人間…この世界で言うところのヒューマンに似ているのが竜人であり、ドラゴニュートのそれはドラゴンに近い。
そのため、二足歩行で人型の頭部を持つ竜人は概ね人間として分類される。
そう表現したのは、イングリッドやリリーという例外もあるからだ。

そんなイレギュラーな存在と普通の竜人の違いがわかる出来事が初日の夜にあった。





場所は城の中庭。
イングリッドと言語についてのやり取りを終えた時であった。
城内から1人の騎士らしき竜人がこちらに向かって歩いてきた。
彼は彼女と会話ができる程度の距離まで近づいて来るとその場で跪く。

「お帰りなさいませ、陛下。
首を長くしてお待ちしておりました」

「うむ。
出迎えご苦労…と言いたいところじゃが…」

イングリッドはそう告げると空を仰ぎ周囲を見回す。
すると、男は立ち上がった。

「さすがは聡明なる女王陛下。
ご自身が今置かれている状況にお気づきになられたようですね」

ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた男が鞘から剣を抜くと、中庭の四方を囲む屋内から彼と同じ鎧を装備した兵士達が姿を見せた。

「フッ、愚かなことを…
この我に対して謀反でも起こそうというのか?」

「謀反とは聞こえが悪いですね。
私はこの国の英雄になる男ですよ。
10年も婿探しだと言って国を放置するような君主を排除するために立ち上がったまでです。
いや、それ以前に国民を欺き竜人の国の王として君臨しているモンスターを退治するのは正義の行いだと思うのですがね」

その言葉を聞いたイングリッドは呆れ顔で大きな溜息を吐く。

「誇り高き竜人の中でも貴様のような欲に塗れた馬鹿が数十年に一度現れてしまうのが我の悩みの種じゃな…」

彼女の独り言のような呟きに男は眉をひそめる。

「それはそうと、リーゼロッテはどうした?
そもそも国のことはあやつに任せておいたから問題は無かったはずじゃが」

「あの女ならさっき散々に叩きのめしてから牢に入れておきましたよ。
前々から鬱陶しかったし、気分も晴れて爽快でしたね」

「さっき…か、なるほど。
あやつが貴様らのような若造に負けるとはとても思えなんだが。
おそらく武器も所持せず我の出迎えのためにここで1人で待っていたのを集団で不意打ちしたといったところか。
それに貴様らが持っている剣はドラゴンバスターのようじゃしのぅ。
まぁ、生きているのであれば問題はあるまい」

「…余裕ぶって喋ってますが、本当に今の状況がわかっているのですか?」

「ふむ…状況とな。
貴様の思う状況とは多勢に無勢であること。
城全体には防衛のために作られた緊急時用の結界魔法を発動させており、中にいる我がドラゴン化して空へと逃げることは不可能。
尚且つドラゴンの姿になったとしても、我は四方の建物が邪魔となり動きが鈍くなる上、敵はその強靭な鱗をも切り裂くことができる武器を所持している。
つまり、圧倒的に我が不利で勝ち目がない。
…と、貴様がそう思い込んでいるという今の状況のことかのぅ?」

「思い込んいる…だと?」

「その通りじゃ。
貴様が我に勝つ確率など皆無。
じゃが、今日は我にとって最高にめでたい日。
それにリーゼロッテも殺してはおらんようじゃしの。
だから、今すぐ武器を捨てこの国から出ていくのであれば命までは取らないでおいてやろう」

「何を馬鹿なことを…
慈悲をかけたのはこちらのほうですよ。
せっかく伴侶を見つけて戻って来たのだから、最後の会話が終わるまで待ってやったというのに。
しかし、その相手が魔族だったとは予想外でしたね。
明日には魔族に国を売り渡そうとした悪女として夫婦共々公開処刑にして差し上げますよ」


え!
なんでオレまで!?
てか、さっきから思ってたけど、オレってイングリッドちゃんの婿候補だったのか?
いやいやいや!
今はそんなどうでもいい事を考えてる場合じゃない!
生き延びるための良い方法って何かないのか?

いや…そもそもこれは夢の可能性もあるしなぁ。
死んでしまったと同時に元の世界で目覚める…とか?
でも、夢の中とはいえ死ぬのは嫌だなぁ。
それに、こんなにリアルな感覚があるってことは、殺される時とか超痛いに決まってる!

あ!そうだ!
転移魔法!
昼に表示された転移魔法でさっきの谷に戻ればいいんじゃね?
…てか、魔法ってどうやって使うんだよ!
転移魔法って念じても何の文字も表示されないんですけど!


「それが貴様らの答えで良いのじゃな?」

目を閉じたイングリッドが男に問う。


「当然です。
最初からこの答えしか持ち合わせてませんからね」

彼女に対しそう返答した男が剣を振り上げる。

「やれ!」

という言葉と同時にオレたちに向けられた剣先。
それが合図となり、2人の会話中に四方を囲みながらじりじりと近づいていた兵達が一斉に襲いかかってきた。
…が、それも一瞬。
彼らは突然その場で倒れたのだ。


「…い…一体…何をした…?」

唖然とした表情の男の声を聞き、イングリッドは閉じていた両目をゆっくりと開く。

「ほう。
我の放った魔力を浴びても意識があるか。
雑魚とはいえ、これだけの兵を従える程度の実力はあったようじゃな」

「…雑魚…?
…そんなことがあるわけがない…
わ…私はあの騎士団長に勝った男なんだぞ…」

「貴様があれに勝ったじゃと?
そんなわけがなかろう。
…でもまぁ、あやつのことじゃ。
我がおらぬのを良いことに、わざと負けてその座を貴様に譲ったというところか。
昔から働くのが嫌いな男じゃったからのぅ」

そう言い終えると、イングリッドの右手だけがドラゴンのような鉤爪に変わる。
と同時に、黒いオーラのようなものが彼女全体を包み込み、その少女の姿は薄っすらとしか見えなくなった。
そして、それを見た男は腰を抜かす。

「…ば…化物…」

「他に何か言い残すことはあるか?」

「…た…た…助け…助けて…下さい…」

あまりの恐怖のため体が思うように動かないのだろう。
必死で後ずさりしながら震える唇で彼女に命乞いをする。

「それは無理な話だというのは理解しておろうに。
じゃが、今日の我は機嫌が良い。
…そうじゃのぅ…
最期に貴様の勘違いを1つ正してやろう。

どうやら貴様はドラゴンである我が竜人に化けていると思っておるようだが、それは正確ではない。
そもそもの起源は、竜人が先にあってそれが変化した姿がドラゴンなのじゃ。
つまり、我は正真正銘の竜人であり国民を騙してなどおらぬ。
まぁ、我のように自我と知性を保ち自由に竜人の姿へと戻ることができる者は数える程しか存在せぬがな。
…さて…」

彼女は語り終えるとその大きな右手で男の頭部を鷲掴みして言った。

「ではさらばじゃ、我がその名も知らぬ小者よ」

これがその男が最期に耳した言葉。
頭部は握りつぶされ彼女の指の隙間からは血が流れ出していた。
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