邪竜と聖竜に懐かれた黒騎士~設定してたイメージとは似て非なる異世界を管理中?~

フィーたら

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第1章 竜人の国

試しにやってみました

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イングリッドに連れられてやって来たのは城の地下牢。
一昨日とは違い塔の扉の前には衛兵が警備にあたっており、入口近くにある部屋にも別の者が配置されていた。


先日彼女が帰還した際には、オレに街全体を見せるためにそれなりの時間上空を飛んでくれていた。
そのことがリーゼロッテや城の者達だけではなく、広く国民に知れ渡るところとなる。
地下には1人も囚人がいなかったこともあり外部からの侵入対策のためにそちらに兵を回していたとのこと。
実際には外部ではなく内部の者が謀反を起こそうとしたわけだが。
オレが感じたこの3日間から推測するに、女王或いは国家に歯向かう者に対しては容赦がなさそうなので、特にいわゆる裏社会に属する一部の者達にとって彼女は排除の対象となっているのであろう。


「なんで地下牢に?」

「そなたが先程馬車の中で「ソウルイーター」を使えると言っておったのでな。
我も話に聞いたことがあるだけで実際には見たことはないが、ここに収容している者達で試してみては、と思ったのじゃ」

「え?
そりゃ試せるのは嬉しいとは思うけど…
名前からしてヤバそうな魔法だけど…大丈夫?」

「いずれにしても逆賊は処刑することになっておるからのぅ。
であれば、そなたの実験台にしたほうが有益じゃろ?」


あ…やっぱりこの魔法使ったら相手は死ぬのね…
でもなんだろう…
イングリッドちゃんやリリーを含めた他の人達の存在も凄くリアルに感じるのに、これまでに何度も視界に表示されてきたウインドウやあり得ない力が非現実的過ぎてどこかゲーム感覚なんだよなぁ。
だからなのか?はわからないけど、死んでもいい相手を殺すことにあまり拒否感を示してない…
これも異世界転移補正というやつなのか?



「まずはこやつらから試してみるか?」

階段を降り一番近くにあった牢の前でイングリッドが言う。
目の前に現れたオレたちを見た囚人2人は後ずさりをして一番奥の壁の近くで震えている。
彼らは自分達が処刑されるのがわかっているのであろう。
必死に命乞いをしているが、彼女はまるでその声が聞こえていないかのようにオレに語りかける。

「どうじゃ、ブラッドよ。
これらなら魔法の対象として選択できると思うのじゃが」

「確かに。
イングリッドちゃんの言ってた通りだね」


闇魔法『ソウルイーター』を選ぶと視界に入っている囚人2人が選択可能となっている。
オレはさほど躊躇することなくそれを実行してみた。
すると聖魔法とは異なり紫色の魔法陣が現れ、それは二層ではなかった。


「ほう…闇魔法も無詠唱であったか。
で、どうじゃ?
何か変化はあったか?」

牢の中の2人が突然倒れたことなどお構いなしにオレに尋ねるイングリッド。
スキルがその名の通りの効果を発揮するのであれば、彼らはもうすでに息絶えているのであろう。

「ん~…
特に何かが変わったような気はしないかな。
目の前に文章が現れたわけでもないし…
強いて言うなら気持ち元気になった…かな?
気のせいかもしれないけど」

「ふむ…
相手の能力は奪えなんだか…
我の聞いていた話とは少し違うようじゃのぅ。
もしかすると、数が足りぬのかもしれぬな」

「数?」

「うむ。
そなたは特殊なようじゃが、この世界に住まう者が魔法やスキルを獲得する際には通常「神の声」などと呼ばれる何者かの声が頭の中で告げてくれるのじゃ。
それがどのような時に聞こえるのか?という明確な答えは出ておらぬが、何かを一定期間鍛錬するなどして回数を重ねた時に獲得できるという傾向がある。
つまり、対象者の命と力を略奪するとされるそなたの闇魔法もある程度の回数をこなさねばならぬ
…というのが我の推測じゃ」

「なるほどねぇ…
てかさ…
オレ「神の使徒」とか言われてるのに、その「神の声」なんて聞いたことないんだけど…」

「まぁ「神の声」というのは一般的な比喩表現じゃ。
そもそも得体の知れない存在じゃからのぅ。
地域や種族によっては「世界の声」「大地の声」「天の声」「精霊の声」などといった表現をする場合もある。
中には少数ではあるものの「奈落の声」などと言っておる者達も存在するくらいじゃからのぅ」


その話を聞きオレはイングリッドの提案通りに次々と囚人達の魂を奪っていったのが特にこれといった変化がないまま最奥の牢まで来てしまった。


「ブラッドよ、少し待つのじゃ。
この者は操られていただけじゃからな」

「操られてたって?」

「あやつの首には魔術が施された首輪が嵌められておってのぅ」

「ん?
そう言われてみれば…
他の囚人はこんなの付けてなかったなぁ。
もしかして、いわゆる隷属の首輪ってやつ?」

「その通りじゃ。
我が逃げられぬよう城に結界を張るために利用されたのじゃろう。
そなたも見ておったからわかるであろうが、我は真っ先に謀反の首謀者を殺したはずなのじゃが、未だにその術が解けておらん」

城の結界?
あ~そういえばそんなことを言ってたような気がしないでもない。
確かに他の元騎士団の囚人に比べると色白で貧弱そうな体をしてる。
てことは、宮廷魔術師とかそういった高位の魔法使いってとこか。


「つまり首輪に術をかけた黒幕がまだ生きてるってこと?」

「左様。
無理に首輪を外して死なせるのは惜しい。
リーゼロッテによるとこやつはそれなりに優秀だったそうじゃからのぅ。
それに、生かしておけば黒幕が何らかの行動を起こすやもしれぬと思ってここに投獄したままにしておる。
少し気の毒ではあるが、また操られて面倒な事をされても困るからのぅ」

「で、黒幕って?」

「察しは付いておるが確証がない。
こやつが協力してくれれば良いのじゃが何も喋ってはくれぬからのぅ。
おそらく術者に対する裏切り行為は死に至るのじゃろう」

「う~ん…面倒だね…
あのさ、ちょっとこの人に試してみたい魔法があるんだけど」

「そなたがそう言うのであれば構わぬが。
ただ、先の事情も踏まえ、可能であればこやつを殺さぬ程度のものであれば有難いのじゃが…」

「多分だけど大丈夫」


彼女から許可を得たオレは聖魔法『ニゲイトイレギュラー』を選択し実行してみた。
いつもと同様、虹色に輝く二層の魔法陣から光が放たれ彼は淡い光に包まれる。
すると鉄製の首輪が二つに割れ、それらが床に落ちた。

言葉の感じからなんとなくはわかってたけど、やっぱり。



聖魔法『ニゲイトイレギュラー』は状態異常を無効化する魔法なのだろう。



今回の場合は「呪い」などに属する異常な状態にあったはずなので、彼を通常の状態に戻すためにその原因の元となっていた首輪にかけられた術が解除されたのであろう。
…とオレは勝手に解釈してみた。



「さすが…じゃな。
通常であればこの類の術を解除するには光属性を扱える高位魔術師の力が必要なのじゃが…」

「あ、そうなんだ。
ドラゴネシアにはそういった人はいなかったの?」

「うむ。
光属性や闇属性の魔法を得意とする者自体がこの世界には中々おらぬ。
我やリーゼロッテのように初級魔法の「ヒール」を使えるだけでも貴重な存在で重宝されるからのぅ」


そうなのか…
そりゃオレが当たり前のように大勢の人々をタダで回復させてたら、治癒魔法士みたいな存在から反感を持たれる可能性も出てくるわけだな。



「…ありがとうございます!
本当に助かりました!
あの…実は私は利用されていただけで…」

「今その話はよい。
我は貴様のことを全く知らぬゆえ、その言葉が信用に値するか否かの判断ができぬ。
後ほどリーゼロッテをここに来させるゆえ、その時に真相を話すがよい。
それまではもう暫くここで我慢してもらうぞ」

イングリッドは彼にそう告げる。



そしてオレたちはリーゼロッテと合流するため地下牢を後にした。
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