ある日、ペットになりました。

みゆ

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「ね、ねぇ、ほんとに大丈夫…?」

「んぁ?なにが?」

「なにが?、って……、」


ぶいーん、と桜庭さんのおっきな車で数十分。
連れてこられたのは
普通に生きていたら来ることが絶対にないであろう店で
普通に生きていたらお目にかかることがないであろう分厚いお肉が目の前に。


「……これ、お肉なの?」

「肉じゃなかったらなんなのよ」


そう言われたらまぁ、お肉なんだけどさ。
あまりにも分厚くて赤い物体に困惑しながら
カウンターの目の前で鉄板に焼かれてるお肉を
ひたすら眺めてた。



「てかさ、仕事なにしてんの?」

「え?私ですか?」

「そう。」

「普通のOLですよ」

「ほぉ~。仕事も辞める?」

「…はい?」

「仕事辞めて、ずっと家にいてもいいよ」


その言葉が衝撃的で
もういい感じに焼けてきたお肉から桜庭さんへと視線をうつした。


「いやいや、それは駄目でしょ?!」

「なんで?」

「さすがに仕事は辞めれませんよ…」


まじで話の次元がぶっ飛びすぎてて
乾いた笑いしか出ない。

昨日今日知り合ったばかりなのに
仕事辞めてもいいよ、とか
・・・怖。

お金持ちって怖い。



「そっか、そうだよな~……、
…あ、肉焼けたって!」


じゃあ仕事は辞めなくていいや、って適当に言い放つと
目の前の店員さんから受け取ったお肉を
じゃーん、と差し出してきた。


「おいしそう…っ!!」


肉汁の輝きと、適度なレアな焼き加減が私を誘う。


「食いたいだろ~?」

「うんっ!」


目の前でお皿をゆらゆらさせる桜庭さんに
目を輝かせて頷く私。


「待て!!」

「は?」

「待て、がとりあえず出来ないと
ペットとして扱いずらそうだしさ」


とりあえず基本の”待て”を習得しとこうぜ、って
いい匂いを私から遠ざけていった。


「……なんですか、それ」

「待て、出来る?」

「出来ません!食べたい!」

「うわ、ないわ~」

「なにが?!」


目を細めて睨まれるけど
それはこっちのセリフだよっ!
このお腹がさっきからグーグー鳴ってる状況で
待て、とか
こっちが”ないわ~”だわ!!


「待て。」

「・・・」

「よーし、待て待て待て?」

「・・・」


さっきの睨みから一変
大人しく待てを実行する私に
楽しそうに、指導中。


「食いたいか?」

「……うん、」

「えー?ほんとに食いたい?」

「・・・」

・・・冷めちゃうよ、せっかくのお肉。


どうしよっかな~、って
相変わらず私を焦らして楽しそうな桜庭さん。

そんな状況に
視覚と嗅覚で最大限に空腹を刺激されすぎて限界な私は
とりあえず腕にしがみついて距離を近付け、


「………ちょーだい?」


”俺に甘えてよ。”

そんな北山さんの言葉を思い出して
一か八かやってみたこの甘え。

少し薄暗くていい雰囲気の店内で
至近距離で見つめたその瞳。
甘えてるはずの私が
ドキドキと心臓の音を早めてる。


「……っふ、やれば出来んじゃん。」


満足気な笑みをこぼした後
わしゃわしゃーって少し乱暴気味に
まるでペットを撫でるように私の髪の毛を撫でてから
念願のお肉を差し出した。


「はい、ご褒美」

「わんっ!」

「ふはは、ペットが板についてきたな」


・・・うん。
なんだか私も楽しくなってきた。
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