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出会い(3)

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人には必ず、表向きの顔と裏の顔がある。俺と同じように。

どういう場面で、表と裏を使い分けるのか、それは人によって違う。



———その時の俺は
余韻に浸っていた———

初めてのデートがこんなにも華やかでいいのだろうか。

俺は自分の中の本当の自分に何度も何度もこう問いかけた。


ようやく答えが出た。
俺はイケメンなのだから、誘われて当たり前なんだと。

だが、今の俺は十七年間生きてきた中で味わったことの無い感情で、どんな顔をしているのか分からない。
だから

自信過剰にならないよう

坂月に悟られないよう

俺は決死のポーカーフェイスで、その場を上手く抜け出した。

俺は先生に任されている仕事の事情を話しその場で坂月とは解散した。


教材を置き、職員室に急ぎでカギを返しに行くと、一人の女子生徒と何やら、大事な会話をしていた。

「あの話・・だ・・・・か?」

「私だって・・・んだ、もう・・・・しま・・よ」

途切れ途切れで若干聞こえるが、内容は頭に入ってこない。

会話が終わるのを確認し、鬼頭先生のもとにカギを返しに行く。

「ずいぶん遅かったな、ご苦労様」

「教材が意外に重くて」

別に坂月に会ったことは言う必要が無い。ここで話を広げるのは合理性にかける。
メリットデメリットは常に付きまとう。
だからこそ余計なことはしない。

「じゃあ、もう帰りますね」
そう言って、俺は学校を後にした。


帰りに今ハマっているライトノベルを買いに本屋に立ち寄ると、鬼頭先生と会話をしていた女の子がいた。

見ている場所から推測するに、その子はラノベが好きなのだろう。

俺は、今日発売の新刊を手に取り、女の子の横を通り過ぎレジに向かおうとした時、

「あっあのその本好きなんですかぁ?」

女の子は話しかけてきた。

「えっ?う、うん。最近結構気に入って読んでいるんだ」

その女の子がテンパっている様子が身体全体で感じる。

だが、俺がこの本が好きだということを知ると
何かを願わんばかりに両手を胸の位置で合わせて目をキラキラに輝かせた。
きっと彼女も好きなのだろう。

「あっすみません。レジに向かっている最中に」

「いや全然構わないよ。君は買わないのかい?」

「あっ私は昨日すでに購入させていきました」

「こうどうがはやいね!」

俺はレジに向かい、今日発売の新刊を購入した。
その後も、そのラノベの話で盛り上がった。

「今日はとても楽しかったです。いきなり話しかけてすみませんでした」

その子は、深々と頭を下げた。


「じゃあ私こっちなので」

「あっ、うん」

彼女はかけ足で狭くて暗い道に消えていった。
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