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9.初仕事
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東の森を視界に捉えた瞬間から、その異様なまでのプレッシャーに似た重たい空気は、依斗が吐き気を催すほどに歪んだ気配を孕んでいた。
「なんだ、この感じ」
「これが瘴気だ。気を抜けば魂を持ってかれるぞ」
リュミナスが視界の先の森を睨んで、胸を押さえて呼吸を荒くし始めた依斗に説明する。
「錯乱、発狂。瘴気は精神に働きかけてくるそうだ。だから本来なら、聖女は瘴気から遠く離れた場所からあれを浄化をするはずだ。まあ、その辺りは最高神官様の方が詳しいか」
「そうですね。どのような文献にも、聖女様が浄化のために神殿から出られたような記述はありません。それほど彼女たちの力は圧倒的なものだったのでしょう」
リュミナスの言葉に、ジレーザは不安が入り混じった声でそう答えた。
当然のことながらこの中に、実際の聖女の奇跡を目の当たりにした者が居るはずもなく、瘴気に関しても口伝や書物で知識として頭にあるだけでしかない。
憶測で語られる聖女の偉業に、依斗が口を開く。
「まるで俺にはその力がないみたいに言うよな」
「ヨリト様、決してそのようなつもりでは」
「分かってるよ」
珍しく慌てるジレーザに意地の悪い笑みを浮かべると、気が紛れてきた依斗は大きく深呼吸をして、再び東の森に視線を戻す。
徐々に近付く森からは明らかに淀んど空気が流れ、薄気味悪いその様子に眉を顰めると、空気に触れた肌がひりつき、依斗はそっと腕を撫でる。
決して気を抜いて掛かるつもりはないが、少しでも気を抜けば、リュミナスの言った通りに魂ごと持っていかれるような不気味な気配を感じて、酷く渇く喉に唾を押し流す。
瘴気の濃度が増した辺りで馬を降りると、後は徒歩で東の森へと近付くことになる。
「ヨリト、ものは試しだ。ここで剣を抜け」
「どういう意味ですか、リュミナスさん」
「この距離からでも効果はあるかも知れない。そうだな? 最高神官様」
リュミナスが声を掛けると、ジレーザは少し躊躇う様子を見せるものの、一瞬で切り替えて真剣な眼差しを依斗に向ける。
「時間が少なく確証があるほどは調べられておりませんが、ヨリト様にも聖女様同等、あるいはそれ以上のお力があるのです。ですから、御身の安全確保を最優先にしてくださいませ」
確かに依斗が目にした禁書にも、魔物との近接戦闘などの様子は描かれておらず、聖剣を薙ぎ払えば聖人の圧倒的な力が発動したようなことが記されていた。
「なるほどな。じゃあド派手にいくか」
依斗は武者震いの中そう答えると、腰に携えた聖剣〈ネグロシス〉のグリップに手を掛け、深く息を吐き出して精神を集中する。
そして居合の要領で抜刀すると、そのまま勢いを殺さずに一閃、立ち込める空気もろとも薙ぎ払う。
そして聖剣〈ネグロシス〉から放たれた光の波動が大きな波を作ると、森の中の木立は揺れてしなり、一斉に鳥が羽ばたいて森から飛び出した。
「いけたか?」
いまだ構えたままの聖剣〈ネグロシス〉に、依斗は体中の魔力を持っていかれるような不快感を覚えながらも、張り詰めた緊張感が途切れないよう意識を保って様子を確認する。
「森が」
「ああ、澱みが……」
ジレーザとリュミナスは驚いた様子で、瘴気の祓われた森を見つめて呆然としている。
その後リュミナスを含めたエントリノ騎士団の騎士たちが、東の森へと立ち入り辺りをくまなく捜索したが、魔獣の姿どころか瘴気らしきものも存在は確認されなかった。
「初仕事にしちゃ、上出来じゃないか」
「ヨリト様、大変お見事で御座いました」
感嘆の息を漏らして笑みを浮かべるジレーザに、そこはハイタッチだろと手を鳴らす依斗だったが、心の底から喜んでいる訳ではない。
なぜなら禁書に書かれていた通り、鎧に潜み鎌首をもたげた下半身の邪竜が唸りをあげていたからだ。
「なんだ、この感じ」
「これが瘴気だ。気を抜けば魂を持ってかれるぞ」
リュミナスが視界の先の森を睨んで、胸を押さえて呼吸を荒くし始めた依斗に説明する。
「錯乱、発狂。瘴気は精神に働きかけてくるそうだ。だから本来なら、聖女は瘴気から遠く離れた場所からあれを浄化をするはずだ。まあ、その辺りは最高神官様の方が詳しいか」
「そうですね。どのような文献にも、聖女様が浄化のために神殿から出られたような記述はありません。それほど彼女たちの力は圧倒的なものだったのでしょう」
リュミナスの言葉に、ジレーザは不安が入り混じった声でそう答えた。
当然のことながらこの中に、実際の聖女の奇跡を目の当たりにした者が居るはずもなく、瘴気に関しても口伝や書物で知識として頭にあるだけでしかない。
憶測で語られる聖女の偉業に、依斗が口を開く。
「まるで俺にはその力がないみたいに言うよな」
「ヨリト様、決してそのようなつもりでは」
「分かってるよ」
珍しく慌てるジレーザに意地の悪い笑みを浮かべると、気が紛れてきた依斗は大きく深呼吸をして、再び東の森に視線を戻す。
徐々に近付く森からは明らかに淀んど空気が流れ、薄気味悪いその様子に眉を顰めると、空気に触れた肌がひりつき、依斗はそっと腕を撫でる。
決して気を抜いて掛かるつもりはないが、少しでも気を抜けば、リュミナスの言った通りに魂ごと持っていかれるような不気味な気配を感じて、酷く渇く喉に唾を押し流す。
瘴気の濃度が増した辺りで馬を降りると、後は徒歩で東の森へと近付くことになる。
「ヨリト、ものは試しだ。ここで剣を抜け」
「どういう意味ですか、リュミナスさん」
「この距離からでも効果はあるかも知れない。そうだな? 最高神官様」
リュミナスが声を掛けると、ジレーザは少し躊躇う様子を見せるものの、一瞬で切り替えて真剣な眼差しを依斗に向ける。
「時間が少なく確証があるほどは調べられておりませんが、ヨリト様にも聖女様同等、あるいはそれ以上のお力があるのです。ですから、御身の安全確保を最優先にしてくださいませ」
確かに依斗が目にした禁書にも、魔物との近接戦闘などの様子は描かれておらず、聖剣を薙ぎ払えば聖人の圧倒的な力が発動したようなことが記されていた。
「なるほどな。じゃあド派手にいくか」
依斗は武者震いの中そう答えると、腰に携えた聖剣〈ネグロシス〉のグリップに手を掛け、深く息を吐き出して精神を集中する。
そして居合の要領で抜刀すると、そのまま勢いを殺さずに一閃、立ち込める空気もろとも薙ぎ払う。
そして聖剣〈ネグロシス〉から放たれた光の波動が大きな波を作ると、森の中の木立は揺れてしなり、一斉に鳥が羽ばたいて森から飛び出した。
「いけたか?」
いまだ構えたままの聖剣〈ネグロシス〉に、依斗は体中の魔力を持っていかれるような不快感を覚えながらも、張り詰めた緊張感が途切れないよう意識を保って様子を確認する。
「森が」
「ああ、澱みが……」
ジレーザとリュミナスは驚いた様子で、瘴気の祓われた森を見つめて呆然としている。
その後リュミナスを含めたエントリノ騎士団の騎士たちが、東の森へと立ち入り辺りをくまなく捜索したが、魔獣の姿どころか瘴気らしきものも存在は確認されなかった。
「初仕事にしちゃ、上出来じゃないか」
「ヨリト様、大変お見事で御座いました」
感嘆の息を漏らして笑みを浮かべるジレーザに、そこはハイタッチだろと手を鳴らす依斗だったが、心の底から喜んでいる訳ではない。
なぜなら禁書に書かれていた通り、鎧に潜み鎌首をもたげた下半身の邪竜が唸りをあげていたからだ。
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