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春休み
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私には、小学5年生の時からずっと好きな人がいる。
いわゆる初恋と言うやつだ。
春希くんとは、3、4年生が同じクラスで、でもその時はなんとも思っていなかった。
5年生になって、今度は春希くんの隣の家に住む瞳と仲良くなって、瞳の家に遊びに行くようになった。
その最初の時、瞳の家が見つからなくて迷ってしまった私に、春希くんが声をかけてくれてのだ。
「小野、だよな?どうしたんだ、そんなにキョロキョロして」
「あ、南野くん。あのね、私、沢村瞳ちゃんち探してるんだけど・・・」
もう少しで泣きそうだった私は、見知った顔にすごく安心できたのを覚えている。
「瞳?ならこっちだ。ついてこいよ」
言うのが早いか、春希くんはどんどん歩き始めた。
「ま、待って!」
女子としても足の遅い方だった私は、春希くんを見失わないように必死に後を追った・・・
私を送り届けてくれた春希くんは「じゃあな」と手をあげるとすぐに走って行ってしまった。
あの時の春希くんの笑顔を、私はずっと忘れられないでいる。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
中学2年になって、私は久しぶりに春希くんと同じクラスになった。
瞳も同じクラス。
すっかり親友になった瞳の助けもあって、私と春希くんは同じ委員会になった。
それからは、委員会で春希くんの隣に座って一緒に作業するのがすごく楽しみだった。
でもそんな素敵な1年は、あっという間に終わってしまった。
3学期の終業式の日に担任の先生に言われて2人で居残り作業したけど、4月にはクラス替えで、違うクラスになったらもう話すこともなくなっちゃう・・・
春休み初日の夜、私はそんな不安で重たい気持ちを引きずりながら、瞳とLINEでやりとりしていた。
「なに?じゃあ結局ほとんど話さなかったの?」
「ぅん・・・」
「じゃあ当然告白も、だよね。って言うか今朝の春希いつも通りだったから、わかってたけどね・・・」
「春希くんに、会ったの?」
「うん。あいつのお母さん忙しいから、時々朝ごはんうちで食べるんだ・・・ってこれ前話したよね」
「うん。聞いた・・・やっぱ無理だよぉ」
「はぁ・・・1年かけてもだめだったか」
「うえーん」
「でもさぁ、あと1年あるじゃん」
「だって・・・同じクラスになるかわからないし」
「違うクラスだって、話くらいできるでしょ?」
「無理だよぉ・・・」
「なんか理由つくって話しかければいいじゃん」
「無理・・・」
「じゃあ諦める?」
「・・・やだ」
「春希のこと好きなんでしょ?」
「ぅん・・・」
「あいつさ、バレンタインの時、めっちゃ本命チョコもらってたよ。食べたの私だけど^^;」
「ぅぅっ・・・
誰か好きな子とかいたのかな?」
「・・・」
「なんで黙ってるの!」
「・・・」
「やっぱ、いるんだ」
「あはは、冗談だよ。あいつ今のところいないみたい」
「ほんと⁉︎」
「うん。ホワイトデーの日、あいつ誰にもお返ししなかったんだよ」
「そうなの?」
「14日の朝何も持ってなかったからさ、思わず聞いちゃったんだ
『お返ししないの?』って」
「それで?」
「『なんとも思ってない奴にお返しするの、おかしいだろ』だって」
「そう、なんだ・・・」
胸の苦しさが、少しだけ抜けていった。
「だから、少なくともチョコもらった中にはいないみたいだよ」
「よかった、のかな・・・」
「でさぁ、ついでに聞いてみたんだ、じゃあ好きな女子いないのって」
「ななな、なんでそんなこと聞いちゃうのよ!」
「いいじゃん。私だってそういうの興味あるし」
「・・・春希くんのこと好きなの?」
「ええっ、あの鼻垂れ小僧を、私が⁉︎」
「鼻垂れ小僧って・・・」
「だって、私幼馴染みだから、あいつがいっつも鼻垂らして歩いてたのとか、小学1年でもおねしょしてたのとか知ってるんだよ」
「そ、そんなこと・・・」
「それに私が好きなのはあいつの兄貴だし・・・ポッ」
「そ、そうなの⁉︎」
「ねえねえ、お兄ちゃんもやっぱりかっこいいの?」
「うん!小さい頃から私のこといつも助けてくれるの!」
「それ、なんかいいね」
「でしょ!」
「えっ、じゃあもう付き合ってるとか?」
「・・・まだ、だけど・・・」
「そうなんだ、ごめん」
「ううん。でもね、今度デート行くんだ、お兄ちゃんと♡」
「いいなぁ・・・私も、春希くんと・・・」
「デートしたい?」
「したいよ!でも・・・まだ告白も出来てないし・・・春希くん、好きな子、いるの?」
「うーん、どうだろう・・・」
「聞いたんでしょ!」
「聞いたけど、教えてくれなかった」
「そっか・・・そうだよね」
「でも、いる気がするんだ、なんとなく」
「どうして?」
「だってさぁ、1月くらいからかな、ちょっと身嗜みとかも気を使うようになって」
「あ、そうだね。なんか髪型とかちゃんとしてた」
「そうなんだよ、ずーとぼさぼさのままだったのにさぁ」
「それも、かっこよかったけど・・・」
「うっわー、本当に恋は人を盲目にさせるんだね」
「い、いいでしょ!ほ、他に何かあるの?」
「うん、私にね『女子ってよくわかんねえよな』とか呟いたりするようになった」
「へぇー、そんなこと話すんだ」
「だね、なんかあいつとは姉弟みたいな感じだし」
「瞳ちゃんもそういうの、春希くんと話したりするの?」
「わけないじゃん!あいつ考えなしに誰かに言いそうだし」
「男の子ってそういうところあるよね」
「そうそう、もしお兄ちゃんに聞かれちゃったら・・・ムリ」
「だね。春希くん、好きな子いるんだ・・・私、やっぱりだめなのかな・・・」
「こらこら、まだ何もしてないのに、あきらめるつもり?」
「そうじゃないけど・・・でもでも・・・」
「あんたって、結構めんどくさい女だよね」
「ぅぅっ・・・そんなことないもん!」
「私相手にカワイコぶってどうする!」
「で、美咲はどうしたいの?」
「わたしは・・・」
「告白、諦める?」
「いや!それは絶対いや」
「じゃあいつ告白する?」
「・・・4月になって、から」
「本当にできるの?」
「するよ!絶対!」
「そうなんだ。でもさぁ、春休みの間に、あいつが誰かに告白とかしちゃったらどうする?」
「そんな可能性あるの?」
「だってさぁ、さっき言ったじゃん、好きな子いるっぽいって」
「そっか・・・」
「話したときの感じじゃ、結構本気っぽかったから」
「ぅぅ・・・」
「もう受験生なんだしさ、受験勉強とか考えたら早いところ告白するか入試終わるまで何もしないかじゃない?」
「・・・そう思う」
「だから、あんたもさ。もし告白するんなら早いほうがいいよ、多分」
「そう、だね・・・」
「どうする?なんだったらわたしがきっかけ作ろうか?連絡くらいすぐ取れるし」
「わ、わたしだって連絡先、知ってるし・・・」
「そう、じゃあ頑張らなきゃ」
「うん・・・今から電話する」
「今なら部屋にいるみたいだから大丈夫じゃない?がんばれ!」
瞳に勇気をもらった私は、春希くんの番号を表示させてから、ふうっと大きく息を吐いた。
「こ、これ押せば、電話、かかる・・・」
私は、通話ボタンにゆっくりと震える指を伸ばし始めた。が、あと数cmというところで、動きが止まってしまった。
いつのまにか呼吸が苦しくなって、口で息をしている。
唾を飲み込む
心臓のドキドキがどんどん早くなる
手も唇も震えが止まらない。
緊張してもう泣きそう。
か、かけなきゃ・・・
でも、どうしても指を画面に触れさせることができない。
断られちゃったらどうしよう・・・
出てもらえないかも、だし・・・
ううん!全部言い訳だ、そんなの。
隣に住んでいる瞳が(春希くんの部屋の窓も見えるらしい)部屋にいるっぽいって言ってたし、寝でもしてなければすぐに出られるはず・・・
さらに呼吸が荒くなり、どんどん苦しくなる中、ついに心を決めた私は、目をつぶって通話ボタンを押そうと指を伸ばして・・・
と突然スマホがブルブル震え、焦ったわたしはスマホをほおり投げてしまった。
で、でんわ⁉︎なんで今?
振動のパターンからどうやら電話らしいとわかった私は、恐る恐るスマホを拾って誰だろうと思いながら、裏返しになっていたスマホの画面をこちらに向けた。
「ははは、春希くん⁉︎」
頭の中は春希くんでいっぱいだったのに、まさか電話が来るなんてまるで考えていなかった私は、思わず声が裏返ってしまった。
「はやく、出なくちゃ・・・」
一瞬の驚きの後、春希くんの名前を見た私は、また心臓がばくばくし始めた。
な、なんで春希くんが私に?
まさか、告白・・・
なんて考えてしまった私はあまりのドキドキに意識を失いそうになった。
「はやく、出ないと、切れちゃう・・・」
言いながらも、手がプルプル震えていて、通話ボタンが押せない。
で、でる・・・出るよ!
はやく楽になりたい・・・
もう苦しいのいや。
眠れない夜も、涙を流すのももうたくさん。
3学期の期末試験だって春希くんのことが頭から離れなくてボロボロだった。
春希くんがクラスの女子と話しているのを見るだけで、わたしが渡せなかったチョコを受け取っているところを見ただけで、わたしの心臓は張り裂けそうだった。
もう、そんなのいや。
ここのまま電話が切れちゃったら、4月からもきっとわたしは同じ苦しみを味わう。
登校の時は春希くんに会えるのがすごく嬉しいのに、帰りは告白できなくて泣きそうになる。
それなのに家に帰ってもずっと春希くんのことが頭から離れない。
そんなことを繰り返すのはもう嫌。
週末は家に帰ってから月曜の朝までずっと春希くんのことを想ってしまう。
嬉しいけど、苦しい。ドキドキが辛い。
今日は春希くん笑ってた。お友達と話してて楽しそうだった。
その笑顔、わたしに向けて欲しい。わたしに向かって微笑んで欲しい。
そばにいたい、手、繋ぎたい。抱きしめてもらいたい・・・
全部繋がって一つになってしまいたいというくらいの思いを、ここ半年くらいは特にひどく思い続けている。
3月に入ってから告白しなきゃって思い始めて、ご飯も喉を通らなくなって、気づいたら3kgも痩せていた。
ママがすごく心配してた。
苦しい、苦しい、くるしい・・・
人を好きになるって嬉しいことのはずなのに、なんでこんなに苦しまなきゃいけないの?
なんでこんなに泣きたくなるの?
もう、いや・・・
震えるスマホを持ったままそんなことを考えていたら、振動が止まってしまった。
「あっ・・・」
私はベッドに正座したまま、だらんと両手を落とした。
「・・・なんで、なんで出なかったの・・・」
自分の愚かさに天井を見上げる私。
そのままどれくらい呆然としていたのだろう。
気づくと右手にある何かが震えていてた。
「・・・電話?」
涙で目が霞んでいた私は、名前も見ずに通話ボタンを押した。
「・・・はい」
まるで力のない声。
「よかった!もう寝てるのかと思ったよ」
あれ?なんだか聞き覚えのある声・・・って春希くん⁉︎
気づいた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
「・・・あれ?小野、だよな?聞こえてる?」
「ははは、はい!聞こえてます!」
「そっか、よかった。あ、あのさ・・・」
まだ少し寒い春の夜。私は、心も身体も、指の先まで温もりに包まれていくのを感じた。
いわゆる初恋と言うやつだ。
春希くんとは、3、4年生が同じクラスで、でもその時はなんとも思っていなかった。
5年生になって、今度は春希くんの隣の家に住む瞳と仲良くなって、瞳の家に遊びに行くようになった。
その最初の時、瞳の家が見つからなくて迷ってしまった私に、春希くんが声をかけてくれてのだ。
「小野、だよな?どうしたんだ、そんなにキョロキョロして」
「あ、南野くん。あのね、私、沢村瞳ちゃんち探してるんだけど・・・」
もう少しで泣きそうだった私は、見知った顔にすごく安心できたのを覚えている。
「瞳?ならこっちだ。ついてこいよ」
言うのが早いか、春希くんはどんどん歩き始めた。
「ま、待って!」
女子としても足の遅い方だった私は、春希くんを見失わないように必死に後を追った・・・
私を送り届けてくれた春希くんは「じゃあな」と手をあげるとすぐに走って行ってしまった。
あの時の春希くんの笑顔を、私はずっと忘れられないでいる。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
中学2年になって、私は久しぶりに春希くんと同じクラスになった。
瞳も同じクラス。
すっかり親友になった瞳の助けもあって、私と春希くんは同じ委員会になった。
それからは、委員会で春希くんの隣に座って一緒に作業するのがすごく楽しみだった。
でもそんな素敵な1年は、あっという間に終わってしまった。
3学期の終業式の日に担任の先生に言われて2人で居残り作業したけど、4月にはクラス替えで、違うクラスになったらもう話すこともなくなっちゃう・・・
春休み初日の夜、私はそんな不安で重たい気持ちを引きずりながら、瞳とLINEでやりとりしていた。
「なに?じゃあ結局ほとんど話さなかったの?」
「ぅん・・・」
「じゃあ当然告白も、だよね。って言うか今朝の春希いつも通りだったから、わかってたけどね・・・」
「春希くんに、会ったの?」
「うん。あいつのお母さん忙しいから、時々朝ごはんうちで食べるんだ・・・ってこれ前話したよね」
「うん。聞いた・・・やっぱ無理だよぉ」
「はぁ・・・1年かけてもだめだったか」
「うえーん」
「でもさぁ、あと1年あるじゃん」
「だって・・・同じクラスになるかわからないし」
「違うクラスだって、話くらいできるでしょ?」
「無理だよぉ・・・」
「なんか理由つくって話しかければいいじゃん」
「無理・・・」
「じゃあ諦める?」
「・・・やだ」
「春希のこと好きなんでしょ?」
「ぅん・・・」
「あいつさ、バレンタインの時、めっちゃ本命チョコもらってたよ。食べたの私だけど^^;」
「ぅぅっ・・・
誰か好きな子とかいたのかな?」
「・・・」
「なんで黙ってるの!」
「・・・」
「やっぱ、いるんだ」
「あはは、冗談だよ。あいつ今のところいないみたい」
「ほんと⁉︎」
「うん。ホワイトデーの日、あいつ誰にもお返ししなかったんだよ」
「そうなの?」
「14日の朝何も持ってなかったからさ、思わず聞いちゃったんだ
『お返ししないの?』って」
「それで?」
「『なんとも思ってない奴にお返しするの、おかしいだろ』だって」
「そう、なんだ・・・」
胸の苦しさが、少しだけ抜けていった。
「だから、少なくともチョコもらった中にはいないみたいだよ」
「よかった、のかな・・・」
「でさぁ、ついでに聞いてみたんだ、じゃあ好きな女子いないのって」
「ななな、なんでそんなこと聞いちゃうのよ!」
「いいじゃん。私だってそういうの興味あるし」
「・・・春希くんのこと好きなの?」
「ええっ、あの鼻垂れ小僧を、私が⁉︎」
「鼻垂れ小僧って・・・」
「だって、私幼馴染みだから、あいつがいっつも鼻垂らして歩いてたのとか、小学1年でもおねしょしてたのとか知ってるんだよ」
「そ、そんなこと・・・」
「それに私が好きなのはあいつの兄貴だし・・・ポッ」
「そ、そうなの⁉︎」
「ねえねえ、お兄ちゃんもやっぱりかっこいいの?」
「うん!小さい頃から私のこといつも助けてくれるの!」
「それ、なんかいいね」
「でしょ!」
「えっ、じゃあもう付き合ってるとか?」
「・・・まだ、だけど・・・」
「そうなんだ、ごめん」
「ううん。でもね、今度デート行くんだ、お兄ちゃんと♡」
「いいなぁ・・・私も、春希くんと・・・」
「デートしたい?」
「したいよ!でも・・・まだ告白も出来てないし・・・春希くん、好きな子、いるの?」
「うーん、どうだろう・・・」
「聞いたんでしょ!」
「聞いたけど、教えてくれなかった」
「そっか・・・そうだよね」
「でも、いる気がするんだ、なんとなく」
「どうして?」
「だってさぁ、1月くらいからかな、ちょっと身嗜みとかも気を使うようになって」
「あ、そうだね。なんか髪型とかちゃんとしてた」
「そうなんだよ、ずーとぼさぼさのままだったのにさぁ」
「それも、かっこよかったけど・・・」
「うっわー、本当に恋は人を盲目にさせるんだね」
「い、いいでしょ!ほ、他に何かあるの?」
「うん、私にね『女子ってよくわかんねえよな』とか呟いたりするようになった」
「へぇー、そんなこと話すんだ」
「だね、なんかあいつとは姉弟みたいな感じだし」
「瞳ちゃんもそういうの、春希くんと話したりするの?」
「わけないじゃん!あいつ考えなしに誰かに言いそうだし」
「男の子ってそういうところあるよね」
「そうそう、もしお兄ちゃんに聞かれちゃったら・・・ムリ」
「だね。春希くん、好きな子いるんだ・・・私、やっぱりだめなのかな・・・」
「こらこら、まだ何もしてないのに、あきらめるつもり?」
「そうじゃないけど・・・でもでも・・・」
「あんたって、結構めんどくさい女だよね」
「ぅぅっ・・・そんなことないもん!」
「私相手にカワイコぶってどうする!」
「で、美咲はどうしたいの?」
「わたしは・・・」
「告白、諦める?」
「いや!それは絶対いや」
「じゃあいつ告白する?」
「・・・4月になって、から」
「本当にできるの?」
「するよ!絶対!」
「そうなんだ。でもさぁ、春休みの間に、あいつが誰かに告白とかしちゃったらどうする?」
「そんな可能性あるの?」
「だってさぁ、さっき言ったじゃん、好きな子いるっぽいって」
「そっか・・・」
「話したときの感じじゃ、結構本気っぽかったから」
「ぅぅ・・・」
「もう受験生なんだしさ、受験勉強とか考えたら早いところ告白するか入試終わるまで何もしないかじゃない?」
「・・・そう思う」
「だから、あんたもさ。もし告白するんなら早いほうがいいよ、多分」
「そう、だね・・・」
「どうする?なんだったらわたしがきっかけ作ろうか?連絡くらいすぐ取れるし」
「わ、わたしだって連絡先、知ってるし・・・」
「そう、じゃあ頑張らなきゃ」
「うん・・・今から電話する」
「今なら部屋にいるみたいだから大丈夫じゃない?がんばれ!」
瞳に勇気をもらった私は、春希くんの番号を表示させてから、ふうっと大きく息を吐いた。
「こ、これ押せば、電話、かかる・・・」
私は、通話ボタンにゆっくりと震える指を伸ばし始めた。が、あと数cmというところで、動きが止まってしまった。
いつのまにか呼吸が苦しくなって、口で息をしている。
唾を飲み込む
心臓のドキドキがどんどん早くなる
手も唇も震えが止まらない。
緊張してもう泣きそう。
か、かけなきゃ・・・
でも、どうしても指を画面に触れさせることができない。
断られちゃったらどうしよう・・・
出てもらえないかも、だし・・・
ううん!全部言い訳だ、そんなの。
隣に住んでいる瞳が(春希くんの部屋の窓も見えるらしい)部屋にいるっぽいって言ってたし、寝でもしてなければすぐに出られるはず・・・
さらに呼吸が荒くなり、どんどん苦しくなる中、ついに心を決めた私は、目をつぶって通話ボタンを押そうと指を伸ばして・・・
と突然スマホがブルブル震え、焦ったわたしはスマホをほおり投げてしまった。
で、でんわ⁉︎なんで今?
振動のパターンからどうやら電話らしいとわかった私は、恐る恐るスマホを拾って誰だろうと思いながら、裏返しになっていたスマホの画面をこちらに向けた。
「ははは、春希くん⁉︎」
頭の中は春希くんでいっぱいだったのに、まさか電話が来るなんてまるで考えていなかった私は、思わず声が裏返ってしまった。
「はやく、出なくちゃ・・・」
一瞬の驚きの後、春希くんの名前を見た私は、また心臓がばくばくし始めた。
な、なんで春希くんが私に?
まさか、告白・・・
なんて考えてしまった私はあまりのドキドキに意識を失いそうになった。
「はやく、出ないと、切れちゃう・・・」
言いながらも、手がプルプル震えていて、通話ボタンが押せない。
で、でる・・・出るよ!
はやく楽になりたい・・・
もう苦しいのいや。
眠れない夜も、涙を流すのももうたくさん。
3学期の期末試験だって春希くんのことが頭から離れなくてボロボロだった。
春希くんがクラスの女子と話しているのを見るだけで、わたしが渡せなかったチョコを受け取っているところを見ただけで、わたしの心臓は張り裂けそうだった。
もう、そんなのいや。
ここのまま電話が切れちゃったら、4月からもきっとわたしは同じ苦しみを味わう。
登校の時は春希くんに会えるのがすごく嬉しいのに、帰りは告白できなくて泣きそうになる。
それなのに家に帰ってもずっと春希くんのことが頭から離れない。
そんなことを繰り返すのはもう嫌。
週末は家に帰ってから月曜の朝までずっと春希くんのことを想ってしまう。
嬉しいけど、苦しい。ドキドキが辛い。
今日は春希くん笑ってた。お友達と話してて楽しそうだった。
その笑顔、わたしに向けて欲しい。わたしに向かって微笑んで欲しい。
そばにいたい、手、繋ぎたい。抱きしめてもらいたい・・・
全部繋がって一つになってしまいたいというくらいの思いを、ここ半年くらいは特にひどく思い続けている。
3月に入ってから告白しなきゃって思い始めて、ご飯も喉を通らなくなって、気づいたら3kgも痩せていた。
ママがすごく心配してた。
苦しい、苦しい、くるしい・・・
人を好きになるって嬉しいことのはずなのに、なんでこんなに苦しまなきゃいけないの?
なんでこんなに泣きたくなるの?
もう、いや・・・
震えるスマホを持ったままそんなことを考えていたら、振動が止まってしまった。
「あっ・・・」
私はベッドに正座したまま、だらんと両手を落とした。
「・・・なんで、なんで出なかったの・・・」
自分の愚かさに天井を見上げる私。
そのままどれくらい呆然としていたのだろう。
気づくと右手にある何かが震えていてた。
「・・・電話?」
涙で目が霞んでいた私は、名前も見ずに通話ボタンを押した。
「・・・はい」
まるで力のない声。
「よかった!もう寝てるのかと思ったよ」
あれ?なんだか聞き覚えのある声・・・って春希くん⁉︎
気づいた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
「・・・あれ?小野、だよな?聞こえてる?」
「ははは、はい!聞こえてます!」
「そっか、よかった。あ、あのさ・・・」
まだ少し寒い春の夜。私は、心も身体も、指の先まで温もりに包まれていくのを感じた。
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