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翌朝
「明衣、ちょっと!」
教室の入り口から、大和が明衣に声をかけた。
「なに?どうしたの大和!」
呼ばれた明衣は大和と一緒に廊下に出た。
「ちょっと明衣に話が・・」そう言いながら大和は、人の少ない方に明衣を連れていった。
「で、なに?」
「あのさ、遠野のことなんだけど」
「なに?あんたも彩香狙ってんの⁉︎だめよ!彩香は私のもんだなんだから!」
明衣はムッとした表情で大和を睨んだ。
「違うから!俺、昨日、鷹文んち行ったんだって!」
「あー、そう言うこと。ねえねえ、可愛かったでしょ、彩香」明衣はニヤニヤしながら大和を見た。
「あ、ああ。あれは学校のヤツらには絶対に見せちゃいけねえと思った」
「だよねえ。和泉さんも罪なことするわ」
「でな。明衣はわかってると思うんだけど、鷹文のやつは全然でさぁ」
大和は昨日の鷹文を思い出して、少し呆れたポーズをとった。
「にぶにぶだからねぇ鷹文。でも大丈夫。みんな彩香のことは黙ってることになってるから」
「お!さすが明衣!」
「あったりまえでしょ。自分の嫁を守るのは当然!」
「嫁って・・・あ、それから、あのゆずって子も・・・」
「はいはい。承知してるよぉ。港川1の美少女彩香と癒し系小動物のゆずちゃん、でしょ?あの二人は私の大切な友達なんだから、手ぇ出させるような真似しないから安心して」
「やっぱ明衣だな。話が早い!」
「まあね。鷹文ももうちょっと理解が早いといいんだけどねぇ・・・」
明衣も大和と同じように呆れたようなポーズをした。
 
大和と話を終えた明衣が、教室に戻ってきた。
「めいちゃん、おはよう。さっき話してたの、竹原くん?」
「そうそう、なんだ、見てたんなら声かけてくれればよかったのに」
「えっ・・・だって・・・」
ゆずが縮こまった。
「まだ怖い?あいつ、でっかいけど、優しいやつだよ」
「そ、それは、この前ので、わかった、けど・・・」
「まあそうだよね。男子に免疫ないんだもんね、ゆず」
「う、うん・・・」
「じゃあ、そんなゆずに、大和のことちょっと教えてあげよう!」
「大和、くんのこと?」
ゆずははて?というように首を傾げた。遅れてやってきた彩香も黙って明衣の話を聞き始めた。
「竹原大和。私と鷹文の幼馴染。幼稚園から一緒なんだよ。で、あいつんちは音楽教室やってるの。お父さんが、ジャズバンドやっててね。ギターなんだ。何回か見せてもらったことあるけど、めちゃくちゃかっこいいんだよ。お母さんもね、ピアノ弾けるんだ。それに歌も上手いし。そんな両親の一人息子ってわけ」
「へえ。なんか意外」と彩香。
「そう?まああのガタイ見れば音楽のイメージわかないか。大和、スポーツも得意だよ。まあ、私ほどじゃないけど」
明衣は少し自慢そうにポーズをとった。
「でね、大和もギター弾けてさ、最近じゃ初級コースの先生やってるんだって。バイト代安いとか文句言ってたけど」
「す、すごいんだね、大和くん」
ゆずが目を丸くした。
「あいつんちも鷹文の家に負けないくらいおっきくてさ、と言ってもほとんど教室なんだけど。大和って年上のお姉さまから人気なんだ。お母さんにピアノ習ってるお姉さまたちが、ちっちゃい頃から大和のこと可愛がってたよ」
「そ、そうなんだ・・・」
ゆずが少し残念そうな顔をした。
「あれぇ。ゆず、大和に興味持っちゃった?」
「そ、そういうんじゃなくって・・・でも、ギター弾ける男の子って、かっこいい・・・」
「大和の演奏、私も何回か聴いたことあるけど、もう大和の方がうまいってお父さんも言ってたよ。曲作ったりもできるんだって」
「それは、すごいね」彩香もびっくりしていた。
「なんなら今度見に行く?学校からもそんな遠くないよ」
そんな話をしていたところでチャイムが鳴った。
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