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それからしばらくして、少し時間のできた彩香はカメラを持って家の外に出た。
「いいところね」
家から少し離れたところで振り向いた彩香は、家全体が入るように写真を撮った。
家の横に大きな木があり、気になった彩香はその木に近づいていった。
「桜の木、かな?春は綺麗なんだろうな・・・あ、傷がある」
と桜の木についた傷を触る彩香。
「あれ?これって・・・」
見覚えのあるような気がした彩香だったが、裏手に見つけた大きな蔵と倉庫に目を奪われて、そちらへ歩き始めた。
大きな倉庫に蔵。どれだけ荷物があるんだろう・・・」
と不思議に思いながら蔵の周囲を眺めていると、鷹文が倉庫の前に立っていた。
「鷹文くん!ここって何が入ってるの?」
彩香は鷹文に声をかけて倉庫に近寄った。
「蔵の方は親父の一族のものがいろいろ。こっちの倉庫は、親父の不要になった本とか・・・主に親父のもの、かな」
と言いながら、ガラガラとシャッターを開けた。2階まであるその倉庫にはところ狭しと本棚が並んでいた。
「うわー、本、本当にたくさんあるね。あ、自転車もある。しかも電動!」
「ああ、買い物ちょっと遠いからな。坂道も多いし。免許持ってればあっち使うんだけど」
と鷹文が目を向けた方向には、バイクが2台止まっていた。
「これも先生の?」
「ああ、昔、資料用に買ったんだってさ。脇役がバイク乗る人で」
「わ、脇役のために!」
「ああ、免許も取ってたぞ。大型」
といいながら鷹文は、大きなアメリカンバイクに手を触れた。
「そ、そうなんだ。なんかすごいね、作家の先生って」
呆然とする彩香。
「まあ親父、こう言うの意外と好きみたいだからな。免許取った時は得意がってたぞ。なんとかライダーとかって」
鷹文はホコリを軽く払うとバイクにまたがってみせた。
「なんかかっこいいね」
「そうか?」
「鷹文くんは免許持ってないの?」
「誕生日がまだ・・・」
「バイクの免許って?」
「16から」
「そうなんだ。あれ、鷹文くんって?」
「11月生まれ」
「そっか、ならまだ無理だね」
「ああ、その作品書き終わってから親父も全然使ってないみたいだけどな、このバイク」
「もったいない!」
彩香が呆れた顔をした。
「『鷹文が使いなさい』とか言ってた。だから11月には免許取る」
「そうなんだ。気をつけてね」
彩香は心配そうな顔で鷹文を見た。
「愛さんみたいな運転はしないから」
「そ、そうだよね。明衣のお母さん、すごい運転だったね」
「でもあれで普通らしいぞ、あの人にとっては」
鷹文が心なしか青ざめた様子だった。
それからすぐに、ゆっくりとバイクを降りた鷹文が自転車に近づき
「なあ、今いいか?自転車玄関に持ってくんだけど」
と彩香に声をかけた。
「うん。いいよ」
そう言って二人は自転車に乗って玄関へ向かった。

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