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「彩香ぁ!」
大和を連れて先に海に入っていた明衣が、遅れてやってきた彩香にいきなり飛びついた。
「ちょっ、め、明衣!」
「わははぁ。たあのしいね!」
「それにしても彩香の身体って、やっぱりえっちだよね」
まじまじと彩香を見つめる明衣。
「明衣・・はずかしいよぉ」
明衣にねっとりと見つめられてもじもじする彩香。
「だってさぁ。いつもは見られない彩香の素肌、しっかり目に焼き付けなきゃ。さわっ」
「きゃあ!えっち!」彩香の脇腹になでるように触れる明衣。
「彩香の肌すべすべ。ほらゆずも」
「ふにっ。ほんとだ!さいちゃんすべすべ」ゆずも反対側から彩香に触っていた。
「も、もう、ゆずまで!えい!ふにっ」
仕返しに彩香がゆずの胸に触った。
「うわ、柔らかい」
「さ、さいちゃん・・・」恥ずかしそうに両腕で大きな胸を抱え込むゆず。
「眼福だねぇ」
「お、おお・・・」少し前かがみになって海に沈み込む大和。
「うわぁ、きもちいい~」とそんな彩香たちを横目に、結衣はイルカさんに乗ってのんびり浮かんでいた。

少し疲れたのか、結衣がイルカを引きずってパラソルに戻ってきた。
「ふみにいは今年も海、入らないの?」
「ああ」それだけ言った鷹文は相変わらず文庫本を手にしている。
「ほんと、ふみにいだよねぇ」
と呆れながらも結衣は鷹文の隣に座った。
「ふみにいって、彩香さんのこと好きなの?」
「はぁ?」
なぜ?という顔の鷹文。
「だって、前の家政婦さんよりたくさんお話ししてるよ、ふみにい」
とニコニコする結衣。
「いや、前のって・・・おばあちゃんだろ!」
「その前の人はそれなりに若かったじゃん。なのにほとんど口聞かなかったし」
「・・・あいつとは、学年が一緒なだけで」
「ふうん。でもさぁ、お買い物デートもよくしてるじゃん」
「で、デートって・・・あれは親父に言われて仕方なく・・・」
「そう?楽しそうに見えたよ。彩香さんもふみにいも。一緒にふみにいの洋服選んじゃったりしてさ」
「おまえ、それも見たのか・・・」
「うん。彩香さん『彼女さん』とか言われて、少し恥ずかしそうにしてたよね」
どんだけ近くで見てたんだと、気づかなかった自分に腹が立った鷹文だった。
「あれ、どう見ても付き合ってるようにしか見えなかったけど」
「あ、あれは・・・で、デートのためにだな・・・」
「デート!やっぱり、彩香さんとお出かけもしてたんだ!」
やっぱり!という顔をする結衣。
「彩香じゃない!れ、玲と・・・」
「・・・え?別の女とのデートの服、選ばせてたの?」
「ま、まあ、成り行きで、な」
「うわー、ふみにい最低!」
「仕方ないだろ!彩香が家にある服じゃ相手に失礼だって言うから・・・」
「・・・彩香さんって彼女って言うよりも、奥さんみたいだね」
「な・・・」
「で、甲斐甲斐しくお世話されてるダメ旦那のふみにい」
「・・・」何も言い返せない鷹文。
「やっぱ最低!」
と結衣は立ち上がって海へ戻ってしまった。
「お、俺だって・・あんなこと・・・」
結衣がいなくなってから言い訳めいたことを言う鷹文だった。

それから結衣は、砂浜に上がっている彩香のそばにやってきた。
「彩香さん、あんなふみにいのどこがいいんですか?」
「え?」
それだけ言い残した結衣は、またイルカに乗りにいった。
「結衣ちゃん、どうしたのかしら?」
わけのわからない彩香だった。
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