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それから数日、鷹文はまた部屋にこもることが多くなっていた。
今日も自室にこもって写真集とアルバムを交互に見ていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「洗濯物、持ってきたんだけど」
彩香が少し気まずそうに部屋に入ってきた。
「彩香、親父から聞いたよ」
「そう、なんだ」
洗濯物を抱えたまま、彩香が立ち止まった。
「昔のアルバムも見てるけど、全然思い出せない」
鷹文はちらっと机の上にあるアルバムを見た。
「鷹文くんも、思い出せないんだね・・・」
「ああ」
二人ともなんと話していいのかわからず、しばらく無言で立っていた。
「・・・でもさ、焦っても仕方ないよね。思い出せないんだもん」
彩香が無理に笑顔を作りながら切り出した。
「そう、だな」
「先生も私のお母さんもいるんだし・・・こうしてれば、いつかきっと思い出すよ」
彩香は自分の不安を悟られないように、鷹文を元気付けた。
「あっ・・・洗濯物」
彩香はいつのまにかぎゅっと抱きしめていた洗濯物を鷹文に渡した。
「さ、サンキュー」
「うん・・・じゃあね」
彩香は少し恥ずかしそうに部屋を後にした。
受け取った洗濯物からほんのり彩香の甘い香りがした。
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