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「舞菜さーん!」
新宿駅西口。地下のロータリーで明衣たちは待ち合わせしていた。
時間より早めについたのだが、舞菜はすでに待っていた。
「明衣ちゃん。こんにちは」
「早かったんですね。あ、こっちが鷹文です」
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「あら、かっこいいじゃない、彩香ちゃんの彼氏」
舞菜は値踏みするように鷹文を見た。
「か、彼氏じゃないです!」
慌てて否定する鷹文。
「あれ?明衣ちゃん?」
「あははぁ。『まだ』違うんですよ」
「ああ、そういうこと」
舞菜は納得したように微笑んだ。
「・・・」
鷹文は明衣を睨みつけた。
「じゃ、じゃあ行きましょう、舞菜さん!」
明衣は鷹文の視線から逃げるように歩き始めた。
「そうね、うふふ」
舞菜は二人のやりとりをおかしそうに眺めながら明衣の横に並んだ。
鷹文はムッとしながらその後に続いた。

大手の家電量販店に入った3人は、大量のカメラバッグが並んでいるコーナーに来ていた。
「こんなにあるんだぁ。私たちだけじゃ選べなかったね」
「ああ。すごいな」
明衣と鷹文は、バッグの種類の多さに圧倒されていた。
「そうね。いろんな用途があるから、それに合わせて選ぶの、私でも結構考えちゃうわよ」
そう言いながら舞菜は、彩香との会話を思い出しつつ、あたりをつけていった。
「彩香ちゃん、確かこれだったと思うわ」
舞菜は、かなり大きなバッグを手に取った。
「こんな黒いのでいいんですか?」
「ええ。見た目より機能重視って感じかしら。これならたくさん入るし防水もしっかりしてるから、カメラやレンズも安全なの」
「彩香、お弁当とか持ってきますもんね」
「ええ。彩香ちゃん何でも準備よくって感心しちゃうわ」
「そうなんですか?」と鷹文。
「一人で来てるのに、予備のカップ持ってたりするのよ」
舞菜は、彩香と初めて会った日のことを思い出していた。
「サンドイッチも少しもらったんだけど、とっても美味しかったわ。鷹文くん、ほかの男の子に取られないように気をつけてね」
「そ、それは・・・」
「そうだよ、鷹文。油断してたらすぐ取られちゃうよ。ってか彩香は私がもらうし」
明衣は勝ち誇ったように宣言した。
「う、うるせえ!」
「いいわね。幼馴染って。なんか楽しいわ」
「そ、そうですか?」
「うん。明衣ちゃんのことも大事にしてね」
「は、はい・・・」
鷹文たちは、舞菜の助言に従って、今の彩香が一番必要とする機能が詰め込まれたものを選んだ。
「うん。これだったらカメラ買い換えても使えるわよ」
「あいつ、カメラも買うんですか?」
驚く鷹文。
「ちゃんと聞いたわけじゃないんだけど、彩香ちゃんうちの大学受けるって言ってたから。写真科に入ったら今のカメラ、ちょっと厳しいのよね。あ、これ言ってよかったのかな?」
舞菜は、しまったと言う顔をした。
「私は知ってるけど・・・」
明衣は鷹文を見た。
「・・・聞かなかったことにしときます」
鷹文は静かに答えた。
「優しいのね」
「いえ。俺も、自分の知らないところでそういう話されるのはあんまり・・・」
「いいなあ。私もこんな彼氏ほしいかも」
と舞菜は鷹文を見つめた。
「ま、舞菜さん!」
舞菜の視線にうろたえる鷹文。
「うふふ。冗談よ」
舞菜もいたずら好きのようだ。
「あ、せっかくだから舞菜さんにも来てもらおうよ!」
「そうだな。25日なんですけど、来られませんか?」
鷹文が舞菜に尋ねた。
「うーん。ごめんね。最近なかなか会えない人が帰ってきてるから・・・」
「彼氏、ですか?」
「・・・そうなったらいいなって言う人、なの」
舞菜は静かに答えた。
「じゃあ、そっち優先ですね」
「うん。ごめんね」
舞菜は両手を合わせて謝った。
「いえいえ。頑張ってください!」
「ありがとう」
「応援、してます」
「鷹文くんもありがと」
舞菜はにっこりと微笑んだ。
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