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アルバムを持った彩香は、奈緒がいる居間までやってきた。
「ねえお母さん、今度のお休みの日、写真撮りに行こうと思うんだけど・・・」
奈緒はコタツの横でアイロンをかけていた。
「あら、どこいくの?」
「うん。高尾山なんだけどね」
と彩香は雄大と撮ってきた高尾山の写真を見せた。
「これはね、パパといったときの写真なんだ。ほら、空曇ってるでしょ」
「でも、夕日のグラデーションキレイね」
「うん。私も気に入ってるんだけどね。今度の週末、晴れるみたいなんだ」
「よかったじゃない」
「うん。でね、日が暮れるまで写真撮りたいんだけど・・・」
「彩香、まさか一人で行くつもりなの?」
彩香に向き直る奈緒。
「う、うん・・・」
「ダメよ!夜の山道を女の子一人なんて危ないじゃない」
「だ、大丈夫だよ。ケーブルカーもあるし・・・」
彩香の言葉はどうも歯切れが悪く、そこに何かを感じ取った奈緒は続けて尋ねた。
「ケーブルカーって夜もやってるの?」
「う、うん・・・日没とおなじ時間くらい、まで」
「終わっちゃったら下山は?」
「・・・歩き」
彩香は目をそらして小さな声で答えた。
「じゃあ諦めなさい。夜道を、しかも山の中を女の子一人なんて絶対にダメよ」
「だ、大丈夫だよ!ちゃんと時計見て間に合うようにするから!」
「・・・あんた写真撮ってる時に時間気にするなんてできるの?」
「うっ・・・それは・・・」
「でしょ。ダメよ」
「・・・じゃ、じゃあ彩乃と一緒に・・・。彩乃が時間見ててくれれば!」
「ダメよ。彩乃だって女の子じゃない。危ないことに変わりはないわ」
取りつく島もない。
「女の子だけなんて絶対認めませんからね」
「・・・なら、鷹文くんが付き合ってくれたら?」
プスっとした顔でなんとなく思いついたことを言う彩香。
「まあ・・・それだったら、いいわよ」
「本当に⁉︎」
意外な答えに彩香は驚いて奈緒に向き直った。
「でも、OKもらえたら鷹文くんから私に電話してもらうのよ」
「な、なんでそんなこと・・・」
「だって、写真取りに行くときの彩香って全然信用できないじゃない」
まさか嘘までつくとは思っているわけではないが、写真が絡むと彩香はいろいろダメになってしまうので、奈緒は念を押した。
「わ、わかった・・・」
渋々返事をした彩香は重い足取りで部屋に戻っていった。

彩香が出ていった後コタツの上を見ると、アルバムが置いてあった。
「・・・雄大さん、彩香とこんなところまで行ってたのね」
アルバムをめくりながら、奈緒は雄大を思い出していた。
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