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春休み直前の朝。いつものように大和が鷹文のところにやってきていた。
「で、鷹文。お前は春休み、なんか予定あるのか?」
「ああ、バイクで遠出するつもりだ」
鷹文は相変わらず文庫本を読みながら大和の質問に答えた。
「ま、まさか彩香ちゃんとツーリングデート⁉︎」
「な訳ないだろ。免許とって1年は二人乗りはできないんだ」
平然と答える鷹文。
「なんだよぉ。1人かよぉ」
「いいだろ別に」
「ほんとは連れてきたかったんだろ、彩香ちゃん?」
「・・・知るか!」
大和のしつこいツッコミに鷹文は動揺した。
「でもいいなぁ、バイク。俺も免許取ろうかな?」
鷹文のそんな変化に気づく様子もなく、大和はバイクの話題を続けた。
「バイクはどうするんだよ」
「俺はお前とちがってずっとバイトしてるからな。お年玉貯金と合わせれば中古くらいすぐ買えるだろ?」
大和は自慢げに指でコインの形を作ってみせた。
「なるほどな。でも教習所、結構時間かかるぞ」
「そっかぁ。じゃあ春休みツーリングとかは無理か」
「・・・俺と行くつもりなのか?」
鷹文は驚いて顔を上げた。
「行っちゃいけないのか?」
「・・・まあいいけど」
「で、どこ行くんだよ?」
大和は身を乗り出すようにして尋ねた。
「別荘まで。距離もちょうどいいし」
「泊まりか?」
「いや、片付けとかめんどくさいからな」
「・・・だな。あれだけでかいと一人じゃ大変だよな」
「ああ」
「にしてもいいなぁ。俺もチャリでどっか行こうかな?」
「・・・まあ、頑張れ」
自転車なら別荘までは来ないだろうと安心した鷹文は、また本を読み始めた。
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