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「うっわー、なにこれ!これめっちゃ美味しそう!」
明衣の目が、運ばれてきた料理を見てハートマークに変わった。
「これってアジ?い、今動いたよね⁉︎」
結衣は小さな生き作りのアジを恐々と見つめている。
 
運良く開店直後に入れた一行は、店員さんに教えてもらった売り切れ必死のメニューを中心に注文し、全員に届くのを待っていた。
「あ、ごめん。料理撮ってもらってもいいかな?」
こんな時でも写真を忘れない彩香は、先に届いた明衣と結衣に、料理の写真を撮ってもらうよう自分のスマホを渡した。
「・・・彩香、もう大丈夫?」
「うん。ごめん、お待たせ」
彩香は全員に写真を撮ってもらった。
「よし!じゃあ改めて・・・いただきまぁす!」
みんなで手を合わせて『いただきます』したあと、賑やかに食事が始まった。
「お姉ちゃん、生のしらすって透明なんだね・・・」
彩乃はこわごわとしらすを突いた。
「ぱくっ・・・ほわぁっ、唐あげアツアツ」
とハフハフしながら食べる結衣。
「塩焼きもおいひい・・・」
ゆずがうっとりとした表情を浮かべている・・・

「ねえ結衣、塩焼きちょっともらっていい?」
「いいよ。じゃあ私はお刺身もーらい!」
「あっ、二つ残ってるのにしてね!」
とどこでも元気な木村姉妹。
「お姉ちゃん・・・」
明衣たちの賑々しい姿を見た彩乃が、彩香にお願い光線を送った。
「彩乃も好きなのいいわよ」
「やった!・・・ぱくっ・・・おいしいね」
すでに狙いを定めていたのか、綾乃は迷うことなく煮付けに手を伸ばした。
「・・・みんな仲良いね」
ゆずが羨ましそうに見ている。
「ゆずちゃんも取っていいわよ」
「ほんとですか!じゃあひとつ・・・」
少し迷って、ゆずは舞菜のお皿からアジの刺身をひとつもらった。
「・・・おいひい」
ゆずが嬉しそうに微笑んだ。
 「舞菜さんが本当のお姉さんだったらよかったな・・・」
ゆずは、彩香や明衣を見ながら呟いた。
「ゆずちゃんって一人っ子?」
「はい・・・でも隣に住んでるお姉ちゃんとはいつも仲良くしてます」
「そうなんだ」
「ゆずのケーキの先生なんですよ」と明衣。
「えっ、ゆずちゃんってケーキ作れるの⁉︎」
「はい。お姉ちゃん・・・もなねえって言うんですけど、ケーキ屋さんやってて、いつも教えてもらってます」
ゆずが嬉しそうに答えた。
「だからゆずのケーキってお店やさん並みに美味しいんですよ」
「お姉ちゃんの誕生日の時も焼いてくれたんですよね」
彩乃が嬉しそうに言った。
「す、すごいわね。ねえゆずちゃん、今度私にも・・・」
「はい。作ってきますね。あっ、今日はクッキー焼いてきたんですよ」
「ありがとぉ!」
隣に座っていた舞菜は、抱きつかんばかりの勢いで喜んだ。
「でも、さっきから食べっぱなしね。後が怖い・・・」
舞菜はちらっと自分のお腹を見た。
「舞菜さん、ゆずが妹になったらきっとほっぺぷくぷくですよ。こんな風に」
と言いながら明衣はゆずのほっぺをむにゅっとつまんだ。
「め、めいひゅわん。わらひ、ふくふくしゃないひょお」
「あはは。何言ってるかわからなぁい!」
「めいひゅわん!」
ゆずのほっぺをつまんだまま笑い続ける明衣だった
 
「ふう、お腹いっぱいだね」
明衣は満足そうにお腹をさすった。
外にはまだ多くの人が並んでいる。
「まだいっぱい並んでるね・・・あれ?メニューに線引いてあるよ」
彩乃が看板を覗き込むと、いくつかのメニューの上に線が引かれていた。
「本当だ。刺身定食、もう終わっちゃったんだね」
「10食って書いてある。限定だったんだね」
彩乃たちの話を聞きながら、彩香がパチリと撮った。
「早く並んでよかったね」
「でしょ、ちゃんと調べてきたんだから!」
「さすが舞菜さん!」
舞菜が得意げに胸を張った。
「でね・・・みんなこれ見て」
舞菜は自作の旅のしおりをみんなに渡した。冊子になっている。
「うわー、本格的!修学旅行みたいだね」
「表紙の絵もかわいい・・・あっ、ここのことも書いてある」
「あの日ね、帰ってからも彩香ちゃんと話してたのよ。途中でどこか寄ろうかって。そのあとネットで調べ始めたらなんか止まらなくなっちゃってね。で、できたのがこれってわけ」
「なになに?昼食後・・・撮影  灯台で。ってどこにあるんですか、灯台?」
明衣が辺りをきょろきょろ見回した。
「うん。あっちの堤防の先に灯台があるの、そこに向かいながら撮りたいなって。それにその向こうには砂浜もあるのよ」
「ほんとに⁈砂浜行きたい!」
「明衣ちゃん落ち着いて・・・まずはみんなのメイクから」
「そ、そうでした・・・彩乃ちゃん、結衣、行くよ!」
「はーい」
明衣を先頭に、モデル部隊はメイクをしに車の中に入っていった。
「さいちゃん、私は?」
「うーん、ゆずはそのままがいいかな?お化粧は3年になってからにしたいなって思うんだけど・・・」
「そ、そうだね。私もお化粧なんてまだちゃんとできないし・・・」
「ゆずはそのままで十分かわいいわよ」
「あ、ありがとう・・・」
そんな一言ではにかんだゆずも、彩香はさりげなく撮影した。
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