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「彩香、今日の夕飯はなに?」
放課後、彩香のバイト以外特に予定もなかった3人は、教室でしばらく話した後、正門に向かって歩いていた。
「最近ご飯の土鍋炊きにハマっててね。今日は土鍋で竹の子ご飯にしてみようかなって思ってるんだ」
彩香はニコニコしながら答えた。
「うわっ、美味しそう!でもあれって準備大変なんじゃないの?お母さんに言ったら面倒だから嫌って断られたよ」
「うん。竹の子のアク抜きが時間かかるんだけど、昨日やっておいたんだ」
「さすが彩香!」
「土鍋だとおこげも美味しそうだよね」
「ゆずも食べてけば?」
「えっ、そ、そんな突然悪いよぉ」
「おじさん、ゆずが来たら喜ぶよ。ゆずのこと大好きだから」
「だだだ・・・」
ゆずが真っ赤になった。
「早く帰ろうよ、彩香!」
「もう、明衣ったら」
腕を引く明衣に、彩香は優しく微笑んだ。

「・・・彩香!」
3人が正門を通り過ぎたところで、男性の声が彩香を呼んだ。
「えっ・・・史紀くん⁉︎」
ここを知るはずのない史紀が突然目の前にあらわれて、彩香は戸惑いを隠せなかった。
「ごめん、どうしても彩香に会いたくなって・・・」
「あ、あのさ・・・この人って彩香の知り合い?」
彩香の不自然な反応に驚いた明衣が尋ねた。
「うん・・・山本史紀くんって言ってね、京都に住んでた頃の幼馴染みなの」
「ええっ!京都から来たの⁉︎」
「ううん。今は大学生でこっちに住んでるんだって。舞菜さんと同じ日陽大学の写真科なんだよ」
「そ、そうだよね・・・はは、はははは・・・」
自分の早とちりに明衣が苦笑いした。
「彩香の友達?」
「うん、明衣とゆず。一年の時からの友達よ」
「こんにちは」
「こ、こんにちは・・・」
初めて会う男性にゆずは尻込みしている。
「こんにちは。ごめん、突然で申し訳ないんだけど、彩香のことちょっと借りてもいいかな?」
「えっ・・・彩香?」
明衣の問いかけに彩香が頷いた。
「わかりました・・・彩香、私たち先に行くね」
「うん。ごめんね」
「さいちゃん、また明日」
「うん。バイバイ」
小さく手を振って明衣とゆずは先に行った。
「ごめん、彩香」
「・・・どうしたの、突然。それに私、学校の事・・・」
彩香が少し困ったように尋ねた。
「小林に聞いたんだ。驚いたよ、まさか小林と彩香が知り合いだったなんて」
「うん・・・そうだね。私も史紀くんと舞菜さんが一緒にいて驚いた」
2人は駅に向かってゆっくり歩きはじめた。
「彩香、今から少し時間ないか?」
「ごめん、この後バイトなんだ・・・」
彩香は申し訳なさそうに答えた。
「そっか・・・」
「・・・電話、くれればよかったのに」
「ごめん。でもさ、電話だと何話せばいいのか分からなくて」
「それでわざわざこんな遠くまで?」
「ずっと探してた彩香にやっと会えたんだ。これくらい遠くなんてないよ」
「そう・・・ごめんね」
史紀と歩きはじめてから、彩香の表情は少し沈んていた。
「彩香、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫、だよ」
彩香は取り繕うように微笑んだ。
「調子悪いんなら帰ったほうが・・・」
「そ、そんなことないよ。大丈夫・・・
そういえば、史紀くん写真のお仕事してるんだってね」
「先輩の伝手でね。雄大さんに教えてもらったおかげだよ」
「そう、なんだ・・・」
「・・・彩香はあれから大丈夫だった?」
「う、うん・・・彩乃もいたし、お母さんも1人じゃ大変だったから、おばあちゃんのいるこっちに戻ったの。ごめんね、なにも言わないでいなくなっちゃって・・・」
「・・・お父さんはまだ?」
「うん・・・何やってるんだろうね、パパ」
彩香は寂しそうに笑った。
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