選ばれし聖女は神に苦情が言いたい

もぶぞう

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下賤なる者たちよ、高貴な者の施しにひれ伏せ

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聖女アーニャはとある国で新公爵就任祝いの式典に駆り出されていた。
偶々公爵領を通り掛かることを先代公爵に嗅ぎつけられ、冒険者ギルドに依頼を出されてしまったのだ。
顔を見せるだけで良いらしいので高額な依頼料を提示し飲ませて受けた。


「聖女アーニャ、新領主に祝福を頂けないだろうか。」


おい、依頼は式典に出席することだろうが。
別料金が発生するぞ。
と、口に出す前に新公爵が割り込んで来た。


「父上、そのような下賤の者から受け取るものなどありません。
平民上がりの聖女などより王都から大神官でも呼べば良かったのです。」


おやおや~。
聖女は国王より上の立場だと知らないのかな~。
それに先代もわたしが祝福よりも神罰が得意だと聞いてないのかね。

まあ、良いでしょう。
その望み叶えてあげようじゃないか。


「流石は王族に連なる公爵家の新たなるご当主。
高貴なお考えに感服いたしました。
良いでしょう、その願い聞き届けましょう。

下賤なる者たちよ。
ただ今この時よりこの高貴な公爵家に対し何かを与えることを禁ずる。
それが新公爵殿の望みです。
直接、間接を問わず、この公爵家に与えようとする者には神罰が降るでしょう。」


集まった領民にも聞こえるように魔法を使って声を届けた。
『高貴』だの『下賤』だのの言葉に新公爵はまんざらでもない笑顔だ。
聞いている領民たちは『下賤なる者』と呼ばれて怒ってる?
まあまあ、最後までお聞きなさいな。


「待ちなさい、今すぐ撤回し……」


先代が意図に気付いたみたいですが、神罰の雷に打たれて気絶した。


「助言を与えようとしたので神罰が降ったようですね。
公爵家内部でも対象になりますね。
聖女たるわたしを下賤の者扱いした新公爵殿にとっては神以外は下賤の者に当たるのでお気を付けください?
助言、諫言、それに罰なども公爵家の者に与えようとすれば神罰が降ります。
国王が罰として身分か領地を取り上げようものなら国王にも神罰が降るでしょう。
あら、本来なら罰を受けるような事態だとバラしてしまいましたわ。

下賤の皆さま、良いですか?
例え税を求められても、それは公爵家の利益になるのですから与えたら神罰が降ります。
間接的なことも禁じたので徴税官は失職ですね。
誰かを迂回に使おうとも、結果公爵家に与えるならば神罰対象です。
それから皆さんに神罰が降ることを承知で公爵家の方々が徴収しようとすれば、公爵家に悪評を与えたとしてその者にも神罰が降るでしょう。
数が多ければこの先代のような気絶では済まないかもしれません。
これ以降公爵家の名の下に税などを徴収しようとする者が現れるかもしれませんが、それらはすべて神罰対象か詐欺師ですからね。
無視して構いません。
むしろ教会に通報してくださいね。」


下賤な皆さまの表情が変わりましたね。
実質、税が無くなったと知りニコニコです。


「商人の方々も公爵家に何かを納め、与えるのは神罰対象です。
農家の方々も大地の恵みを公爵家の者に与えてはいけませんよ?
あらあら、公爵家の方々は自給自足して頂かないと食べ物もありませんね。
ご家族内でも神罰が降るのでしたら、コップ一杯の水でもご自分で井戸から汲まなくてはいけません。
さすがに赤ん坊に乳を与えて神罰が降るほどわたしも神も無慈悲ではありませんから、未成年者に家族内で与えるのは神罰対象外といたしました。
あくまでも家族内ですよ?

公爵家の使用人の方々も申し訳ありませんが、公爵家の者にサービスを提供することは神罰対象になるので失職ですね。
ですが、無税となったこの領でならいくらでも職はあるでしょう。

それから、いくら馬鹿な新領主殿であっても犯罪に巻き込んではいけません。
巻き込まれた公爵家の方々にもです。
利益、不利益を問わず、この公爵家に与えようとすれば神罰が降るので気を付けてくださいね?

領内で犯罪が起こり、領地の評判が今以上に落ちることも公爵家に不利益を与えることですから、きっと犯罪の無い領地となることでしょう。」


実質、公爵家の者たちがその身分を捨てない限り生きていけないだろう。
誰か気付けば良いけどね。
もちろん助言になるのでわたしは黙っていますよ?
わたしに神罰が降ることは無いのですけどね。
家庭内でも有益なことを共有できないことになるので時間が掛かりそうね。
手続きした者は利益を与えたことになるので神罰が降るから、最初のひとりで終わるかもしれないわ。
神罰上等の勇者が沢山居ると良いわね。


「公爵家の方々に仕事を与えたり、更にその仕事の成果を与えようものなら神罰も苛烈に成るでしょう。
良かったですね、唯一与えることができる神から『無職』の称号が与えられるわ。」


さてさて、公爵家の者は領地を治める仕事ができないので誰かが代わりをしないといけないのよね。
だけど、領地を上手く治めて公爵家の評判を上げるのも利益を与えることになるのでできない。
程々と言っても無税な領地ならお金が回るだろうから評判を上げないなんて無理筋よね。
農民は収穫を税に持って行かれることもなく全部自分で捌ける。
となればモチベーションは上がり収穫を増やす努力をするだろう。
物を買うお金もできるし、商人たちだって同様に収入を増やすだろう。
それぞれ細かく神罰受けるのかしら?

あら?もしかして評判が上がるのはわたしではなくて?
下賤の者からは受け取りたくないと言う新公爵の願いを叶えたのはわたしよね?
つまり税を停止させたのはわたし。
領民の生活が向上するならわたしのおかげよね?

ねえ、もしかして教会に祈りに来る人も増えてない?
聖女たるわたしを遣わした神に感謝を、とか言ってない?
わたしの成果を神が掻っ攫ってる?

ボーナスを要求するわ。
祈る人が増えた分、神力が増えるのよね?
全部とは言わないから分け前寄越しなさいよ。

あとで対象は新公爵だけでも良かったかもとアーニャが思ったのは秘密だ。

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