黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

34. 九日目(謹慎初日)、自宅への来訪者Ⅲ ③  

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 綾部は後藤の鋭い質問に対して天井を見詰めながら過去を思い出していく。
「高校になると反抗期が始まり、しばらくして暴走族に入る様になった。喧嘩が
絶えない毎日が続いたよ。高校三年になると人が変わった様に真面目になり始め
て夏の終わりに族を抜けてくるって言って背中を見送ったまま、アイツは生きて
戻っては来なかった」
「族の掟ですか?」
「そうだ。集団でリンチされて耐え抜かなければ脱退できないという悪習だ」
「報復に出たんですか?」
「首班である頭は真っ先に逃亡したよ。俺の頭の中に報復の文字が無かったと言
えば嘘になるが相手を殴った所で息子が蘇える訳でもない。心の中が空しくなっ
て抜け殻へと変貌してしまい一周忌を迎えた時、息子の位牌を握り締めながら、
二度と同じ事が起きないよう悪ガキ共の喧嘩の監視をする人間が必要だと思った
んだ」
「息子さんへの罪悪感からですね」
「最初はそうだったが悪ガキ共の喧嘩を見るうちに有り余る力を制御できずに扱
い方を知らないだけじゃないかって思うようになったんだ」
「西新宿限定なのは、どうしてですか?」
「地元って事もあるが一人でやるには限界がある。それに極悪い奴らの密集地帯
でもある。強い奴とやりたいだけなら俺が直接戦う事もある」
「先輩に勝てる不良が存在するとは思えませんけどね」
「それも狙いの一つだ。決して敵わない男が存在するってのを教えるのも俺の役
目だ」
「倒したければ必至に稽古に励み、技を磨いて大人になった時、越えられる存在
になって欲しいと思ってる」
 いつの間にか席に戻って真剣に聞き入っている後藤。
「お前を突き動かしているのは一体何だ!?」
「諦めるのが心の底から嫌になったんだと思います」
「諦める=逃げ出す事だと思っているのか? この世の中、自分の思い通りに、
人生を歩んでいる人間は極めて少数だぞ」
「もちろん。私にも理想と現実に差がある事くらいは分かっているつもりです」
「それなら、この事件がヤバイ事くらい分かるだろ?」
「俺は大馬鹿野郎かもしれません」
 テーブルに額を付けて説得に応じない事を全面に出す後藤。
「お前は未だ若い。若さ故に判断を見誤る時が来る」
「そうかもしれません……」
「俺は交渉に向いてないな。最後に下の名前はピースじゃない。平和(ひらかず)
だ」
 綾部は背中を丸めながらタブレット型ミントを置いて部屋を出て行った。
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