黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

38. 十日目(謹慎二日)、真夜中の来訪者①

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「頼りない新人で申し訳ありません。あなたと出会えて良かったです」
「それはこちらも同じですよ。ではお喋りは、この位にして生前暮らしていた弟
の部屋を案内します」
 言い終わった位のタイミングで二人の耳に聞き慣れた音が入ってきた。 
「ピンポーン」
 玄関のチャイム音だ。家主である聡が突然の来訪者が誰であるかを確認する為
に備え付けのインターホンの受話器を手にする。
「どちら様ですか?」
「夜分遅くに申し訳ございません。西新宿署の黒沢です」
(どうして警部が来るんだ?)
 後藤の頭は混乱して脈拍が上昇していく。
「これはまた随分と懐かしい名前ですね」
「嫌われているのは私も充分承知していますが立ち話というのもアレなんで中に
入れて貰えないですかね?」
 左手に酒瓶を持ちながら野太い声で説得にかかる。
「今、少し散らかってるんで三分もあれば片付くと思います」
「分かりました。それまで外で待ってます」
 聡は玄関にある後藤の靴をどうしようか考えた。何故かこの靴を見られては、
いけない気がしたのだ。後藤は錯乱してきて両手で×印を作って入室を拒んでい
る事を必至にアピールしている。聡は天然石で連なっているアクセサリーを装着
した左手でバスケットのドリブルのように見える微妙な動きを繰り返した。
(たぶん、落ち着けっていう合図だろう)
 聡は一分程、考えると妙案が浮かんだ。聡の工場では完成品を一旦、敷地内に
ある室外へ出す事が暗黙のルールとなっており、雲行きが怪しい時の為にブルー
シートを被せる習慣があった。そのブルーシート等の在庫管理を任されており、
在庫は聡の部屋で一括管理していた。

 聡は早速、行動に取り掛かる事にし、押入れから筒上になったブルーシートを
一本取り出して玄関の側面に立掛ける。それから小声で後藤に梱包に使う緩衝材
を数枚押入れから持ってくるように伝えて現物を受け取るとブルーシートの下に
厚めに敷いた。次に中央部分に挿入されている芯を抜いてから靴を一足、右手に
持って中央部分の空洞へと投げ入れていく。緩衝材に当たって音が漏れたが極僅
かな音である。そして残りの緩衝材をもう一足に手早く巻いて空洞へと投げ込ん
だ。最後に芯を後藤に手渡し、弟が使っていた部屋への隠し扉の場所を耳打ちす
ると一番奥の部屋に飾られた掛け軸をずらして隣の部屋へと続く扉のノブを掴ん
で隣の部屋へ足を踏み入れた後藤。 

 こうして靴を見事に隠す事と後藤が隠れる事に成功した聡が時間を確認すると
約束の時間まで残り十秒となっていた。
「お待たせしました。お入り下さい」
「ご無理を言って迷惑掛けます」
 黒沢から放たれる酒臭い匂いが鼻に付いたが問い詰める事は敢えてしなかった。

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