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捜査開始

41. 十日目(謹慎二日)、花瓶の目利き②

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「黒沢さん。もう充分、観察したのでは?」 
 鑑定時間に三十分も掛かっていては待っている方も呆れてしまう。
「どうも夢中になると周りが見えなくなるみたいで……」
 待機している後藤は何が始まってしまったのか全く理解できずにいた。
「金額は決まりましたか?」
「四十万までは絞ったんですけどねっ」
「四十万の位は合ってます」
 当ててきた所に背筋がゾクゾクっと反応する。
「問題は下の位ですね。一~九までの数字で宜しいですか?」
「もちろんです。何十何千円の端数はありません。ピッタリ何万でキリです」
 黒沢の頭はフル回転していた。本来であるならば零~九の十分の一の選択支で
あった所を一~九と質問する事で零が入っている可能性を先に確認したのだった。
その甲斐あって確率は九分の一になったが、このままでは簡単には当たらない。
「五ですか?」
「最後の質問は終わった筈です。これって警察官お得意の誘導尋問ですよね?」
「嫌、そんなつもりじゃないです。そう取られても仕方ないですが。私とした事
が、うっかりしていました」
 黒沢は聡の目の動きを見逃さなかった。視線を合わせないように下を向き左右
に数回泳がせていたのだ。長年の経験から判断してかなり近い事に間違いないと
確信した。出した答えは六か四である。
 聡は表情を見せないように背中を向ける行動へ出る。
「刑事さん相手に表情を見せるのは答えを公表しているようなものですよね。先
程の独り言みたいな口調で気付かされました」
 こうされては第六感に頼るしかない黒沢。

「では四にします。四十四万円です」
 聡は、あれだけ粘っていた黒沢の潔さに不意を突かれた気持ちになったが顔色
には出さずにズボンの後方のポケットから財布を取り出すと中身を大きく広げて
二枚ある領収書の金額を確認してから一枚を手渡す。その間の動作は背中が死角
となっている為、黒沢は窺い知る事はできなかった。
「四十六万でしたか。非常に残念です。詰めが甘いのは昔から変わらないんです
よ」
 明らかに悔しい表情を浮かべながら歯噛みを繰り返している。
「差額が二万ってのは凄い事じゃないですか。実は当てられるんじゃないかと思
って本気で焦ってました」
「まぁ余興みたいな物でしたな。さてと長居は、これくらいにして最後に現場だ
け見て帰ります」
 聡は車の鍵が取り付けてあるキーホルダーから弟が使用していた西隣の部屋の
鍵を外して黒沢の左手の掌に乗せた。
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