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鍵を失くして三十里
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途方に暮れていた。僕は家の鍵を失くしてしまった。明日は仕事だというのに、もう寝ないといけないのに。スペアもない。ライトを点けて夜道を探し回るためのiPhoneの電源は、もう残り僅か。充電器を借りるお金すらない。どうすればいいんだ。途方に暮れる以外に何ができるというのだ。
「あの、すいません、どうかしました?」
「え? 僕ですか?」
「いや、なんというかその……物憂げにというか……」
物憂げに見えた? 何故?
「放っておいたら明日この辺に変死体が転がってそうで怖くて。よかったら事情聞かせてもらえません?」
僕は正直に話した。彼女は、食べきれなくて持ち帰ったというカレーを食べに来て、充電していけばいいというようなことを言う。
どうせマルチか宗教だろう。騙されたふりをして、ついていけばいい。充電くらいさせてもらってもバチなんか当たりはしない。そもそもこの世に神も仏も存在しない。存在するとしたらせいぜいピンクの見えざるユニコーンくらいだ。何ならやり逃げすればいい。
そう考えて、彼女には名前も名乗らずついていく。
「古いアパートなんで、静かにしてくださいね。それさえ守ってもらえれば、別に私もバカじゃないんでコンドームくらいはありますから」
何を言い出すのだこのひとは。この世に神は存在しなかったが、女神は存在した。
「ギガホとかじゃなければWi-Fiもお貸ししますし」
そう言って、女神様はPCにイヤフォンを繋いで、どう見てもエロゲとしか思えないゲームを始めた。僕のことには特に構ってこなかった。
***
「充電満タンになってますよ」という声で起こされた僕は、冷めきったナンとカレーを半ば無理矢理押し付けられ、「また来ます」と言い残して、家の鍵を探しに出た。
女神様に声をかけてもらった場所に戻り、今日の行動をもう一度考えようと思った。
……僕が失くしたと思っていた鍵は、ひとまず腹ごしらえだと思って食べようとしたカレーの袋の中に、「上着のフードの中にありましたよ」という走り書きと、discordタグと書かれた、よくわからない文字列が並んでいる紙とともに存在した。
どうやら、女神どころか神も仏も存在しそうな街だな――引っ越してきたばかりで不安だった僕は、二度と訪れることのできない聖地を避けて生活しようと思った。
「あの、すいません、どうかしました?」
「え? 僕ですか?」
「いや、なんというかその……物憂げにというか……」
物憂げに見えた? 何故?
「放っておいたら明日この辺に変死体が転がってそうで怖くて。よかったら事情聞かせてもらえません?」
僕は正直に話した。彼女は、食べきれなくて持ち帰ったというカレーを食べに来て、充電していけばいいというようなことを言う。
どうせマルチか宗教だろう。騙されたふりをして、ついていけばいい。充電くらいさせてもらってもバチなんか当たりはしない。そもそもこの世に神も仏も存在しない。存在するとしたらせいぜいピンクの見えざるユニコーンくらいだ。何ならやり逃げすればいい。
そう考えて、彼女には名前も名乗らずついていく。
「古いアパートなんで、静かにしてくださいね。それさえ守ってもらえれば、別に私もバカじゃないんでコンドームくらいはありますから」
何を言い出すのだこのひとは。この世に神は存在しなかったが、女神は存在した。
「ギガホとかじゃなければWi-Fiもお貸ししますし」
そう言って、女神様はPCにイヤフォンを繋いで、どう見てもエロゲとしか思えないゲームを始めた。僕のことには特に構ってこなかった。
***
「充電満タンになってますよ」という声で起こされた僕は、冷めきったナンとカレーを半ば無理矢理押し付けられ、「また来ます」と言い残して、家の鍵を探しに出た。
女神様に声をかけてもらった場所に戻り、今日の行動をもう一度考えようと思った。
……僕が失くしたと思っていた鍵は、ひとまず腹ごしらえだと思って食べようとしたカレーの袋の中に、「上着のフードの中にありましたよ」という走り書きと、discordタグと書かれた、よくわからない文字列が並んでいる紙とともに存在した。
どうやら、女神どころか神も仏も存在しそうな街だな――引っ越してきたばかりで不安だった僕は、二度と訪れることのできない聖地を避けて生活しようと思った。
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