魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

文字の大きさ
30 / 43

30話 異世界人

しおりを挟む
 それからまた数日、平穏を取り戻した私はザールさんに手伝って貰いながら救護室の前に梅干しを干していた。
 救護棟の前に並べられた真っ赤な梅干し達。こうして水分を飛ばしてやるとより日持ちがする。

「やあ真白」
「殿下」
「よかった元気そうだな。ブライアンから例のマーガレットの事を聞いたよ」
「あ……すみません……」
「いやいや謝るのはこちらのほうだ。嫌な思いをさせてすまない。しかし、あのマーガレットを手なずけるなんて……すごいな」
「いやいや……」

 そこはほら女の敵は女……違う違う。乙女心を利用しただけですから。そんなフレデリック殿下の目がふと地面に向かう。

「……これは何をしているんだ?」

 そこに現れたのはフレデリック殿下だった。

「あ、ええと……殿下にはジャムを使ったシャーベットをおだししましたよね。あのリームの実の漬け物です」
「へぇ……赤い……」
「色づけにハーブを入れてあるんです。そうだ、殿下もザールさんも味見してみますか?」
「もう食べられるのか?」
「はい、もっと長く漬けた方がまろやかになるんですがこの状態でも食べられますよ」

 私は一つを味見用にとって小さくむしろうとした時だった。殿下とザールさんは足元の梅干しをぽいっと一個丸ごと口にほうりこんでしまった。

「あっ!」
「うっ……!」
「ぐべっ」

 殿下とザールさんは未知の酸味と強い塩気に思わず梅干しを吐き出した。

「あちゃー……」
「ま、真白これは一体……」
「すみません……ただでさえなじみがないのに刺激が強すぎましたよね……」
「真白さん……口からよだれがとまりません……」

 私はあわてて水を持ってきて二人に飲ませた。

「ものにもよるのですが、今回みたいに漬けた梅干しはちょっとずつごはんのおかずにしたり他の料理に使ったりするんです」
「そうだったのか……すまない吐き出したりして」
「いやぁ……私も当然の反応だと思います……二人とも大丈夫ですか」
「あ、ああ……」
「世界は広いと思いました」

 ごめんなさい。悪いことしたな。庭園の親方にこの梅干しを分けるときにはよくよく注意してから渡さないとね。

「ところで殿下は今日は……?」
「ああそうだ。……ほら真白が聞きたがっていた事があるだろう。調べさせたのでそれを伝えに……」

 そう言ってフレデリック殿下はザールさんをちらりと見た。

「ザール、お前も来い」

 そう言って救護棟の中に入っていった。

「フレデリック殿下、真白さんが知りたい事とは……?」

 ザールさんは不思議そうな顔をして立っている。

「まあ、二人とも座れ」

 着席を促された私達はとりあえず椅子に座った。

「ザールさん、私はこの本を作った人の事を知りたいと殿下にお願いしていたんです」

 私は机の上にあった辞典を手元に引き寄せた。

「お前は聞いてもいいと思ってな。どうだ、真白」
「ええ、ザールさんは私が別の世界から来たことも知ってますし」
「では……」

 フレデリック殿下は小さく咳払いをした。

「この本は三百年ほど前に作られたそうだ。だが……とてもそうは見えないな」
「ええ……確かに古びてはいますけど……」

 手書きの植物の図画や効能書きはさほど薄れていない。虫食いもない。

「内容に関しては我々にはよく分からない。それはこことは違う世界の植物についてかかれているから……で、良いな。ザール」
「はい。私が見ても……ほとんどのものがはじめて聞くものでした」
「真白が言うには、この本は真白と同じ世界からきたものが作り出したらしい。つまり、三百年前にこちらに違う世界の人間が来た、という事だ。真白と同じ様に」
「真白さんと……同じ様に……」

 ザールさんが私を見た。

「その人は多分この国か……少なくとも近くで生きていたと私は思ったんです。私は……その人の事が知りたい」
「結論から言おう。真白が言っている人物は……イツキ・オハラ。彼ではないかと思われる」
「それは……オハラ家の……?」
「ああ。この国の回復術師の組織を作った張本人だ」

 オハラ……って小原って事かな。イツキは樹? 小原樹……日本人っぽい。そしてザールさんはその家名を知っているようだった。

「組織を作ったって……?」
「当時は国の南下政策の真っ最中だった。そして彼自身、優れた回復術師でそれぞれの家が抱えていた回復術師を組織化して今日のような研究棟、診療棟に分けたのは彼の発案だったと言われている」
「へぇ……」
「実務と研究に別れた回復術はその後大きく発展した事したと」
「すごい……」

 それだけのものをこの世界に彼は残したんだ。私が今の所残せそうなのはローズマリーと……梅干し?

「それで彼は……どうなったのですか?」

 私が聞きたかったのはそこだ。彼は事を成し遂げてどうしたのか。

「その功績を称えられ、爵位を授けられ王家の第三王女を娶ってこの国で……」
「そう、ですか」

 戻らなかったのだ、彼は。その方法がなかったのか、それとも家族の為なのか……それは分からないけれど。

「行ってみるか。オハラ家に」
「あ、はい!」

 もう三百年近く経っていると言ってもなにかヒントがあるかもしれない。思わず立ち上がった私をじっとザールさんが見つめてくる。

「どうしたんです、ザールさん?」
「あの……真白さん。オハラ家は……マーガレット嬢の生家です……」
「あらら……」

 まじですか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...