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33話 メッセージ
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「えっと……?」
混乱しながらも箱の中を覗くと、封筒がひとつ入っていた。それはマーガレットからの手紙だった。
『真白様 親愛なる貴女に我が家の家宝を送ります。真白様は大変な食道楽と聞きました。これは当家に製法の伝わる門外不出の調味料です……』
樹さんだ。いったい何歳頃の話かわからないけれど、きっと樹さんが醤油と味噌を作るのに成功して今日まで伝えられてきたんだ。
「わぁ……うれしい……これで色んな日本食が作れる……」
私はうきうきしながら手紙の続きに目を通した。
『きっとこれを持ち出した事がわかったら私は大目玉をくらうでしょう。でもいいのです。大事な真白様……いいえ、真白お姉様の為だったら私はそんなものちっとも怖くないです。ではまた』
……お姉様って何? あとスルーしたけど食道楽ってだれから聞いたの? マーガレットは怖くないだろうけど私が怖いんだけども。私はサイドテーブルの上のしょうゆと味噌をみつめた。
「でも……これは欲しい……」
返すのもまた一苦労しそうなので、いったんマーガレットの事は頭から追いだして私はありがたくそれを貰う事にした。
「それからこれ……ごめんなさい。見させていただきますね」
私は樹さんの日記を手に取った。日本語で書かれた日記……彼は誰かに読まれる日を想像していただろうか。
「なになに……うん……」
私はぽつりぽつりと書かれた日記に目を落とした。
「……」
そしてその日記を読み終えた時、私は涙が止まらなかった。枕を抱え込んで、溢れる涙をこらえているとリベリオが現れた。
『どうした、真白……』
「わかったの」
『何が……?』
「なにもかも。本を作った樹さんがどう何を思ってどうやって生きたか……そして帰る方法も」
『……なんだって』
私は日記の革の表紙を撫でた。それはおそらく彼が老年に差し掛かってから書かれたもので、日記というよりは回顧録のようなものだった。
『聞きたい……聞かせてくれ、真白』
「うん」
リベリオは真剣な顔で私に訴えかけた。私は頷いて日記の内容を口にした。
「樹さんは、初めはここからずっと東の国に転移したみたい。そこで彼は武器を売り、宝石を召還して小国の王になりその国でできる全ての贅沢を味わったそうよ。だけど、武器を売った国は殺し合いを始めて、宝石を狙った周囲は醜く争った」
『それでこの国まで流れてきたのか』
「そうみたい。それでこの国では人を癒やす事……回復術師として生きる事にしたって。そこでも彼は組織をまとめて……優秀な人だったのね」
『……僕の前ではそうは見えなかったがな』
「ふふ……リベリオ。あなたのことも書いてあったわ。ほらここ……『ある日小さな相棒ができた』、ね?」
生まれたてのリベリオも今と同じ姿だったのだろうか。そこまでは書いていなかった。
「リベリオ、あの本は最初は取り出す薬草をイメージしやすくするためだけの備忘録だったみたいね」
『……そうなのか』
「ある日、魔物討伐の戦場で……たまたま魔力の吹き出すところ、魔力だまりにその本を落としたところ、向こうの世界への入り口が開きやすくなって……そしてリベリオが現れた。そこら辺の動物が魔物になるように本もそうなったのだろうってここに書いてある」
『なるほどな。僕も魔物の一種って訳だ』
リベリオは特に抵抗感もなく納得したように頷いた。
「それでね……この樹さんの推測では再び魔力だまりに本を落とせば、こちらとあちらの世界、双方向に入り口が開くんじゃないかって」
『試さなかったのか』
「うん。その頃彼は恋をしたのだって……この王国の王女に。彼女の為に生きるって決めたから……二度と戦場には行かなかったそうよ」
『そうか、でもこれで帰る方法は分かったな』
「ええ……そうね……」
日記の最後には、自分に後悔はないがもしこれを読めるものが現れた時の為に、と書いてあった。この国で幸福に暮らす事を選んだ彼から、遙か後に現れる私へのメッセージ。
「どうしよう。頭がパンパンで眠れそうにないわ」
『ハーブミルクを出してやろう。落ち着いてぐっすりお休み』
リベリオはにこっと笑ってラベンダーの温かいハーブミルクを出してくれた。それを飲んでようやく張り詰めた気持ちがほどけた。
「リベリオ……私が帰ったらどうするの?」
『また眠るだろう。再び僕の加護を受ける人間が現れるまで。だから心配はいらない』
リベリオの小さな手が、私の肩を優しく叩く。その規則的なリズムに、私は眠りの海に落ちていった。
「……はー!」
翌朝、私は清々しく目を覚ました。まだ外は明け切らず、随分と早起きをしてしまったようだ。
「そもそも帰る方法が分かったところでいつどこで発生するかわからない魔力だまりを探さなきゃいけないのよね……殿下とザールさんに伝えるべきかしら」
今まで協力してくれた彼らには伝えるべきって道理は分かるけれど……。
「推測の域を出ない訳だし……少し考えよう……」
私は枕元の日記を見て一人、呟いた。
混乱しながらも箱の中を覗くと、封筒がひとつ入っていた。それはマーガレットからの手紙だった。
『真白様 親愛なる貴女に我が家の家宝を送ります。真白様は大変な食道楽と聞きました。これは当家に製法の伝わる門外不出の調味料です……』
樹さんだ。いったい何歳頃の話かわからないけれど、きっと樹さんが醤油と味噌を作るのに成功して今日まで伝えられてきたんだ。
「わぁ……うれしい……これで色んな日本食が作れる……」
私はうきうきしながら手紙の続きに目を通した。
『きっとこれを持ち出した事がわかったら私は大目玉をくらうでしょう。でもいいのです。大事な真白様……いいえ、真白お姉様の為だったら私はそんなものちっとも怖くないです。ではまた』
……お姉様って何? あとスルーしたけど食道楽ってだれから聞いたの? マーガレットは怖くないだろうけど私が怖いんだけども。私はサイドテーブルの上のしょうゆと味噌をみつめた。
「でも……これは欲しい……」
返すのもまた一苦労しそうなので、いったんマーガレットの事は頭から追いだして私はありがたくそれを貰う事にした。
「それからこれ……ごめんなさい。見させていただきますね」
私は樹さんの日記を手に取った。日本語で書かれた日記……彼は誰かに読まれる日を想像していただろうか。
「なになに……うん……」
私はぽつりぽつりと書かれた日記に目を落とした。
「……」
そしてその日記を読み終えた時、私は涙が止まらなかった。枕を抱え込んで、溢れる涙をこらえているとリベリオが現れた。
『どうした、真白……』
「わかったの」
『何が……?』
「なにもかも。本を作った樹さんがどう何を思ってどうやって生きたか……そして帰る方法も」
『……なんだって』
私は日記の革の表紙を撫でた。それはおそらく彼が老年に差し掛かってから書かれたもので、日記というよりは回顧録のようなものだった。
『聞きたい……聞かせてくれ、真白』
「うん」
リベリオは真剣な顔で私に訴えかけた。私は頷いて日記の内容を口にした。
「樹さんは、初めはここからずっと東の国に転移したみたい。そこで彼は武器を売り、宝石を召還して小国の王になりその国でできる全ての贅沢を味わったそうよ。だけど、武器を売った国は殺し合いを始めて、宝石を狙った周囲は醜く争った」
『それでこの国まで流れてきたのか』
「そうみたい。それでこの国では人を癒やす事……回復術師として生きる事にしたって。そこでも彼は組織をまとめて……優秀な人だったのね」
『……僕の前ではそうは見えなかったがな』
「ふふ……リベリオ。あなたのことも書いてあったわ。ほらここ……『ある日小さな相棒ができた』、ね?」
生まれたてのリベリオも今と同じ姿だったのだろうか。そこまでは書いていなかった。
「リベリオ、あの本は最初は取り出す薬草をイメージしやすくするためだけの備忘録だったみたいね」
『……そうなのか』
「ある日、魔物討伐の戦場で……たまたま魔力の吹き出すところ、魔力だまりにその本を落としたところ、向こうの世界への入り口が開きやすくなって……そしてリベリオが現れた。そこら辺の動物が魔物になるように本もそうなったのだろうってここに書いてある」
『なるほどな。僕も魔物の一種って訳だ』
リベリオは特に抵抗感もなく納得したように頷いた。
「それでね……この樹さんの推測では再び魔力だまりに本を落とせば、こちらとあちらの世界、双方向に入り口が開くんじゃないかって」
『試さなかったのか』
「うん。その頃彼は恋をしたのだって……この王国の王女に。彼女の為に生きるって決めたから……二度と戦場には行かなかったそうよ」
『そうか、でもこれで帰る方法は分かったな』
「ええ……そうね……」
日記の最後には、自分に後悔はないがもしこれを読めるものが現れた時の為に、と書いてあった。この国で幸福に暮らす事を選んだ彼から、遙か後に現れる私へのメッセージ。
「どうしよう。頭がパンパンで眠れそうにないわ」
『ハーブミルクを出してやろう。落ち着いてぐっすりお休み』
リベリオはにこっと笑ってラベンダーの温かいハーブミルクを出してくれた。それを飲んでようやく張り詰めた気持ちがほどけた。
「リベリオ……私が帰ったらどうするの?」
『また眠るだろう。再び僕の加護を受ける人間が現れるまで。だから心配はいらない』
リベリオの小さな手が、私の肩を優しく叩く。その規則的なリズムに、私は眠りの海に落ちていった。
「……はー!」
翌朝、私は清々しく目を覚ました。まだ外は明け切らず、随分と早起きをしてしまったようだ。
「そもそも帰る方法が分かったところでいつどこで発生するかわからない魔力だまりを探さなきゃいけないのよね……殿下とザールさんに伝えるべきかしら」
今まで協力してくれた彼らには伝えるべきって道理は分かるけれど……。
「推測の域を出ない訳だし……少し考えよう……」
私は枕元の日記を見て一人、呟いた。
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