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32話 順調とばかりはいきませんわ
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マチルダの美しく切ない恋物語は本になった当初はまったく売れなかった。そこでリリアンナは一話だけの見本誌を作り、それをめろでぃたいむに置いた。
メイドカフェめろでぃたいむは開放的で徹底的にかわいらしくを追求した内装とここでしか食べられないメニューから、日本のそれとは違い、女性客もそれなりに来る。
リリアンナはそんな女性客に向けて見本誌を配った。前世が日本人のリリアンナには分かっていたのだ。マチルダの描いた恋物語は女性にこそ受けると。
「これ、続きが気になるわ」
「それなら向かいに売ってるにゃ」
それから、男性客が多かったりずむめいとに新しい風が吹いた。見本誌を読んだ女性のお客がマチルダの新刊を求めて店に来るようになったのだ。
リリアンナは時間はかかったが新刊が売れ出した、とマチルダに報告すると、彼女はほっと胸を撫で降ろした。
「良かった……」
「これで女性ファンもゲットですわね。あなたにしか作れない物語ですわ」
「喜んで貰えるかしら」
「ええ。三店舗目は女性専用のお店にしようと決心がつきましたわ。ですからじゃんじゃん描いてくださいね!」
「ええ!」
そんな新風の中、二店舗目のりずむめいとがオープンした。場所は一店舗目から少し離れた通りの店だった。
「いつかここまで……萌え産業の店で埋め尽くしてみせますわ!」
リリアンナは拳を握って宣言した。そんなリリアンナにウルスラが聞いた。
「でも大丈夫? 同じ様な店が通りにあって。もっと遠くにあっても良かったんじゃない?」
「対策はしてますわ。こちらは専門書や絵図や辞典なども揃えてますの。あまりに遠くにあっては買い回り客がきませんわ」
「なるほど」
二店舗目のりずむめいとが出来た事で少し客の流れが変わった。専門書を求める客もワーズの街を訪れるようになったのだ。豊富な絵の資料もあるので王都を中心に活動していた絵師もワーズを訪れる。それらの何人かは漫画も買いつけた。
「ここでなら見つかるかもと思ってね」
そう言ってお堅い学者までやってくる。仕入れは店長から昇進したラディによるものだ。その人達を主な客として見込んでリリアンナが用意したものがある。それは……。
「これがカレーショップふぉるて」
そう、重い本を荷物に持ち手早く食事を済ませたいそんな彼らに向けて、手早く提供出来て食べるのも早いカレーを売り出したのだ。
「勇者ハヤトの好物だとか」
「スパイスがたっぷりですな。コクもあっておいしい」
たちまちカレーショップふぉるても評判の店となった。
「怖いくらい順調ね」
「ええそうね」
ウハウハのウルスラに対して、リリアンナは少し表情を曇らせている。そんなリリアンナをハルトは心配した。
「どうした、嬉しくないの?」
「嬉しいですわ、でも順調な時ほど気を引き締めなければ」
リリアンナは妙な胸騒ぎを覚えていた。そして……それは現実のものになったのだ。
「……え? めろでぃたいむを辞める?」
リリアンナは耳を疑った。そう言いだしたのはイルマである。
「奴隷の身分で申し訳ないのですが……。どうしてもこの仕事を続ける訳には行かなくなりました」
「そんな事は些細な事よ。一体どうしたの? 何か嫌な事があったんですの?」
イルマはめろでぃたいむのお姉さん的な存在である。お客に優しく接客をこなすだけで無く、他のメイド達からも頼りにされている。
「いえ、楽しく仕事をさせていただいてます」
「ならどうして」
イルマはなかなか理由を言わない。しばらくの沈黙の後に、イルマは口を開いた。
「結婚したい人が出来て……」
「まぁ」
「何も言わず行方をくらまそうとも思ったのですが、奥様とご主人様には身を助けていただいた恩義があります。どうしてもそれは出来なくて……」
イルマはとうとう泣き出した。
「イルマ。おめでたい事なんだしそんな……」
「でも……お客さんなんです」
「え?」
「めろでぃたいむのご主人様が、私の結婚したい人なんです」
「それは……」
イルマがその気ならば持参金のひとつでも持たせて嫁がせてやろうとまで考えていたリリアンナだったが、それを聞いて考え込んでしまった。
「その方……本当に信用できる方なの?」
「はい!」
リリアンナのその問いに、イルマははっきりと答えた。
「以前からお花や贈り物をくださる方だったんですけど……とてもいい方で、つい個人的な話しもしてしまって。私が奴隷の身分だと知っても驚くどころか身の代を払う、とまで言ってくれたんです」
「そうなの……」
リリアンナは途方に暮れた。魅力的な女性が接客してくれる店である。そんな事もあるのも仕方が無いのかもしれない。しかし手放しで祝福する訳にはいかない。いままでそんな噂も聞かなかったという事は相手もそれなりに良識があるのだろう。
「奥様、いままでありがとうございました」
イルマはこのままでは相手と駆け落ちしかねない勢いである。
「ちょっとまって頂戴。イルマ、あなたの結婚は許します」
「本当ですか!?」
リリアンナは頷いた。
「でも、いままで来ていただいたご主人様お嬢様方とメイド達にキチンとお別れをしましょう」
「お別れを……」
「そう。まあ結婚の事は伏せて貰いますけどね」
こうして、めろでぃたいむ初の卒業イベントが決まったのである。
メイドカフェめろでぃたいむは開放的で徹底的にかわいらしくを追求した内装とここでしか食べられないメニューから、日本のそれとは違い、女性客もそれなりに来る。
リリアンナはそんな女性客に向けて見本誌を配った。前世が日本人のリリアンナには分かっていたのだ。マチルダの描いた恋物語は女性にこそ受けると。
「これ、続きが気になるわ」
「それなら向かいに売ってるにゃ」
それから、男性客が多かったりずむめいとに新しい風が吹いた。見本誌を読んだ女性のお客がマチルダの新刊を求めて店に来るようになったのだ。
リリアンナは時間はかかったが新刊が売れ出した、とマチルダに報告すると、彼女はほっと胸を撫で降ろした。
「良かった……」
「これで女性ファンもゲットですわね。あなたにしか作れない物語ですわ」
「喜んで貰えるかしら」
「ええ。三店舗目は女性専用のお店にしようと決心がつきましたわ。ですからじゃんじゃん描いてくださいね!」
「ええ!」
そんな新風の中、二店舗目のりずむめいとがオープンした。場所は一店舗目から少し離れた通りの店だった。
「いつかここまで……萌え産業の店で埋め尽くしてみせますわ!」
リリアンナは拳を握って宣言した。そんなリリアンナにウルスラが聞いた。
「でも大丈夫? 同じ様な店が通りにあって。もっと遠くにあっても良かったんじゃない?」
「対策はしてますわ。こちらは専門書や絵図や辞典なども揃えてますの。あまりに遠くにあっては買い回り客がきませんわ」
「なるほど」
二店舗目のりずむめいとが出来た事で少し客の流れが変わった。専門書を求める客もワーズの街を訪れるようになったのだ。豊富な絵の資料もあるので王都を中心に活動していた絵師もワーズを訪れる。それらの何人かは漫画も買いつけた。
「ここでなら見つかるかもと思ってね」
そう言ってお堅い学者までやってくる。仕入れは店長から昇進したラディによるものだ。その人達を主な客として見込んでリリアンナが用意したものがある。それは……。
「これがカレーショップふぉるて」
そう、重い本を荷物に持ち手早く食事を済ませたいそんな彼らに向けて、手早く提供出来て食べるのも早いカレーを売り出したのだ。
「勇者ハヤトの好物だとか」
「スパイスがたっぷりですな。コクもあっておいしい」
たちまちカレーショップふぉるても評判の店となった。
「怖いくらい順調ね」
「ええそうね」
ウハウハのウルスラに対して、リリアンナは少し表情を曇らせている。そんなリリアンナをハルトは心配した。
「どうした、嬉しくないの?」
「嬉しいですわ、でも順調な時ほど気を引き締めなければ」
リリアンナは妙な胸騒ぎを覚えていた。そして……それは現実のものになったのだ。
「……え? めろでぃたいむを辞める?」
リリアンナは耳を疑った。そう言いだしたのはイルマである。
「奴隷の身分で申し訳ないのですが……。どうしてもこの仕事を続ける訳には行かなくなりました」
「そんな事は些細な事よ。一体どうしたの? 何か嫌な事があったんですの?」
イルマはめろでぃたいむのお姉さん的な存在である。お客に優しく接客をこなすだけで無く、他のメイド達からも頼りにされている。
「いえ、楽しく仕事をさせていただいてます」
「ならどうして」
イルマはなかなか理由を言わない。しばらくの沈黙の後に、イルマは口を開いた。
「結婚したい人が出来て……」
「まぁ」
「何も言わず行方をくらまそうとも思ったのですが、奥様とご主人様には身を助けていただいた恩義があります。どうしてもそれは出来なくて……」
イルマはとうとう泣き出した。
「イルマ。おめでたい事なんだしそんな……」
「でも……お客さんなんです」
「え?」
「めろでぃたいむのご主人様が、私の結婚したい人なんです」
「それは……」
イルマがその気ならば持参金のひとつでも持たせて嫁がせてやろうとまで考えていたリリアンナだったが、それを聞いて考え込んでしまった。
「その方……本当に信用できる方なの?」
「はい!」
リリアンナのその問いに、イルマははっきりと答えた。
「以前からお花や贈り物をくださる方だったんですけど……とてもいい方で、つい個人的な話しもしてしまって。私が奴隷の身分だと知っても驚くどころか身の代を払う、とまで言ってくれたんです」
「そうなの……」
リリアンナは途方に暮れた。魅力的な女性が接客してくれる店である。そんな事もあるのも仕方が無いのかもしれない。しかし手放しで祝福する訳にはいかない。いままでそんな噂も聞かなかったという事は相手もそれなりに良識があるのだろう。
「奥様、いままでありがとうございました」
イルマはこのままでは相手と駆け落ちしかねない勢いである。
「ちょっとまって頂戴。イルマ、あなたの結婚は許します」
「本当ですか!?」
リリアンナは頷いた。
「でも、いままで来ていただいたご主人様お嬢様方とメイド達にキチンとお別れをしましょう」
「お別れを……」
「そう。まあ結婚の事は伏せて貰いますけどね」
こうして、めろでぃたいむ初の卒業イベントが決まったのである。
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