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36話 アシスタントの誕生ですわ
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モンブロアの中心地、ワーズの街に現れた少女モチカ。彼女は本を買い込むと、りずむめいとの前に陣取った。
「ここにいればいつか……」
モチカは何日も、りずむめいとに通った。そのうち服は垢じみて、顔も黒ずんでいった。
「あの……大丈夫ですか?」
その姿を見かねた店員から連絡をうけたラディがモチカに声をかけた。
「えっ、その。邪魔ですか」
「ううーん、それもあるけど。女の子がこんな所にずっといたら危ないよ」
「お兄さんはここの人ですか?」
「ああ、そうだよ」
それを聞いたモチカの眼が輝く。モチカはマチルダの本をずいっとラディの前に突き出す。
「わっ、私! この作者さんに弟子入りしたいんです!」
「で、弟子!?」
「はい! 身の回りのお世話でもなんでもします」
「うーん」
ラディは困ってしまった。そう言われても自分にはそんな権限は無い。だからといって女の子を路上に放置する訳にもいかなかった。
「とにかく今日はこれで宿に泊まりなさい。僕が相談してみるから」
「は……はい!」
ラディは身銭をきってモチカを宿屋に泊まらせると、その足でリリアンナの元に走った。そしてかくかくしかじかと事情を説明した。
「まぁ……。マチルダに弟子……アシスタントって事ね」
「そうなんです。僕じゃなんとも……」
「いいんじゃないかしら。まずはマチルダと面接してもらって彼女がいいといったらですけど」
「分かりました!」
ラディはワーズの街に戻ると今度はマチルダの元を訪ねた。
「はーい……あっ、ラディさん!」
目の下に濃くクマをつけたマチルダは、ラディの姿を認めると慌てて髪の乱れを直した。
「どうしたんですか、急に」
「ちょっとマチルダさんにご相談があって……。あの助手とか必要じゃないですかね?」
「助手?」
「ええ、マチルダさんに弟子入りしたい女の子が来てました」
「女の子……」
マチルダは考えた。男だと気も使うが同性ならそんな事もない。新作も評判で手伝って貰えるなら正直ありがたかった。それに絵描きを目指そうという女性もまれである。
「会ってみてですけど……私はいいですよ」
「本当ですか!」
ラディから連絡を受けて、モチカがマチルダの元を訪れたのは翌日だった。久し振りに綺麗に身なりを整え、はやる気持ちを抑えてモチカはその扉を叩いた。
「はい」
「あの……マチルダさんですか」
「そうですよ。あなたがモチカさん……?」
「そうです」
モチカは本物のマチルダを前にぎくしゃくと頷いた。
「絵を描いた経験は……?」
「あります、我流ですが」
モチカはスケッチブックを差し出した。それをマチルダはつぶさに眺めた。人の描き方に少し課題はあるが、風景などはよく描けている。
「分かりました。最初はお手伝いからですけど……いいかしら」
「……! はい!」
モチカはその日から、マチルダの元で共に寝起きし、アシスタントとして働く事になった。そんなマチルダの元にリリアンナとハルトが訪れた。
「マチルダ、調子はどうかしら?」
「あら、ハルト様にリリアンナ様」
「ケーキを持ってきましてよ。陣中見舞い」
リリアンナはケーキの入った籠をマチルダに渡した。
「ありがとうございます。それではお茶にしましょう。モチカ、準備をお願い」
「はい……あの……」
モチカはおずおずとハルトとリリアンナを見た。
「ああ、こちらは領主のハルト様と奥様のリリアンナ様よ」
「りょ、領主様!?」
「ほー、君がマチルダのとこのアシスタントか」
「どう? お仕事は?」
モチカが驚愕した。領主様が訪ねにくるなんて。そして二人とマチルダは顔なじみのようだった。
「よよよよ、よくして貰ってます……」
モチカはなんとかそう答えると、お茶を淹れにキッチンに行った。
「モチカはよくやってくれてます。細々とした日常の家事も手伝ってくれるし」
「良かったわ、ますます筆がはかどるわね」
「ええ、でも私なんかの弟子になってモチカに良いことはあるんでしょうか」
「それはもう、優れた作家から学ぶ事は多いでしょうよ」
リリアンナはそう言って、椅子に腰掛けた。するとどさどさとその変にあった紙が崩れた。
「あらごめんなさい」
「すみません、散らかっていて……」
リリアンナは崩れた紙を拾い上げた。そしてそれに釘付けになった。
「リリアンナ様、片付けは私が……」
「……マチルダ。これはあなたが描いたの?」
マチルダはリリアンナの手にある紙を覗き混んだ。途端、マチルダは頬を赤くしてブンブンとかぶりを振った。
「ち、違います!」
「って事は……」
リリアンナの視線はキッチンの方に向いた。ちょうどそこからお茶を持ったモチカが現れた。
「お待たせしました」
「あの」
「はい、私ですか?」
「これ描いたのあなた?」
リリアンナは例の紙をモチカに見せた。それを見たモチカの顔色がサッと青くなる。
「……そ、そうです。あの、その落書きなので……」
「こういうのが好きなの?」
「あああ、あの……」
まさかの領主夫人にそう聞かれてモチカはどうしたらいいか分からない。それだけ慌てるのには訳があった。……そこには男と男がくんずほぐれつしている絵が描かれていたからだ。
「……BL。これはBLですわ」
リリアンナは不思議そうにモチカを見つめた。
「ここにいればいつか……」
モチカは何日も、りずむめいとに通った。そのうち服は垢じみて、顔も黒ずんでいった。
「あの……大丈夫ですか?」
その姿を見かねた店員から連絡をうけたラディがモチカに声をかけた。
「えっ、その。邪魔ですか」
「ううーん、それもあるけど。女の子がこんな所にずっといたら危ないよ」
「お兄さんはここの人ですか?」
「ああ、そうだよ」
それを聞いたモチカの眼が輝く。モチカはマチルダの本をずいっとラディの前に突き出す。
「わっ、私! この作者さんに弟子入りしたいんです!」
「で、弟子!?」
「はい! 身の回りのお世話でもなんでもします」
「うーん」
ラディは困ってしまった。そう言われても自分にはそんな権限は無い。だからといって女の子を路上に放置する訳にもいかなかった。
「とにかく今日はこれで宿に泊まりなさい。僕が相談してみるから」
「は……はい!」
ラディは身銭をきってモチカを宿屋に泊まらせると、その足でリリアンナの元に走った。そしてかくかくしかじかと事情を説明した。
「まぁ……。マチルダに弟子……アシスタントって事ね」
「そうなんです。僕じゃなんとも……」
「いいんじゃないかしら。まずはマチルダと面接してもらって彼女がいいといったらですけど」
「分かりました!」
ラディはワーズの街に戻ると今度はマチルダの元を訪ねた。
「はーい……あっ、ラディさん!」
目の下に濃くクマをつけたマチルダは、ラディの姿を認めると慌てて髪の乱れを直した。
「どうしたんですか、急に」
「ちょっとマチルダさんにご相談があって……。あの助手とか必要じゃないですかね?」
「助手?」
「ええ、マチルダさんに弟子入りしたい女の子が来てました」
「女の子……」
マチルダは考えた。男だと気も使うが同性ならそんな事もない。新作も評判で手伝って貰えるなら正直ありがたかった。それに絵描きを目指そうという女性もまれである。
「会ってみてですけど……私はいいですよ」
「本当ですか!」
ラディから連絡を受けて、モチカがマチルダの元を訪れたのは翌日だった。久し振りに綺麗に身なりを整え、はやる気持ちを抑えてモチカはその扉を叩いた。
「はい」
「あの……マチルダさんですか」
「そうですよ。あなたがモチカさん……?」
「そうです」
モチカは本物のマチルダを前にぎくしゃくと頷いた。
「絵を描いた経験は……?」
「あります、我流ですが」
モチカはスケッチブックを差し出した。それをマチルダはつぶさに眺めた。人の描き方に少し課題はあるが、風景などはよく描けている。
「分かりました。最初はお手伝いからですけど……いいかしら」
「……! はい!」
モチカはその日から、マチルダの元で共に寝起きし、アシスタントとして働く事になった。そんなマチルダの元にリリアンナとハルトが訪れた。
「マチルダ、調子はどうかしら?」
「あら、ハルト様にリリアンナ様」
「ケーキを持ってきましてよ。陣中見舞い」
リリアンナはケーキの入った籠をマチルダに渡した。
「ありがとうございます。それではお茶にしましょう。モチカ、準備をお願い」
「はい……あの……」
モチカはおずおずとハルトとリリアンナを見た。
「ああ、こちらは領主のハルト様と奥様のリリアンナ様よ」
「りょ、領主様!?」
「ほー、君がマチルダのとこのアシスタントか」
「どう? お仕事は?」
モチカが驚愕した。領主様が訪ねにくるなんて。そして二人とマチルダは顔なじみのようだった。
「よよよよ、よくして貰ってます……」
モチカはなんとかそう答えると、お茶を淹れにキッチンに行った。
「モチカはよくやってくれてます。細々とした日常の家事も手伝ってくれるし」
「良かったわ、ますます筆がはかどるわね」
「ええ、でも私なんかの弟子になってモチカに良いことはあるんでしょうか」
「それはもう、優れた作家から学ぶ事は多いでしょうよ」
リリアンナはそう言って、椅子に腰掛けた。するとどさどさとその変にあった紙が崩れた。
「あらごめんなさい」
「すみません、散らかっていて……」
リリアンナは崩れた紙を拾い上げた。そしてそれに釘付けになった。
「リリアンナ様、片付けは私が……」
「……マチルダ。これはあなたが描いたの?」
マチルダはリリアンナの手にある紙を覗き混んだ。途端、マチルダは頬を赤くしてブンブンとかぶりを振った。
「ち、違います!」
「って事は……」
リリアンナの視線はキッチンの方に向いた。ちょうどそこからお茶を持ったモチカが現れた。
「お待たせしました」
「あの」
「はい、私ですか?」
「これ描いたのあなた?」
リリアンナは例の紙をモチカに見せた。それを見たモチカの顔色がサッと青くなる。
「……そ、そうです。あの、その落書きなので……」
「こういうのが好きなの?」
「あああ、あの……」
まさかの領主夫人にそう聞かれてモチカはどうしたらいいか分からない。それだけ慌てるのには訳があった。……そこには男と男がくんずほぐれつしている絵が描かれていたからだ。
「……BL。これはBLですわ」
リリアンナは不思議そうにモチカを見つめた。
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