最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。

高井うしお

文字の大きさ
1 / 90

プロローグ

しおりを挟む
その者に名前を付けるものは居なかった――。暗殺、諜報、破壊活動など、あらゆる汚れ仕事を引き受けるその男の通称は『名無し』。暗殺組織の中でも随一の仕事の早さ、正確さを持つその男は今、魔王の黒い皮膚を長剣で刺し貫いていた。
 その瞬間、名無しの心に冷たい炎のような感覚が走る。その熱さだけが名無しに生きている実感を与えてくれる。

「お……の……れ……どこから」
「お前の死角から。基本だ」

 その剣は魔王の心臓を貫き、息の根を止めた。名無しが剣を引き抜くと血が噴水のように噴き出したが、名無しの全身黒い装いを染める事は出来なかった。

「さあ、これを」
「ひっ……」

 名無しは魔王の玉座の前で腰を抜かしている第二王子のアーロイスに血の滴る剣を手渡した。これで第二王子を国王に据える手はずは整う。人々を襲う邪悪な魔物を従える魔王を倒した、となれば第一王子の廃嫡も可能――、そう側近達は考えて居た。

「血、血が……」
「はい、この血が討伐の証です」

 腰を抜かしているアーロイスに無理矢理剣を握らせると、名無しは踵を返した。

「これで任務は完了です」
「ご苦労であった」

 名無しは側近にそう報告するとその場を後にする。強い血の匂いに誘われて、魔物が何匹が現れたが、それを一撃で屠る。
 夜の闇の中、名無しの静かな足音が森の中を駆けていった。


***


 数日後、名無しは王都にたどり着いた。すぐに王都の下町の裏通りにある拠点に向かう。今は月の初めなので二番目の拠点に仲間は居るはずである。

「……」

 そこで名無しはふと足を止めた。なにかがおかしい、と名無しの本能がそう告げる。人の気配は無い。そう、人の気配が無いのだ。名無しは慎重に拠点の扉を開けた。

「これは……」

 そこは一面の血の海だった。ここにいる者は名無しほどではないにしろ、手練れの者達である。それがこうも……。

「お、ま……え……名無しか……」

 誰も生きてる者などいない、と思ったが名無しに語りかける者がいた。名無しはその男をじっと見つめる。組織の下働きをしていた男だった。

「これは……なにがあった」
「クソ王子の仕業だ……、あいつら目的を果たしたら俺達を消しに来やがった……」
「仕事が早いな」
「仮にも王族だ。通信魔法でも使ったんだろ」
「そうか……」

 名無しは男の腹部を見た。深くえぐれ、話しているのが不思議な位である。

「名無し、復讐なんて考えるんじゃないぞ」
「復讐……」
「首領の遺言だ。お前が帰って……来たら……」
「もう喋るな」

 名無しは男の側に跪いた。男は弱々しく首を振ると言葉を続けた。

「なんか喋ってないと……ああ……寒い……。畜生、都で一旗揚げてやろうと思ったらこんな裏通りでおっちぬ羽目になるのか……。ああ、田舎でのんびり暮らしていればよかった」
「田舎で……」
「そう、俺の故郷はハーフェンってなんもない辺境の村なんだけどよ、畑耕していればあとは……ああ……寒い……帰りたい……頼む、名無し。俺をあの村の土に葬ってくれ……」

 そう言って男はこと切れた。

「……組織は、もうないのか」

 とりあえず名無しには一刻も早くやることがある。ここを離れることである。そして――その先の指示が来る事はない。

「田舎でのんびり、か……」

 死んだ名も知らぬ男の最後の言葉が名無しの中に妙に残っていた。もう、名無しを縛るものはない。任務も、組織も。

「土に葬る……」

 名無しはしばし考えて男の指輪を填めたを切り落とし、懐にしまった。

「ハーフェン……行って見るか」

 王都の裏通りからも見える王城。それを見上げながら、そう名無しは呟くと辺境の村に向かって駆けだした。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...