最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。

高井うしお

文字の大きさ
19 / 90
第一章

18話 影の男

しおりを挟む
 翌日、名無しとクロエとエミリアは町へと向かった。

「それじゃあ、毛皮を売ってくる」
「ええ、クロエちゃんは見てますから」

 そう言って名無しは皮問屋に向かった。

「これを売りたい」
「ほうほう、近頃若い娘にウサギのケープが流行っていてね、助かるよ」

 思いの外高値で買い取って貰えた名無しは、足取りも軽くクロエとエミリアの元へと向かった。

「尼僧様、この子が丈夫に育つよう祝福をくださいまし」
「ええ、神のお恵みのありますように」

 通りではエミリアが町の人々に祝福を与えている真っ最中だった。跪いた母親の手に抱かれた赤ん坊の額に触れながら、エミリアは祝福の言葉を紡ぐ。
 名無しはその姿をどこか眩しく感じながら、建物の影から眺めていた。

「……信じられん。名無しか」

 その声に名無しは振り向くよりも早く小剣に手をかけた。

「おっと、俺だ。バードだ」
「お前……」

 慌てた様子で名乗った男。その顔に名無しは見覚えがあった。そう、その男は同じ組織で暗殺者をしていたバード、という男だ。本当の名前かどうかは名無しも知らない。ただ、組織では上位の実力者であった事は記憶している。

「生きていたとはな、名無し」
「……そちらこそ。組織は壊滅したぞ、バード」
「ああ、知っている。俺はその場にいたからな」

 男の放つ殺伐とした雰囲気に名無しは急に現実に戻されたような錯覚を覚えた。今までの暮らしがかりそめで、今の今も組織の一員であったような。

「尼僧様! 私の恋の祝福でもいいですか」
「あはは……」
「ええ、構いませんよ。どうかあなたの恋が実りますように……」

 通りからはエミリアの祝福の声と民衆の笑い声が聞こえてくる。……遠い。あまりにあの場所は遠いと名無しは思った。

「俺は襲撃の場所にいなかった。……何があった」
「あいつら首領を表の役職につけると言って組織の人間を集めたんだ。そこを別の組織に攻め込まれた。魔術封鎖の陣まで張って……ひどいもんだった。俺一人逃げ出すのがやっとなくらいな」
「首領はなんでそんな約束を信じたんだ……」

 名無しには分からなかった。常日頃、影は影に徹しろと言い、あれだけ用心深かった首領がそんな話に乗るなんて信じられなかった。

「歳を食って耄碌した、と言いたいところだが……おそらくお前の為だよ、名無し」
「俺の……?」
「いつかは表の世界で生かしたいと、首領は時々言ってた。その為に名前もつけなかったと。……名前をつければ愛着が湧くからってな」
「なんだっ、て……」

 名無しは今までにない程混乱していた。まさか首領がそんな風に自分を思っていたなんて名無しには思いも寄らないことだった。

「じゃあ、なんで……あんな死ぬ思いを俺に……」
「最初は使い捨てるつもりだったのかもな。なぁ名無し……人の心は変わるんだよ」
「……首領は、最後に復讐するなと言ったそうだ」
「そうか。俺もそう思う。俺達影の人間はいくらでもすげ替えられる人形みたいなもんさ……俺はもうごめんだよ。まぁ、裏通りからは一生出られそうにはないが」

 バードはそう言って首をすくめた。

「お前に出会った以上、俺はこの町を出る。もう一生会うことはないだろう」
「……」

 立ち尽くす名無しを置いて、バードは足音も立てずにその場を去った。それを見送ることもなく名無しは俯いていた。

「……殺す……」

 名無しは力なく呟いた。時間を巻き戻して、あの時。魔王ではなく第二王子アーロイスを刺し殺し、全速力で拠点に行って襲い来る別組織の刺客ののど笛を掻き切り……そして首領に聞きたい。本当の事を。

「俺の為って……なんだよ……クソジジイ……」

 名無しの中でいままで感じたことのない感情の炎が荒れ狂っていた。行き場のない感情をどうしたらいいのか。名無しは小剣の柄に手をやったまま、ぐるぐると考え続けていた。

「落ち着け……落ち着かなければ……」

 冷静さを欠く。それは暗殺者にとって致命傷である。体に叩き込まれた感覚がギリギリ名無しを支えていた。

「あっ、パパ! そろそろ帰るよ!」

 その時クロエがこちらに気づいて近づいて来た。脂汗をかいている名無しを見てクロエは驚いた顔をした。

「どうしたの、お腹痛いの?」
「いや……」
「どうしましたか」

 クロエに続いてエミリアも名無しの元へやってきた。

「エミリアさん。パパ具合が悪いみたい」
「あら……」

 名無しは心配そうに覗き混むエミリアの青い瞳を避けるように目を背けた。

「大丈夫、なんでもない。さあ帰ろう」
「……そうですか」

 名無しはそれから無言のまま荷馬車を操り、三人は村に帰った。

「じゃあ、ありがとうごさいました」

 教会の前まで送ってもらったエミリアは名無しに頭を下げた。

「……ああ」
「アル、大丈夫ですか」

 荷馬車の御者台に登っていた名無しはエミリアの声に振り返った。

「……ああ」

 名無しはただそれだけ答えてまるで逃げるようにエミリアの前から去った。エミリアの真っ直ぐな瞳に何か見透かされそうな気がして……。

「パパ……」

 終始黙っている名無しにクロエも不安そうな声を出した。

「別に病気でもなんでもない。爺さんが待ってるぞ」

 名無しはなるべく平静を装ってそう答えた。しかしその心中は……もやもやと黒い霧がかかったようだった。

━━━━━━━━━━━━━━━
\ホットランキングに載りました/
感想もありがとうございます!おひとり手が滑って却下してしまいました。誤字指摘感謝しております。修正済です。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「追放」「ざまぁ」「実は最強」「生産チート」「スローライフ」「可愛いヒロイン」などなど、どこかで見たことがあるような設定を山盛りにして、ゆきむら的に書き殴っていく異世界ファンタジー。 ■あらすじ 勇者パーティーで雑用兼ポーション生成係を務めていた錬金術師・アルト。 彼は勇者から「お前のスキルはもう限界だ。足手まといだ」と無一文で追放されてしまう。 失意のまま辺境の寂れた村に流れ着いたアルトだったが、 そこで自身のスキル【アイテム・クリエーション】が、 実はただのアイテム作成ではなく、 物質の構造を自在に組み替える神の御業【物質創造】であることに気づく。 それ以降、彼はその力で不毛の土地を肥沃な農地に変え、 枯れた川に清流を呼び戻し、 村人たちのために快適な家や温泉まで作り出していく。 さらに呪いに苦しむエルフの美少女を救い、 お人好しな商人、訳ありな獣人、腕利きのドワーフなどを取り入れ、 アルトは辺境を活気あふれる理想郷にしようと奮闘する。 一方、アルトを追放した勇者パーティーは、なぜかその活躍に陰りが見えてきて……。  ―・―・―・―・―・―・―・― タイトルを全部書くなら、 『追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます ~今さら戻ってこいと泣きつかれても、もう遅い。周りには僕を信じてくれる仲間がいるので~』という感じ。ありそう。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

処理中です...