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第二章
46話 街を散策
「いい加減にしないか」
若干苛立ちを隠せない声色を出したのはライアンだった。エミリアは一言も発さず、食堂の片隅で朝食の席はなんとも言えない空気に包まれていた。
「……この街が最後の街なのだ。私はこんな辛気くさいのはごめんだな」
「ご、ごめんなさい」
ようやくエミリアは絞り出すような声を出した。そう、この街が最後なのだ。四人揃っての旅もライアンとエミリアが襲撃の危険こそあれ、街という俗世にいられるのも。
「……」
エミリアはちらりと名無しを見たが、名無しは素知らぬ顔で朝食を食べているだけだった。肌を見せてしまった事を気にしているのは自分だけか、とエミリアは小さくため息をついた。
「……そろそろ部屋に戻って今後の段取りを話そう」
そう言った名無しは、元々乏しい表情がさらに読み取りづらくなっていた。一行は食堂を
後にして部屋に戻ると、ライアンとエミリアの部屋に集合した。
「さて、これからの予定だが……私は買い物をしようと思う」
「ライアン!? 国境を突破しないと……」
「はぁ……ライアン様……」
ライアンの突然の宣言に、エミリアは驚いた声を出しフレドリックはため息をつきながら頭を抱えた。
「何がおかしい。この機を逃せば私は一生人民の暮らしぶりを目にする事はないのだ」
「お気持ちは分かりますが……」
ライアンはなにも我が儘だけで言っている訳では無かった。その命を狙われ、王宮を出てはじめて目にした外の世界でライアンは皮肉にも自分の国の民の姿を知った。そしてアーロイスの居る限り、二度と目にすることのないのだ。
「いいんじゃないか」
ぽつりと口を開いたのは名無しだった。一番反対しそうな名無しの意外な発言に一行の視線が彼に集まった。
「俺は正規の手段で国境の関を通れない。暗闇が街を覆うまで待って突破する。その間は聖都で三人になってしまう」
「その時間は短いほどいい……ということですかな」
「ああ。関所の閉まるぎりぎりまでは当面やることはない」
それを聞いたライアンはニンマリと笑った。
「で、あればその時間を無為に過ごすことは無かろう」
「ライアン様……迷子は絶対ダメですからね……」
「分かっておる!」
フレドリックは眉根を寄せて、ライアンに言い含めた。鬱陶しそうに返事をしながらもライアンは嬉しそうだった。その笑顔に思わずエミリアの顔もほころんだ。
「……あんたは? どうする?」
「え? 私ですか?」
名無しはエミリアに問いかけた。エミリアはしばらく考え込んだ。自分の場合は昨夜襲撃相手を撃退している。
「尼僧は華美だったり多くの私物を持つのはよくないとされていますが……ちょっと……気にはなります」
エミリアは一人、巡礼者のローブを纏って街を巡ってきたが、旅の必需品を買うくらいでその格好で普通の村娘のように店を冷やかしたりは出来なかった。
「なら付いて行くか」
「はい……」
そんな訳で三人は荷をまとめると、関所の閉まる直前の時間まで街で時間を潰すことになった。
「ライアン様は一体どこに行く気なのですか?」
宿を出たフレドリックがライアンに聞いた。
「決めておらん」
「そ、そうですか……」
「ただ、今のうちに目に焼き付けておきたいのだ……」
「分かりました。お供します」
それから四人は街の大通りへと出た。国境最後の街とだけあって商店の規模も大きく、土産物屋なども並んでいる。
「肉屋に八百屋……衣料に靴や小物に本に玩具に……人の生活が詰まってるな」
「さようですね」
ライアンは感慨深げにその街なみを見つめた。ときおりその表情を曇らせながら。
「さぁ、陽気な曲のリクエストをいただきました、みなさんご存じの……」
通りの中央にはオルガン弾きが曲を披露していた。その曲に周囲の人々は一緒に歌ったり、小さい子供達はくるくる回ったりした。
「……ふふ」
ライアンは楽しげにその様子を見て微笑んだ。フレドリックはその様子を見てオルガン弾きに少々大目の投げ銭をしてやった。
「旦那様がた! よい旅を!」
帽子を取って深々と挨拶するオルガン弾きを後にして、四人は土産物のエリアにたどり着いた。
「あ、これ……」
それぞれ店先を冷やかしていたが、エミリアがふと足を止めた。それは庶民向けの小間物屋兼化粧品屋で、そこからふと香ってきた香りにエミリアは覚えがあった。
「お嬢さん、この街の名物の軟膏だよ。試してみるかい?」
「あ……昨日宿でちょっと使ってみました」
そこでエミリアは宿で後で買おうと思っていたのにうやむやになっていた事を思い出した。
「そうかい、宿だとぼったくられるからウチで買った方がいいよ!」
「そ、そうですか……」
威勢のいい店のおかみさんの売り文句に、エミリアは苦笑した。
「それ買うのか?」
「ええ、これくらいなら教会に持ち込んでも……香りも良かったです。私は好きです」
「ふうん」
名無しはエミリアの持っていた軟膏の容器をひょいと掴んだ。爽やかなハーブ主体の香りはエミリアらしいと思った。少なくとも以前にいった隣町の女給の付けていた香水よりよっぽどましだ。無言で匂いを嗅いでいる名無しにエミリアは怖々と聞いた。
「……嫌いですか、こういうの」
「いいや。ただ……」
「なんですか」
「クロエにはまだこういうのは早いな」
「そっちですか……」
エミリアはちょっと脱力して、こんな時もクロエの話になるのか、と思った。だがその直後にあんな小さなクロエに張り合ってどうする、と思った。
若干苛立ちを隠せない声色を出したのはライアンだった。エミリアは一言も発さず、食堂の片隅で朝食の席はなんとも言えない空気に包まれていた。
「……この街が最後の街なのだ。私はこんな辛気くさいのはごめんだな」
「ご、ごめんなさい」
ようやくエミリアは絞り出すような声を出した。そう、この街が最後なのだ。四人揃っての旅もライアンとエミリアが襲撃の危険こそあれ、街という俗世にいられるのも。
「……」
エミリアはちらりと名無しを見たが、名無しは素知らぬ顔で朝食を食べているだけだった。肌を見せてしまった事を気にしているのは自分だけか、とエミリアは小さくため息をついた。
「……そろそろ部屋に戻って今後の段取りを話そう」
そう言った名無しは、元々乏しい表情がさらに読み取りづらくなっていた。一行は食堂を
後にして部屋に戻ると、ライアンとエミリアの部屋に集合した。
「さて、これからの予定だが……私は買い物をしようと思う」
「ライアン!? 国境を突破しないと……」
「はぁ……ライアン様……」
ライアンの突然の宣言に、エミリアは驚いた声を出しフレドリックはため息をつきながら頭を抱えた。
「何がおかしい。この機を逃せば私は一生人民の暮らしぶりを目にする事はないのだ」
「お気持ちは分かりますが……」
ライアンはなにも我が儘だけで言っている訳では無かった。その命を狙われ、王宮を出てはじめて目にした外の世界でライアンは皮肉にも自分の国の民の姿を知った。そしてアーロイスの居る限り、二度と目にすることのないのだ。
「いいんじゃないか」
ぽつりと口を開いたのは名無しだった。一番反対しそうな名無しの意外な発言に一行の視線が彼に集まった。
「俺は正規の手段で国境の関を通れない。暗闇が街を覆うまで待って突破する。その間は聖都で三人になってしまう」
「その時間は短いほどいい……ということですかな」
「ああ。関所の閉まるぎりぎりまでは当面やることはない」
それを聞いたライアンはニンマリと笑った。
「で、あればその時間を無為に過ごすことは無かろう」
「ライアン様……迷子は絶対ダメですからね……」
「分かっておる!」
フレドリックは眉根を寄せて、ライアンに言い含めた。鬱陶しそうに返事をしながらもライアンは嬉しそうだった。その笑顔に思わずエミリアの顔もほころんだ。
「……あんたは? どうする?」
「え? 私ですか?」
名無しはエミリアに問いかけた。エミリアはしばらく考え込んだ。自分の場合は昨夜襲撃相手を撃退している。
「尼僧は華美だったり多くの私物を持つのはよくないとされていますが……ちょっと……気にはなります」
エミリアは一人、巡礼者のローブを纏って街を巡ってきたが、旅の必需品を買うくらいでその格好で普通の村娘のように店を冷やかしたりは出来なかった。
「なら付いて行くか」
「はい……」
そんな訳で三人は荷をまとめると、関所の閉まる直前の時間まで街で時間を潰すことになった。
「ライアン様は一体どこに行く気なのですか?」
宿を出たフレドリックがライアンに聞いた。
「決めておらん」
「そ、そうですか……」
「ただ、今のうちに目に焼き付けておきたいのだ……」
「分かりました。お供します」
それから四人は街の大通りへと出た。国境最後の街とだけあって商店の規模も大きく、土産物屋なども並んでいる。
「肉屋に八百屋……衣料に靴や小物に本に玩具に……人の生活が詰まってるな」
「さようですね」
ライアンは感慨深げにその街なみを見つめた。ときおりその表情を曇らせながら。
「さぁ、陽気な曲のリクエストをいただきました、みなさんご存じの……」
通りの中央にはオルガン弾きが曲を披露していた。その曲に周囲の人々は一緒に歌ったり、小さい子供達はくるくる回ったりした。
「……ふふ」
ライアンは楽しげにその様子を見て微笑んだ。フレドリックはその様子を見てオルガン弾きに少々大目の投げ銭をしてやった。
「旦那様がた! よい旅を!」
帽子を取って深々と挨拶するオルガン弾きを後にして、四人は土産物のエリアにたどり着いた。
「あ、これ……」
それぞれ店先を冷やかしていたが、エミリアがふと足を止めた。それは庶民向けの小間物屋兼化粧品屋で、そこからふと香ってきた香りにエミリアは覚えがあった。
「お嬢さん、この街の名物の軟膏だよ。試してみるかい?」
「あ……昨日宿でちょっと使ってみました」
そこでエミリアは宿で後で買おうと思っていたのにうやむやになっていた事を思い出した。
「そうかい、宿だとぼったくられるからウチで買った方がいいよ!」
「そ、そうですか……」
威勢のいい店のおかみさんの売り文句に、エミリアは苦笑した。
「それ買うのか?」
「ええ、これくらいなら教会に持ち込んでも……香りも良かったです。私は好きです」
「ふうん」
名無しはエミリアの持っていた軟膏の容器をひょいと掴んだ。爽やかなハーブ主体の香りはエミリアらしいと思った。少なくとも以前にいった隣町の女給の付けていた香水よりよっぽどましだ。無言で匂いを嗅いでいる名無しにエミリアは怖々と聞いた。
「……嫌いですか、こういうの」
「いいや。ただ……」
「なんですか」
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