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5話 商人レイモンド
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「……ふん」
アシュレイは鼻をならしてソファにどかっと腰掛けた。
「……ゴーレムお茶を」
「ここここ!」
てけてけとゴーレムがお茶を淹れて持って来た。それを一口飲んでアシュレイは顔をしかめた。
「ぬるい。薄い」
「ここここ!」
「……はぁ」
アシュレイは自然とマイアの淹れるお茶と比べている自分にため息を吐いた。その時である。家の扉が激しく叩かれた。
「あのー! ランブレイユの森のアシュレイ様のお宅はこちらでしょうか!」
「……騒がしい!!」
虫の居所が悪かったアシュレイはドアを開けるなり、声の主を怒鳴りつけた。
「うわっ……」
そこには黒髪に小枝や蜘蛛の巣を貼り付けて、あちこちに泥をつけた男が立っていた。ただ着ているものはそこそこ良いもので、どこかのお坊ちゃんといった感じだ。
「なんだ君は」
「はい、僕はレイモンド・フローリオと申します」
礼儀正しく答えた彼は何故か方位磁針を握りしめている。
「なんの用だ」
「お願いします……! 僕の呪いを解いてください! 解呪の魔法に詳しいアシュレイ様なら、きっとこの呪いを解けると聞いて必死でやって参りました」
「そうか……もう安心しろ」
アシュレイは男の前に立ちはだかると腰に手をあてて自信たっぷりに堂々と答えた。
「なぜなら! ランブレイユのアシュレイは古今東西の魔法に通じた大天才だからな!」
「あの……もしかしてあなたが……?」
「そうだ、俺がアシュレイだ」
「……もっとお爺さんかと思ってました」
「ははは、人を見た目で判断してはいかんぞ、若者。まあいい中に入れ」
アシュレイはレイモンドを家の中に招き入れた。するとレイモンドはあさっての方向に歩き出した。
「おいおい、何をしているんだ」
「はい! そっちに行きたいんですけど……僕『方向音痴の呪い』にかかってまして!」
「ああ、もう!」
アシュレイはレイモンドの肩を掴んで家の中にいれ、ソファに座らせた。
「マイア! マイア! 客だ、来てくれ」
そしてマイアを呼ぶ。しばらくするとマイアはどんよりした顔で現れた。その目はちょっと赤い。もしかしたら泣いていたのかもしれない。
「なんですか……」
「客にお茶を淹れてくれ」
「はぁい」
マイアはゴーレムみたいに生気のない様子でお茶を淹れはじめた。それを横目で見ながら、アシュレイはレイモンドに事情を聞くことにした。
「呪いとはまた物騒な。一体何をしたんだ?」
「それが……黒の森の近くを通った時に荷物が崩れてしまいまして、それを拾いに行ったところ黒の魔女のテリトリーに入ってしまったんです」
「あの黒の魔女か……」
その魔女の事はアシュレイも知っていた。気まぐれな上に自分以上の人嫌い。自分のテリトリーに無断で入られる事をなにより嫌う魔女である。
「よく命があったな」
「それはみんなに言われました。不幸中の幸いだと……。でも僕、商人なんです。まだ駆け出しですけど、こんな行きたい方向にいけないんじゃ仕事になりません」
「それで俺の所に来た、と」
「はい……家の者は黒の魔女の呪いなど解けないと信用しませんでしたが、噂を聞いていてもたってもいられず……」
「分かった、今解いてやる」
アシュレイはレイモンドの頭を掴んだ。
「光の霊よ、我に力を与え邪法の楔を打ち破れ」
パシン、と何かがひび割れるような音がして光が輝いた。
「……これでもう大丈夫なはずだ」
はっと意識を取り戻したレイモンドは立ち上がり、家の中をぐるぐると歩いた。
「ああ! 本当だ! 行きたい方向にちゃんと進める!」
「うむ」
「ありがとうございます!!」
レイモンドはアシュレイの手を掴んでぶんぶん振った。
「落ち着け。さあお茶でも飲んで」
「ありがとうございます」
マイアはレイモンドにお茶を差し出した。レイモンドはそれを一口飲んでようやく落ち着いたようだ。
「……こちら謝礼でございます」
そしてアシュレイに皮袋を差し出した。アシュレイはその中身を確かめるとレイモンドにそれを突き返した。
「多すぎる。半分でいい」
「で……でも! 本当に助かったので」
「いらん」
「しかし……」
レイモンドは困ったように視線を泳がせた。そしてはたとテーブルの上のものを見て動きを止めた。
「あれ、なんですか」
「あれか。魔道具だ。一般人でも扱える魔道具だと」
「それはすごい! 特注品ですか?」
「いや、あれはこの弟子のマイアが試作したものだ」
レイモンドは信じられないという様子でマイアを見つめた。
「君が……? 君みたいな女の子が……」
「悪いですか?」
マイアはぶすっとして答えた。レイモンドは慌てて言葉を付け足した。
「いや、こんなに若いのに大したものだと」
「……でも作っても私にはこれを誰に売るのか分かりませんから」
「へえ……? ところでこれはどう使うんです?」
「口から発した言葉を書き写す事が出来る道具です」
「ふむ……」
レイモンドはしばらく考え込んだ。そしてポンと膝を打つと、こう答えた。
「そうだ。お礼にこれを売ってきましょう」
「え?」
「僕に当てがあります。きっといい値段で売れますよ」
「いいんですか?」
マイアがそう聞くとレイモンドは頷いた。
「はい。僕は商人です! もちろん手数料はいただきますが」
「かっ、かまいません」
マイアは頬を紅潮させて答えた。そんなマイアにレイモンドは問いかけた。
「他に魔道具は作ってるんですか?」
「いえ、それが初めて作ったもので」
「なるほど……じゃあ、また作ったら教えてください。ティオールの街のフローリオ商会の第二支店に僕は居ます」
「まあ」
レイモンドはそう言い残して、ゴーレムの腕を抱えながら何度もアシュレイに頭を下げて帰って行った。
その姿が見えなくなったところでマイアは呟いた。
「……アシュレイさん」
「うん……?」
「これ、仕事ですよね」
「う、うむ……そうだな」
渋々アシュレイが頷くと、マイアはにっこりと微笑んだ。
「これで私、仕事を手にいれましたね!」
明るいマイアの声が、家中に響き渡った。感情などないはずのゴーレム達も心なしか嬉しそうにマイアの周りに集まった。
アシュレイは鼻をならしてソファにどかっと腰掛けた。
「……ゴーレムお茶を」
「ここここ!」
てけてけとゴーレムがお茶を淹れて持って来た。それを一口飲んでアシュレイは顔をしかめた。
「ぬるい。薄い」
「ここここ!」
「……はぁ」
アシュレイは自然とマイアの淹れるお茶と比べている自分にため息を吐いた。その時である。家の扉が激しく叩かれた。
「あのー! ランブレイユの森のアシュレイ様のお宅はこちらでしょうか!」
「……騒がしい!!」
虫の居所が悪かったアシュレイはドアを開けるなり、声の主を怒鳴りつけた。
「うわっ……」
そこには黒髪に小枝や蜘蛛の巣を貼り付けて、あちこちに泥をつけた男が立っていた。ただ着ているものはそこそこ良いもので、どこかのお坊ちゃんといった感じだ。
「なんだ君は」
「はい、僕はレイモンド・フローリオと申します」
礼儀正しく答えた彼は何故か方位磁針を握りしめている。
「なんの用だ」
「お願いします……! 僕の呪いを解いてください! 解呪の魔法に詳しいアシュレイ様なら、きっとこの呪いを解けると聞いて必死でやって参りました」
「そうか……もう安心しろ」
アシュレイは男の前に立ちはだかると腰に手をあてて自信たっぷりに堂々と答えた。
「なぜなら! ランブレイユのアシュレイは古今東西の魔法に通じた大天才だからな!」
「あの……もしかしてあなたが……?」
「そうだ、俺がアシュレイだ」
「……もっとお爺さんかと思ってました」
「ははは、人を見た目で判断してはいかんぞ、若者。まあいい中に入れ」
アシュレイはレイモンドを家の中に招き入れた。するとレイモンドはあさっての方向に歩き出した。
「おいおい、何をしているんだ」
「はい! そっちに行きたいんですけど……僕『方向音痴の呪い』にかかってまして!」
「ああ、もう!」
アシュレイはレイモンドの肩を掴んで家の中にいれ、ソファに座らせた。
「マイア! マイア! 客だ、来てくれ」
そしてマイアを呼ぶ。しばらくするとマイアはどんよりした顔で現れた。その目はちょっと赤い。もしかしたら泣いていたのかもしれない。
「なんですか……」
「客にお茶を淹れてくれ」
「はぁい」
マイアはゴーレムみたいに生気のない様子でお茶を淹れはじめた。それを横目で見ながら、アシュレイはレイモンドに事情を聞くことにした。
「呪いとはまた物騒な。一体何をしたんだ?」
「それが……黒の森の近くを通った時に荷物が崩れてしまいまして、それを拾いに行ったところ黒の魔女のテリトリーに入ってしまったんです」
「あの黒の魔女か……」
その魔女の事はアシュレイも知っていた。気まぐれな上に自分以上の人嫌い。自分のテリトリーに無断で入られる事をなにより嫌う魔女である。
「よく命があったな」
「それはみんなに言われました。不幸中の幸いだと……。でも僕、商人なんです。まだ駆け出しですけど、こんな行きたい方向にいけないんじゃ仕事になりません」
「それで俺の所に来た、と」
「はい……家の者は黒の魔女の呪いなど解けないと信用しませんでしたが、噂を聞いていてもたってもいられず……」
「分かった、今解いてやる」
アシュレイはレイモンドの頭を掴んだ。
「光の霊よ、我に力を与え邪法の楔を打ち破れ」
パシン、と何かがひび割れるような音がして光が輝いた。
「……これでもう大丈夫なはずだ」
はっと意識を取り戻したレイモンドは立ち上がり、家の中をぐるぐると歩いた。
「ああ! 本当だ! 行きたい方向にちゃんと進める!」
「うむ」
「ありがとうございます!!」
レイモンドはアシュレイの手を掴んでぶんぶん振った。
「落ち着け。さあお茶でも飲んで」
「ありがとうございます」
マイアはレイモンドにお茶を差し出した。レイモンドはそれを一口飲んでようやく落ち着いたようだ。
「……こちら謝礼でございます」
そしてアシュレイに皮袋を差し出した。アシュレイはその中身を確かめるとレイモンドにそれを突き返した。
「多すぎる。半分でいい」
「で……でも! 本当に助かったので」
「いらん」
「しかし……」
レイモンドは困ったように視線を泳がせた。そしてはたとテーブルの上のものを見て動きを止めた。
「あれ、なんですか」
「あれか。魔道具だ。一般人でも扱える魔道具だと」
「それはすごい! 特注品ですか?」
「いや、あれはこの弟子のマイアが試作したものだ」
レイモンドは信じられないという様子でマイアを見つめた。
「君が……? 君みたいな女の子が……」
「悪いですか?」
マイアはぶすっとして答えた。レイモンドは慌てて言葉を付け足した。
「いや、こんなに若いのに大したものだと」
「……でも作っても私にはこれを誰に売るのか分かりませんから」
「へえ……? ところでこれはどう使うんです?」
「口から発した言葉を書き写す事が出来る道具です」
「ふむ……」
レイモンドはしばらく考え込んだ。そしてポンと膝を打つと、こう答えた。
「そうだ。お礼にこれを売ってきましょう」
「え?」
「僕に当てがあります。きっといい値段で売れますよ」
「いいんですか?」
マイアがそう聞くとレイモンドは頷いた。
「はい。僕は商人です! もちろん手数料はいただきますが」
「かっ、かまいません」
マイアは頬を紅潮させて答えた。そんなマイアにレイモンドは問いかけた。
「他に魔道具は作ってるんですか?」
「いえ、それが初めて作ったもので」
「なるほど……じゃあ、また作ったら教えてください。ティオールの街のフローリオ商会の第二支店に僕は居ます」
「まあ」
レイモンドはそう言い残して、ゴーレムの腕を抱えながら何度もアシュレイに頭を下げて帰って行った。
その姿が見えなくなったところでマイアは呟いた。
「……アシュレイさん」
「うん……?」
「これ、仕事ですよね」
「う、うむ……そうだな」
渋々アシュレイが頷くと、マイアはにっこりと微笑んだ。
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