マイアの魔道具工房~家から追い出されそうになった新米魔道具師ですが私はお師匠様とこのまま一緒に暮らしたい!~

高井うしお

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47話 仕事をこなす

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 次の日、マイアはレイモンドの元に向かった。フローリオ商会の前に差しかった所で、マイアは馬車から降り立ったレイモンドの父親サミュエルとばったりと会った。

「どうもこんにちは」
「やあ、ごきげんようマイアさん」

 レイモンドと同じ黒髪の紳士は帽子を取ってマイアに挨拶した。

「ヒギンズ家はどうですか?」
「あ、ええ。よくして貰ってます」
「そうか、気に入らなかったらいつでもうちに来ていいですよ」
「はあ……」
「マイアさんみたいな人ならうちは大歓迎だからね」

 マイアが戸惑いながら応対していると、はす向かいの第二支店から猛然とレイモンドが駆けてきた。

「父さん!」
「あ、怖いのが来た。ではまた!」

 逃げるようにして本店の中に入っていったサミュエルをマイアが見ていると、追いついたレイモンドが深いため息をついた。

「まったく……マイアさん、何を言われましたか?」
「え、その……フローリオ家に来てもいいって……」
「まだそんな事言ってるのか……」

 父親の言動に振り回されているレイモンドはいつものにこやかで落ち着いた雰囲気とは違っていた。その様子にマイアはつい吹きだしてしまう。

「あ、ごめんなさい」
「いえ……。その、思ったより元気そうで良かった」
「はい」

 レイモンドはどんよりと物思いを背負ったマイアがやってくるのを覚悟していたので、案外普通そうに見えるマイアにちょっとほっとした。

「中にどうぞ」

 レイモンドはマイアをいつもの商談室に通した。運ばれてきたお茶を一口飲んで、レイモンドはマイアの送ったメモを胸ポケットから取り出した。

「仕事が欲しいってことでしたね」
「はい。まずは生活する分と、銀行に設立した基金の分、働いて稼がないと」
「そうですか。僕もそうしてくれた方が助かりますけどね……」

 レイモンドは抱えていた帳面を開いた。するとそこにはずらっと依頼内容と依頼人の名前がリストになっていた。

「わ、すごい……」
「あの劇場の照明を見てくれた人から依頼が殺到してましてね」
「一日くらいしか経ってませんよ?」
「ええ。それだけみなさん大注目だったって事です。あの場で申し込みしている人もいたでしょう?」
「そ、そうでしたっけ……」

 マイアはあの夜は舞い上がっていて、囲まれた時の会話はほとんど覚えて居なかった。

「すみません、ぼーっとしてて……」
「ははは、マイアさんらしいですね。ま、いいです。で、一応保留で受付したのがこのリストです。中にはこれはちょっとってのもありますので、マイアさんのお眼鏡にかなった依頼をこなしてもらえれば」
「いいんですか、そんなんで」
「ええ。もうマイアさんの魔道具は欲しがる人でいっぱいです。皆さんその条件で受けてもらってますから」

 レイモンドは誇らしげにびっしり書き込まれた帳面を閉じた。

「マイアさん。あなたはもう無名じゃありません。あなたの仕事がそうさせたんです。自信を持ってください」
「は、はい。わかりました……とりあえず手持ちの魔石で出来そうなものをやってみます」
「あ、そうだ。作業場としてオーヴィルさんが研究所の一角を貸してくださるそうです」
「本当ですか! それは助かります。さすがにアビゲイルの家を木くずだらけにする訳にはいかないなと思ってたので……」

 レイモンドは、マイアが森の家を出てからすぐに動いていた。アビゲイルの家でゆっくり過ごすのもいいとは思っていたが、マイアのことだからきっと手を動かしていた方が気が紛れるだろうと思ったのだ。

「……レイモンドさん、ありがとうございます。その……私、嬉しいです」
「それはどうも。どうです、僕は頼りになるでしょう?」

 おどけて答えるレイモンドに、マイアは深く頷いた。魔道具作りで育んだ信頼関係は本物の絆だ。

「はい。レイモンドさんと仕事ができて私は幸運です」
「……僕も……マイアさんに出会えて幸運ですとも」

 二人は顔を合わせて微笑んだ。そしてレイモンドは顧客のリストをマイアに手渡した。

「この中からこの人の依頼に答えてあげたいっていう案件を選んでください。あなたの魔道具は人を幸せにする力があります」
「……わかりました!」

 マイアはその帳面を受け取って力強く答えた。



 そしてその頃、ランブレイユの森の家ではアシュレイがぼんやりとソファーに座っていた。

「ゴーレムお茶を……あ、いい俺がやる」
「ここここ!」

 アシュレイは自分でお茶を淹れた。以前ゴーレムに淹れさせたお茶がまずかったのを思い出したのだ。

「あっつ!」

 そして自分のお茶を飲んで、あまりの熱さに叫んだ。

「ここここ!」

 が、答えるのはゴーレムのみ。アシュレイは飲めないくらい熱いお茶をとりあえずテーブルに置いてソファーに寝転んだ。その周りには自室から引っ張り出した本や書き付けが散らばり、台所は使った食器や調理器具がそのまま流しに放り込まれている。

『おーい』
「……カイルか」

 すると居間の窓を叩いて、外からカイルが中をのぞき込んでいた。

『結界を解いてくれよ』
「いやだね」
『しかたないな……ちょっとは外に出たほうがいいぞー』
「……余計なお世話だ」

 アシュレイは激しく両手を叩いてより結界を強くした。その勢いで家に触れていたカイルが吹っ飛んでいく。

『こらー!』
「……はあ」

 アシュレイはため息をつくと、自分の周りを見渡した。

「片付けるか」

 そう呟いてのろのろと身の回りをものをしまい、台所を片付けた。強大な魔力でこんなものなどその気になれば一瞬なのだ。ただやる気がないだけで。
 片付けの終わった家の中を見渡して、アシュレイはこんなに広い家だったろうかと思った。マイアが居ない。だたそれだけでこんなにも、がらんと寂しい場所になってしまった森の家。

「……元に戻っただけだ」

 アシュレイは誰もいないのに、そう一人呟いていた。
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